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1-28 屋上 [同調(シンクロ)Ⅱ-恨みの色-]

下川医師の行方は依然つかめていなかった。診療時間が終わったところで看護師たちも加わって院内を細かく探し始めていた。
一樹を亜美はレイを伴って、病院の屋上へ行った。屋上の現場は、事故後、しばらくの間、規制線が張られていたが、現場検証も終わり、今はすっかり以前の状態に戻っていた。
「この扉から、まっすぐ、佐原氏は歩いて、自ら金網を乗り越え、落下した。屋上の監視カメラの映像はそうなっていた。」
一樹は、屋上の真ん中に立って、監視カメラと金網を指さしながら説明した。
レイは、扉の上にある監視カメラの真下に立って、一樹の説明を聞いた。
亜美は、レイの傍に立っていた。レイは、先ほど感じた思念波の波長を頭に浮かべながら、そっと目を閉じた。
ドクンと心臓が鳴った。そして、頭の中が、強い思念波で揺さぶられるような感覚になる。立っていられないほど、何かに押しつぶされそうな感覚だった。蹲る。亜美が駆け寄り、肩を抱く。
「大丈夫?」
そう声を掛けた亜美も、レイの体を通じて、強い思念波を受け取った。気持ち悪くなるような、頭の中がぐるぐると回る、途轍もない感覚だった。
「止めるんだ!」
一樹が二人の肩を揺さぶり、正気に戻そうとする。三人がばたりと倒れ込んだ。
暫くして、レイが目を開けた。ほぼ同時に、亜美も目を開けた。
「二人とも大丈夫か?」
レイも亜美も小さく頷いた。
「何・・あれは・・真っ赤な炎・・血飛沫・・怖い・・。」
亜美は言葉にならない。レイは深呼吸してから口を開いた。
「おそらく、あれは恨みの元の光景。」
「放火殺人・・という事か?」
一樹が訊く。
「そして、恨みを抱いているのは、女性。きっと子どもの頃、そんな目に遭ったのよ。」
レイが言う。
「子どもの頃、放火殺人に巻き込まれた。そしてその犯人が佐原氏だという事か?」
「直接的な犯人かどうかは判らないけど、何か関係している事は確かでしょう。」
レイの言葉に亜美がようやく正気を取り戻したようだった。
「ものすごく残酷な光景よ。子どもがあの中に居たのなら、正気を失うわ。酷い・・。」
亜美は涙を流している。
「そして、その女性は、あの場所に立っていた。佐原氏が自殺するのを見届けるように。」
レイは冷静に答える。
「誰かは判らないか?」
「いえ・・そこまでは・・ただ、おそらく、看護師でしょうね。」
レイは悲しげに答えた。

一樹と亜美は、レイとともに院内へ戻った。
院長室に戻ると、署長がレイの母ルイとともに待っていた。
「レイ、大丈夫?」
声を掛けたのはルイだった。ルイも同じ時刻に強い思念波を感じたため、紀藤に連絡をしていた。レイが屋上で思念波を使って現場を確認している事を知り、心配になって駆け付けたのだった。
「ええ・・もう大丈夫よ。お母さんも感じたんでしょう?」
「ええ、そうなの。また、悲しい事件が起きるんじゃないかと思って紀藤さんに連絡をしたの。」
レイが感じた思念波は間違いないものだった。
「それで、屋上ではどうだった?」
紀藤署長が訊く。
屋上での事を全て一樹が説明した。
「そうか・・やはり、佐原氏は自殺教唆で間違いなさそうだな。で、その女性は特定できそうか?」
「いえ・・そこまでは・・それに、思念波を感じたとしても、それは自殺教唆を立証できるものではありません。やはり、あの場所に確かに人がいたと立証しないことには・・」
「そうだな。」
紀藤は、そう言うと、腕組みして溜息をついた。
しばらく沈黙が続いてあと、レイが口を開いた。
「上村さんが自殺した場所へ連れて行ってもらえませんか?」
亜美が驚いて「あんなに苦しい思いをするのよ。止めた方が良いわ。」と反対した。
「気になることがあるんです。」
レイが言うと、ルイも頷いた。
「佐原さんの自殺の時も、その後の二度も、病院の中で思念波を感じたんです。恨みを抱いている人は、この病院の中にいるのは間違いありません。でも、上村さんは豊城川で自殺をされたんでしょう?もし、その人が佐原さんと同じように自殺を迫ったとしたら、病院の中で感じるなんておかしいんです。」
「では、上村さんの自殺は別の誰かが関与しているという事か?」
一樹が訊いた。
「判りません。だから、その場所に行けば、何かわかると思うんです。」
レイはきっぱりと言った。
「いや・・その恨みを持つ女性だけで、佐原氏を自殺に追い込んだと決めつけるのはどうだろう。誰かが協力しているという事もある。・そうだ、下川医師とこの病院の看護師の誰かが協力しているという事も考えられる。」
一樹が言うと、亜美が言った。
「でも、下川医師は学会で不在だった。上村氏の自殺には関係していないと考えるべきじゃないかしら。」
「そうだな・・・いまだに行方知れずというのも気がかりだしな。」
一樹はため息をつくように言った。
「判った。矢沢と亜美は、レイさんを豊城の現場へ案内してくれ。片時も傍を離れず注意するように。とにかく、無理だけはしないように、判ったな。」
そう言ったのは、紀藤署長だった。
「いいかな、ルイさん。辛い思いをするのは避けたいが、これ以上の犠牲を出さない事も大事だ。」
ルイは紀藤の言葉を受け入れた。
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