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1-29 牛洗いの滝 [同調(シンクロ)Ⅱ-恨みの色-]

翌日には、レイを伴って、一樹と亜美は豊城の現場へ向かった。遺体が発見されたことから、自殺を図った現場はすでに規制線は撤去され、普段通りに立ち入ることができた。
「ここから上村氏は豊城川へ身を投げたらしい。そこの足元に、上着と遺書が置かれていたようだ。いずれも秘書の安永氏の供述の範囲なんだが・・。」
一樹はそう説明しながら、レイを誘導する。
亜美はレイの腕を組み、ゆっくりと現場へ進んだ。
レイは、上村氏が身を投げたと推定される場所に立ち、思念波を感じるため、目を閉じる。
亜美はレイの様子を注意深く見守った。
レイは一心に、僅かに残っている思念波を捉えようとしている。一分ほどが過ぎた時、目を開けて言った。
「だめ。・・この場所には何も感じない・・本当にここなの?・・」
「時間が経っているからじゃないか?」
一樹が問うが、レイが首を横に振った。
「上村さんがここで身を投げたのなら、何かの痕跡は感じるはず。落ちていく恐怖とか、無念さとか、でも全く感じない。・・それに、病院で感じた思念波は全く感じられない。」
「ここが現場じゃないっていうことになると・・・。」
一樹が考える。
「レイさん、ここじゃないなら、この近くに何か感じないの?」
亜美が訊く。
レイは、亜美の言葉を聞き、豊城川の流れに視線を落とした。ゆったりとした流れ、レイは下流から上流へ支援を向ける。そして、僅かに残っているはずの思念波を再び捉えようとしていた。
「・・ああ・・あの先・・あのあたり・・・。」
レイは、そう言って上流を指さした。
そこには、牛洗いの滝と呼ばれる小さな滝があった。
「あのあたりに思念波を感じるわ。きっとあそこに何かあるわ。」

一樹たちはすぐにレイの指さす先へ向かう事にした。
牛洗いの滝は、幅が10メートルほどで落差は5メートル程度の小さな滝だった。県道脇に豊城川へ降りる小道があるが、舗道はなく、川岸をつたって辿り着く場所だった。
川岸に出ると、レイの様子が変わった。しきりに頭を抱えるようになり、次第に、目も開けていられない様になった。そして、ついにふらつき始める。
「これ以上は無理だ。」
一樹が足を止めると、レイはその場で蹲ってしまった。
「ここ・・この場所で・・何かあったみたい。・・強い恨みを感じるわ。・・」
レイは、地面に手を当て、思念波を感じ続けている。
「同じ女性なの?」と亜美が訊く。
「いえ・・違うわ。・・これは・・あの女性のものとは違う・・もっと邪悪な強い念を感じる・・。」
そう言うと、レイはそのまま気を失ってしまった。
一樹はレイを抱え、県道わきに止めた車に戻り、レイを助手席に乗せて休ませた。
「亜美、レイさんが目を覚ますまで傍に居てやれ。俺はもうもう一度現場を見てくる。」
一樹はそう言い残すと、再び、牛洗いの滝へ戻ってみた。

「この辺りだったな・・。」
一樹はそう言いながら、川岸を注意深く見て回った。滝までは比較的歩きやすい岩場は続いている。見上げると、豊城公園の展望台がわずかに見える。
「あの日は前日の雨で増水していたはずだ。この岩場は・・」と言いながら、下を流れる川面を覗き込んでみた。岩の僅か下あたりに増水した時に着いたと思われる跡が見える。
「増水していても、ここは渡れるようだな。・・レイが言った通り、ここで上村氏と誰かが諍い、上村氏を突き落としたとしたらどうだろう。」
そう言いながら、川面を眺めていると、上流から倒木が1本流れてきた。そのまま、見ていると、倒木は流れに乗り、展望台の真下あたりまで流れていく。
「やはり、ここから激しい流れに突き落とされたようだな。」
一樹はすぐに合同本部に居る鳥山課長に連絡した。
「レイさんが牛洗いの滝の岸辺で強い思念波を感じたんです。・・おそらく、上村氏は自殺じゃなく、他殺でしょう。この周辺で何か痕跡がないか、一通り見てみましたが、日数も経っていて、これと言った手掛かりはありません。もっと詳しく調べてもらえませんか。」
「わかった、すぐに、鑑識班を向かわせよう。お前たちは、周辺で目撃者はないか、聞き込みを頼む。」
既に署長から、レイが上村氏の自殺現場に行くことは伝わっていたようで、鳥山課長はすぐに承諾した。

一樹は県道に上がり、亜美たちの待つ車へ急いだ。
「まだ、目を覚まさないわ。」
レイの手を取りながら心配そうに見つめる亜美が言った。
「わずかな思念波も感じようとして、無理をしたんだろう。もうしばらく、そのままにしておいてやれ。俺は、この周辺の聞き込みをしてくる。」
一樹はそう言うと、車を離れた。
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