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2-1 北海道の事件 [同調(シンクロ)Ⅱ-恨みの色-]

「大まかに話しますと・・」と森田が前置きして、いくつかの写真をホワイトボードに貼りだした。
「事件は、帯広市郊外の牧場を営む一家で発生しました。世帯主は佐藤健一郎50歳、その妻、智子32歳、健一郎の父の源次郎と母親のつた、そして、健一郎の長男の一馬は10歳、長女、優香は5歳の6人家族でした。」
ホワイトボードに写真が次々に貼りだされる。
「1990年8月10日の深夜、佐藤牧場の納屋から出火。近隣には住宅はなく、火の手が大きくなった頃にようやく火災が発見され、消防が到着した時には手が付けられない状態だったようです。焼け跡から、世帯主の佐藤健一郎が焼死体で発見されました。消防の調べでは、灯油を被って焼死したという見解が出されています。そして、母屋からは、祖父・祖母・妻・長男の4人が斧のような凶器で斬殺された遺体が発見されました。状況から、健一郎が無理心中を図ったと判断されたようです。」
松山が説明した。
「おい・・それだけで、無理心中ってのはおかしいだろう?」
一樹が訊いた。
「ええ・・ですが、当時、佐藤牧場には多額の借金がありました。牧場経営の破たんによる借金を苦にしての自殺だろうとの事でした。・・この時期、酪農経営はどこも厳しい状態で、周辺でも倒産が続いていていたようです。自殺も少なくなかったようなんです。」
森田が補足する。
「だからって・・。」
一樹が再度訊く。
「僕たちも、余りに短絡的ではないかと考え、帯広まで行って、当時を知る人を訪ねてみました。・・しかし、佐藤牧場の借金は相当の額だったようです。ただ、高速道路の建設が始まっていて、牧場の一部が計画線上にかかっていたようで、土地売買の交渉も始まっていたそうなんです。」
「だったら、土地を売って借金を返せばいいんじゃないのか?」
森田の返答に一樹が訊くと、松山が答えた。
「ですが、佐藤は土地を売ろうとはしなかったようです。むしろ、反対運動の先鋒だったようで、周辺の住民からも、厄介者扱いを受けていたくらいでした。・・正確なところは判りませんが、少し偏屈だったようですね。それと、祖父も健一郎以上に偏屈だったらしく、どうも、祖父からも決して土地を売るなと言われていたようです。」
「土地は売らない、借金は返せない、・・思い余って自殺したという事か?」
鳥山が訊く。
「ええ・・道警はそう判断したようです。・・何しろ、他殺を示すような証拠や目撃情報が全くなかったわけですし、遺体の状況からもそれなら筋が通るようでした。」
森田と松山の説明に、鳥山課長以下、同席していた者は皆一応納得したようだった。
「ねえ、長女はどうしたの?」
亜美が気付いた。
「そうなんです。長女が再捜査のきっかけになったんです。」
森田が答えた。
「事件発見時には、長女の優香は行方不明でした。かなり広域に周辺捜査がされたようですが、発見できなかったんです。結局、当時は、行方不明のまま処理されました。・・周囲には家はありませんし、家のすぐ裏には深い原生林が広がっていて、一旦、迷い込めばとても発見できない。5歳の子どもですからね。・・野犬や熊に襲われることも想定されたんです。」
「でも、その長女がきっかけだったんでしょ?」
亜美が再び尋ねる。
「そうです。長女は静岡の児童養護施設に居たんです。」
「静岡?どうしてそんなところに?」
一樹が訊く。
「ですから、事件の再捜査に・・要するに、死んだと思われていた長女が、静岡に居たという事は、誰かが連れて行ったという事になる。第3者がそこにいたのは確実でした。ですから、殺人事件の可能性が高いと見て、道警も再捜査に踏み切ったわけです。」
森田が説明した。
「長女は5歳か・・それなら、ある程度、犯人像はつかめているんじゃないのか?」
と一樹が訊く。
「それが・・・少女は、足柄パーキングエリアで意識が朦朧とした状態で発見されました。かなりの精神的ショックを受けていたようで、失語症になっていました。それで、身元不明者として、三島にある養護施設で保護されたんです。身元が判明したのは、事件から2年後でした。偶然、身元不明者の照会を静岡県警が行っている時に判明しました。時間も経っている事と、失語症になっている事で、事件の概要さえもつかめないままでした。」
森田が説明すると、大筋を理解し、皆、沈黙した。
各々、今回の3件の連続自殺と帯広の事件を重ね合わせ、考えを巡らしている。
「状況は無理心中、だが、確実に事件へ関与している者が居る。しかし、まったく糸口がない。・・今回の、連続自殺事件と似ているな・・・。」
鳥山課長が呟いた。
「この帯広の事件を起こしたのが、佐原達3人という事はないでしょうか?一家惨殺は大罪です。その復讐という事になりませんか?」
葉山が皆に尋ねる。
「ということは、サービスエリアで発見された少女が父や母を殺した犯人を見つけて、復讐していると?」
一樹が、念を押すように言った。
「ああ、そう言うことになる。当時5歳なら、すでに30歳。立派な大人だ。記憶の中には惨い事件が深く刻まれているはずだろう。偶然、犯人を発見した。そして、恨みを晴らしている。」
葉山が答える。
「おい、その少女はどうしている?」
鳥山課長が森田たちに訊いた。
「北海道警察ではそこまでは掴んでいないようです。児童養護施設は判りましたが、10年前に閉鎖されていて、追跡できませんでした。」4/27

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