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3‐33 カルディア [AC30 第3部オーシャンフロント]

創造主のドームが床に着いた。ドームの幕がゆっくりと開き、創造主カルディアが姿を見せた。
その周囲をPCXが護衛しているように、宙を舞う。
「姿を見せよ!」
カルディアの声が響く。球形のPCXが飛び回る。キラは、箱を握る。
1体のPCXが、キラたちの所在を突き止めた。そして、いくつものPCXが集まってくる。身を隠していた部屋の残骸がふわりと持ち上がり、床にうずくまっていた二人の姿にライトが当たる。
キラは、ぐっと箱を握りしめる。だが、赤い光は発しなかった。
「無駄じゃ。ここでは、それは使えぬ。」
その言葉と同時に、PCXが人型に変形し、キラとフローラを取り巻き、拘束する。そして、そのまま、ドームの前に連れて行かれた。
「お前は何をしたのか判っているのか?」
カルディアの声は、重々しく部屋の中に響く。
「永遠の命の正体を破壊した!」
キラが言う。
「そうか・・・判っていたのか・・。」
「これでもう永遠の命など存在しなくなった。お前の支配も終わりだ!」
「それはどうかな。」
そう言って、カルディアが手を上げる。
すると、真っ暗な空間に灯がついた。
広大な空間には、周囲に袋のようなものが幾つもある。よく見ると、その一つが粉々に砕けている。
「お前が破壊したのは、ほんの一部に過ぎぬのだ。・・それとも、これをすべて破壊できると思っているのか?」
余裕綽々の表情でカルディアが言う。
「お前の持っている『箱』はすでに力を失っているだろう。これ以上、抵抗などできぬのだ、諦めよ。」
キラは拳を握り締める。
だが、PCXに押さえつけられ身動きできない。
「キラよ、ここで生きる道を選ぶが良い。」
「いやだ!ジオフロントへ戻る!ハンクたちを返せ!」
「まだそのようなことを・・・愚かな事よ。ここでの夢のような暮らしをお前も満喫したであろう。お前さえ、承諾すれば、ジオフロントの者たちにも、同じ暮らしが待っておるのだぞ。皆の幸せの為にも、承諾せよ。」
カルディアの声は少し和らいでいる。
「ここには、本当の暮らしなどない!」
「そうか・・・まあ良い。すでにお前の命は我が手中にある。PCXですぐに消去することもできる。選ぶなどという言葉は不要だったな。さあ、連れていけ。」
「待て!フローラはどうなる?」
キラが訊く。
「フローラ?・・・ああ、こいつか?これは不完全体だ。生存する人類を発見するための仕事は果たしたが、そこでの記憶を消せなかった。そのようなものは不要なのだ。すぐに処分すべきだった。」
自らのクローンであるはずだが、まるで物を扱うような言い方だった。
「止めろ!判った。お前の言うとおりにする。だから、フローラを殺すのはやめてくれ。」
「これはクローンの一つに過ぎぬのだぞ?命乞いなど意味のない事ではないか。」
「確かに、クローンとして生まれたんだろう。だが、ジオフロントでともに過ごした。その記憶こそ、人間の証なんだ。もはやクローンではない。フローラは一人の人間になったんだ!」
フローラはキラの言葉を聞き、胸を熱くした。
「フローラを殺すというなら、おれも一緒に殺せ!」
「滑稽だ。先人類は、クローンを忌み嫌い、阻害し、殺戮しようとした。だが、どうだ?そのクローンこそが地球上で生き延びた。永遠の命となり、今、こうして支配しているのだ。・・・・まあ良い。フローラを処分することはいつでもできる。しばらくは猶予してやろう。さあ、連れていけ。」
キラとフローラを拘束していたPCXの一体が大きな袋状に変形し、二人の体を包みこんだ。

3‐34 囚われの身 [AC30 第3部オーシャンフロント]

キラとフローラは、PCXの袋に囚われたまま、どこかに連れ去られている。外の様子は全くわからない。ただ、タワーの上層へ連れて行かれるようではなかった。
PCXが動きを停めた。するすると袋状のPCXが開くと、目の前にベッドが並んでいるのが見えた。どれも大きなカバーがあり、その表面にはいくつもの光が点滅している。
「さあ、歩け!」
人型に変形したPCXが二人を囲むようにして歩かせる。
ベッドの並ぶ通路を通る。その時、カバーの中が見えた。サラの顔がのぞいている。隣にはユウリが居た。二人とも眠っているようだった。
その先には、カバーの開いたベッドが置かれている。
「さあ、ここに、横になるんだ。」
「フローラは?」
キラがPCXに訊いた。そのPCXは少し返答に時間が掛かった。
「フローラ・・は・・・不完全体だから・・・。」
そこまで言って、何か不具合でも生じたのか、赤い光が弱くなり、停まってしまった。
「どうした?」
すぐに光が戻り、「隣室に留置する。」と答えた。ここで抵抗しても無駄なのはだと判っていた。キラはおとなしくベッドに横たわった。ベッドのカバーが閉じられた。
PCXはフローラを連れて、隣室に消えた。

静かだった。ベッドに入れられ、何かされるのを覚悟していたが特に何も起きなかった。ここにはきっとジオフロントの仲間たちが居る。どうにかして、皆を解放できないか、キラはそればかり考えていた。しかし、自分自身、ベッドに入れられ身動きできない。どうにもできない自分が悔しくて、思わず、目の前のカバーを叩いた。
「ブーン」
静かなモーター音とともに、カバーが開いた。驚いた。どういうことだろう、何か試されてるのだろうか?だが、今のキラにはそんなことよりもここから出て皆をどうにかして解放することを選んだ。
すぐにベッドから降りた。そして、ベッドの下を這うようにして部屋の中を移動し、隣室のドアのところまで行った。ドアノブに手をかけると、鍵はかかっていない。静かに開くと、中にはフローラが蹲っていた。
「フローラ!」
小さな声でフローラに声をかける。フローラは顔を上げ、驚いている。キラが手招きすると、そっとフローラが出てくる。
「どうして?」
囁くようにフローラが言う。
「判らない、ベッドのカバーもこのドアも鍵がかかっていなかった。」
「どうしてかしら?」
「判らない。とにかく、これで動ける。皆をどうにか解放しなければ。」
そう言って、また、ベッドの影に隠れるように這いつくばって部屋の中を移動した。
「どこかに、カバーを開くスイッチがあるはずだ。」
サラが眠っているベッドに取りつくと、カバーのあちこちを探る。ボタンらしきものはない。フローラはハンクのベッドを見つけ、同じようにスイッチを探した。フローラの手が、カバー上部の星の模様に偶然触れた。
「ブーン」というモーター音がしてカバーが開いた。
「ハンク!ハンク!」
その声を聞いて、キラも急いでやってきた。
「ハンク、起きろ!」
何か薬のようなもので眠らされているのか、なかなか目覚めない。
「フローラ、どうやって開いた?」
「この模様の上を触ったの。」
キラが触れても変化は起きない。フローラが触れると、先ほどと同じ様に、カバーが開く。プリムだった。


3‐35 ダモスのエリアへ [AC30 第3部オーシャンフロント]

フローラは、カルディアのクローンである。おそらく、カバーの開くカギは、カルディアの指紋になっているのだろう。フローラは次々に、ベッドのカバーを開いていく。
皆、すぐには目覚めなかった。だが、徐々に目覚め始めた。
「キラ!」
最初に声を上げたのは、ハンクだった。
「キラ!ここはどこだ?」
次々に目覚め、キラのところへ集まってくる。
「詳しい話はあとだ。とにかく、ここを出なければ!」
カルディアが異変に気づいて、PCXがここへ来るのは時間の問題だった。
皆で手分けして部屋の中を調べる。だが、高い天井の上に通気口らしきものはあるが、他に出口らしきところはない。途方に暮れていた時、警報音とともに、PCXの集団が天井の穴から現れた。真っ赤な色に変わっている。完全に攻撃態勢に入っている。
「ドーン!」
轟音と共に、フローラが留置されていた部屋が爆発した。飛び散る破片と煙が部屋に立ち込める。
「キラ、無事か?」
その声は、ニコラだった。
ニコラは、『イグニス』を握りしめた手をかざして立っていた。赤い光が広がり、PCXが停まった。
「さあ、逃げるぞ!」
爆破で開いた穴から、皆、一目散に逃げた。真っ暗な通路をとにかく走った。
ニコラは、最後に残り、「小さな箱」を投げつけ、ベッドのある部屋を破壊した。

「もう大丈夫だ。この先は俺たちのエリアだ。」
小さな穴が続いている。ニコラが先導し、進んでいく。
最後の穴を抜けたところは、前にニコラと会った、ダモスの大きな空間だった。
長く囚われていたハンクたちは、体力の消耗が激しく、ダモスたちに介抱されている。
キラとフローラは、ニコラのセルに居た。
そこで、キラは、タワーの地下で見てきたことをニコラに話した。
「そうか・・やはりそうだったか・・・。」
「だが、ニコラ、あの場所が、どうしてわかったんですか?」
キラが尋ねた。
「君に渡した『イグニス』のおかげさ。あれで、君の居場所は判っていた。タワーの中の構造もよく判った。今までも探っていたんだが、タワーの中に入ることはできなかった。君が入ってくれたことで、全貌がつかめた。これでいよいよカルディアを倒すための準備は整った。」
「カルディアを倒す?」
「ああ、そうさ。ここオーシャンフロントは、先人類が世界中に作ったものの一つだ。確かに、主要部分は彼女が設計したが、彼女のものではない。だが、彼女は、人類を排除し、自分の為だけの楽園に作り変えてしまった。永遠の命などというマヤカシを使って、人間を支配しようとした。そればかりか、自らのクローンを大量に作り、不完全だと虐げ、追放し、道具のように排除する。そんなことが許されるべきじゃない。今こそ、人類の手に取り戻すんだ。」
ニコラの鼻息は荒い。自らもカルディアの遺伝子を持っているにも拘らず、そんなことは微塵も感じていないようだった。
「あのタワーにいる者すべてを殺してしまうんですか?」
フローラが訊く。
「いや・・その必要はない。永遠の命を作り出すシステムを破壊すればいいんだ。」
「あの・・空間にあったものですか?」
キラが尋ねる。
「ああ、そうさ。あの空間、そして、今のカルディアを支えているシステムを壊すんだ。」
ニコラには具体的な策が浮かんでいるようだった。

3‐36 決行前夜 [AC30 第3部オーシャンフロント]

ニコラは、皆を集めた。
「これまで長い時間をかけて準備をしてきた事がいよいよ花開く時が来た。カルディアを倒し、オーシャンフロントを我らの手に取り戻すんだ!」
体力が戻ったハンクやプリムも、キラとともに話を聞いた。
「永遠の命を作り出しているクローンシステムの場所は判った。そこを破壊する。永遠の命の元を絶てば、カルディアは自滅する。」
それを聞いて、キラが言う。
「あれだけ大規模なものを破壊するには時間が掛かる。すぐに、PCXが来て反撃されるのではないですか?」
ニコラがニヤリと笑み浮かべて答える。
「そのために、オーシャンフロントのエナジーシステムを一時的に遮断する。そうすれば、しばらくの間、我らがあの空間に侵入したことは察知されないはずだ。」
オーシャンフロントのエナジーシステムのすぐ近くに、ダモスエリアはある。長年の努力で、エナジーシステムのコントロールルームを突き止めていたのだった。
「それに・・。」
ニコラが話を続ける。
「この日のために、ドロスたちとの同盟も結んでいる。彼女たちが盾になりPCXの攻撃を防ぐことができる。」
「そんな・・・。」
フローラが呟く。
「もうすでに動き始めていますよ。」
後ろで声がした。そこには、車椅子に座った女性が居た。キラがドロスの住居で出会ったエルピスだった。キラが運ばれ介抱されたあの住居はPCXによって「消去」されたはずだった。
「どうして・・。」
キラが呟く。エルピスは集まった者たちの間を抜け、ニコラの元へ行く。途中、キラを見て微笑んだ。
「あの空間からの逃げ道は、私たちドロスが案内します。複雑な通路を作った甲斐がありました。例え、PCXに発見されても捕まりはしません。それに、私たちが皆さんを守ります。私たちドロスも、カルディアの遺伝子を持っています。PCXは安易には攻撃できません。」
ニコラが続ける。
「カルディアを倒さない限り、我らに未来はない。キラ、君たちも、彼女がいる限り、ここから脱出することはできないのだ。ともに戦おう。」
今、できる最上の方法に違いなかった。だが、計画通りにいくのだろうかとキラは疑問を持っていた。
タワーの中で見た、彼女の能力は計り知れなかった。すでにダモスやドロスの動きを掴んでいるかもしれない。いや、きっとすでに何らかの手を打っているに違いない。だからと言って、さらなる計画は思い浮かばない。
「おい、キラ、やろうぜ。俺、早くジオフロントに戻りたい。」
隣にいたハンクが言った。プリムも同じ表情でキラを見ている。
「そうだな・・ここを出ない限り、未来はない。やろう。」
決行は翌朝と決まった。
それまでの間、それぞれ与えられたセルで夜を過ごした。

フローラは、キラと一緒のセルで休んだ。
キラは、セルの隅で横になって、あのベッドの並んだ部屋の事を思い出していた。
どうして、ベッドのカバーが簡単に開いたのか、そして、フローラが閉じ込められていたはずの部屋の鍵が開いていたのか、逃げ出すことができるよう、準備されていたとして思えなかった。
だが、何のためなのか。カルディアが、何かの策を講じていたのか、カルディアの策であれば、何が目的なのか、疑問は膨らむばかりだった。そして、ダモスによるオーシャンフロント奪還の作戦が危ういのではないかと思い始めていた。


3‐37 決行の日 [AC30 第3部オーシャンフロント]

翌朝、目覚めると、ダモスの男たちはすでに身支度を整えていた。武器になるのは、あの『イグニス』だけ。
「この日のために、皆で作ったんだ。」
『イグニス』が並んだ机を眺め、ダモスの男が誇らしげに言った。
「一人ひとつ、持っていく。使い方は判っているだろう。」
ニコラが、机の前に立ち叫んだ。キラやハンクも一つずつ持たされた。
「あの部屋に行き、ひとつ残らず破壊する。そして、カルディアの永遠の命を絶つ。」
皆、神妙な顔でニコラの言葉を受け止めている。
キラは、昨夜、頭の中に浮かんだ疑問が晴れないままだった。
「どうした、キラ?」
ハンクは、キラが浮かぬ顔をしているのに気付いて、訊いた。
「いや・・何でもない。・・俺たちも、ジオフロントへ戻るために働こう。」
「ああ、そうだな。」

男たちは、次々に、昨日、抜けてきた穴にもぐりこむ。キラたちも後に続いた。
狭い通路を黙々と進む。先頭がようやく、あの暗い空間に到達した。
静かだった。
全員がそれぞれ破壊すべき『袋』のようなものに取りついた。
「準備はいいか!」
ニコラの声が部屋に響く。
「おおー!」
男たちが呼応する。
『イグニス』を強く握りしめる。オレンジの光が発するはずだった。だが、どれ一つ光を発することはない。
「これは・・いったい・・。」
ニコラは、信じられないという表情を浮かべていた、すぐに気を取り直して叫んだ。
「投げつけろ!」
男たちは力いっぱい投げつける。だが、『イグニス』は爆発せず、床に転がった。ダモスの男たちは、転がった『イグニス』を拾い上げ、何度も何度も投げつける。だが、何も起きなかった。
天井から、赤く点滅する光の集団がゆっくりと降りてくる。攻撃色になったPCXの集団だった。そして、カルディアのドームもすぐあとをゆっくりと降りてくる。
抵抗する術を持たないダモスの男たちは、その光をただ見つめるだけだった。
「愚かな者たちよ。」
ドームの中から、カルディアの声が響いた。
赤く点滅するPCXが、ダモスの男たちの周りを飛び回り、次第に、暗い部屋の中央に集められる。
「そんな稚拙な道具で永遠の命を絶てると本気で考えていたのか?・・・愚かなことよ。」
静かにドームの幕が開き、カルディアが姿を見せた。
「ここは命の泉。すべてのエナジーがコントロールされている。破壊しようとするものは力を失うのだ。」
もはや抵抗する術などない。力なく、男たちは床に座り込んだ。
キラの予感は当たった。ふと、昨日の疑問が浮かんできた。
「カルディア、訊きたいことがある!」
キラが叫んだ。カルディアは、キラのほうを向き、睨みつけて言う。
「まだ、生きていたか。・・。」
「ここから、逃がしたのはお前の策略か?こうして攻撃させるためのきっかけを作ったのか?」
カルディアが訝しげな表情で答える。
「妙な事を訊くものだ。お前は、フローラに助けられここへ逃げ込み、そしてダモスに助けられたのであろう。」
「本当にお前の策略ではないのだな?」
「それを確かめて何になる?」
カルディアの言葉を聞いて、キラはハッと思いだした。

3‐38 神秘の力 [AC30 第3部オーシャンフロント]

「フォル・・ティア・・」
確かめるように、キラが小さく呟いた。
「何、言っているんだ?」
横にいたハンクが小声で訊いた。
「フォルティア・・あの、PCXに名前を付けたんだ。」
「フォルティア?」
「ああ、そうだ。」
キラはそう言って立ち上がる。そして、部屋の中に木霊すような声で叫ぶ。
「フォルティア!フォルティア!」
ハンクも続いて叫ぶ。それを聞いて、プリムも、フローラも叫んだ。
「何を騒いでいる?静かにさせよ!」
カルディアがPCXに命令する。1体の赤く点滅したPCXがキラの前に近づいた。
それでも、キラたちは叫び続ける。
きっとこの中にあのPCXは居る。ベッドのカバーを開けておいたのも、フローラの留置されていた部屋の鍵を開けていたのも、きっとフォルティアがやったのだと信じたかった。
目の前のPCXが更に近づいてくる。ほかのPCXも同じように近づいてくる。
「キラ様!」
目の前のPCXの色が赤から青に変わり、言葉が聞こえた。
そして、一気に、大きく膨らみ、キラやフローラ、ダモスの男たちを覆った。
「何をしている!攻撃せよ!」
ほかのPCXが、フォルティアの上に集結する。そして、次々にレーザービームを発射する。PCXの強力なライブファイバーはビームを跳ね返し続けた。
「しばらく耐えてください。」
フォルティアの声がキラたちを包んだ膜の中に響く。
ひとしきり攻撃が続いた後、急に攻撃がやんだ。
「もう大丈夫です。」
フォルティアは膜を開き、球形に戻った。
その様子に、カルディアは狼狽えている。
「一体どうしたことか!お前たち、どうしたのだ?私の命令に従うのだ!」
だが、PCXたちは、攻撃をするどころかた、キラたちの周りに並んで、カルディアに向き攻撃色に変わった。
フォルティアが宙を飛び、カルディアの前に立つ。
「カルディア様、もう諦めてください。私たちPCXは、もうあなたの命令には従いません。あなたの支配は終わったのです。」
「馬鹿な・・・ここは私のもの。私が作ったのだ。永遠の命を持ってここを支配するのだ。」
カルディアは、そう言うと膝をついた。
見るからにカルディアは老いぼれている。先日、ドームで見たカルディアとは別人と思えるほどやつれている。
「さあ・・もう・・抵抗するのは・・。」
キラが一歩近づいた時、カルディアはばたりと倒れこんだ。そして、ドームの中から転げ落ちた。
フローラが駆け寄り、身を起こそうとした。だが、すでに息絶えていた。
「これで終わったのか・・・。」
キラが呟く。あっけない幕切れだと思った。誰もが気を許した時だった。
目の前のドーム状のものが急に光り始めた。そして、銀色のドームの縁がキラリと光った。すると、近くにいたPCXが粉々に砕け、地面に落ちた。何が起きたのかすぐには判らなかった。再び、キラリと光ると、別のPCXが爆発した。ようやく、事態が呑み込めた。カルディアの乗っていたドームが青い光を放って攻撃をしている。PCXは反撃するが、次々に破壊されていく。
「キラ様、逃げてください!」
フォルティアが叫ぶ。
ダモスの男たちも、その声に反応し、次々に穴へ飛び込んだ。

3‐39 虚構の平和 [AC30 第3部オーシャンフロント]

PCXが次々に破壊されていく音が穴の中に響く。ダモスの男たちやハンクたちは奥へ奥へと逃げる。その先に、ドロスの女性たちが待っていた。ドロスの円筒状の住居に引き上げたところで、ようやく一息ついた。
「一体、何があったのですか?」
ドロスのリーダー、エルピスが青ざめた表情で、ニコラに訊く。
「罠だった。・・・我らをあそこに迎え入れ、捕獲しようとしたのだ。」
ようやくニコラも、事態が理解できたようだった。
「だが、キラの機転で乗り切った。まさか、PCXが味方になるとは・・・現れたカルディアは、目の前で死んだよ。しかし、あの部屋を破壊することはできなかった。それどころか、あのカルディアのドームが攻撃をしてきたんだ。PCXはほとんど破壊されただろう・・・。」
それを聞いて、エルピスが言う。
「では、すぐに次のカルディアが現れるでしょうね。」
「ああ・・・事態は何も変わっていない・・・。」
ニコラは悔しそうな表情を浮かべている。
「キラ?・・あれ?・・フローラもいないぞ。」
ハンクが周囲を見回して言った。
「あのPCXも居ないな。」
プリムが言った。

そのころ、キラとフローラ、そしてフォルティアは、別の穴に隠れて様子を伺っていた。
PCXの爆発音がひとしきり響いた後、静かになった。
「フォルティア、ありがとう。助かったよ。」
キラは、様子を伺いながらPCXに言った。
「いえ、キラ様が私の名を呼んでくださったので、うまくいきました。」
「どういうことだい?」
キラが訊くと、フォルティアが答える。
「ジオフロントを出発する前、エリックに頼んで、別の回路を取り付けてもらったのです。特別な言葉に反応し、カルディアの支配から解放されるプログラムが入っています。そして、私たちPCXはすべて繋がっていますから、私のプログラムが他のPCXにもインストールされたというわけです。」
「それで・・名前を・・。」
「はい。キラ様を信じておりました。」
キラは、感情のないはずのアンドロイドが、「信じる」という言葉を使った事には驚いた。
「この先、どうなる?」
「すぐに、新たなカルディアが選ばれるでしょう。そして、PCXも新たに大量に作られるに違いありません。」
「何も変わらなかったということか・・・。」
キラは落胆した。
「いえ、違います。あと少しなのです。先ほどのカルディアをご覧になったでしょう。」
「ああ・・目の前で死んだようだった・・。」
「クローンを作り続け、永遠の命としてきましたが、綻びが大きくなっているのです。完全体は数少なく、寿命が極端に短くなっているのです。もはや、遺伝子が傷つき、完全体を産みだす事も容易ではなくなっているはずです。」
外に様子を伺いながら、キラは重ねて訊いた。
「この先、どうなる?」
「別の方法を探しているのです。オーシャンフロントの新しい支配者を作り出そうとしているのです。そのために、フローラ様の様に、海を漂流させて人類の生き残りを探していたのです。私は、ここへ戻り、全てのメモリーが開放され、自分の使命を知りました。ジオフロントを発見し、優良な遺伝子の持ち主を探し出し、ここへ連れてくるのが、本当の私の使命だったのです。」
「では・・。」
話を聞いていたフローラが口を開いた。

3‐40 抵抗する者たち [AC30 第3部オーシャンフロント]

「そうです。カルディアが探し求めていた、最も優良な遺伝子を持っているのは、キラ様なのです。カルディアは、すでにキラ様の体から遺伝子を抜き出しているはずです。」
「遺伝子を抜き出す?」
キラが驚いて訊く。
「タワーの中でどれほどの時間を過ごされたか覚えていますか?」
「何日か、白い部屋の中で過ごしたが・・・・・。」
「プールの様な中で眠りましたね。」
「ああ・・ステラがそう言って・・・。」
「あれは、ベッドではなく、仮死状態を作り出す装置だったのです。キラ様がここへ来られてすでに3ヶ月が過ぎているのです。ここへ到着した時、オーシャンフロントは熱波を避けて北緯60度以北にいました。白夜を観られたでしょう?」
「ああ・・そうだ・・夜は短いとステラが言っていた。」
「タワーから逃げ出し、森の中で過ごされたでしょう。あの時、夜はどうでしたか?」
キラはハッと気づいた。
「そうか・・・真っ暗な闇だった。白夜ではなかった。・・・そうか、それほど時間が・・・。」
「すでに、次の新しいクローンは、あの命の泉で命を得ています。あと、僅かで完成するでしょう。」
「新しいクローンが完成する?」
「はい。それはキラ様のクローンではありません。キラ様とカルディアの遺伝子を併せ持つクローンなのです。」
キラはニコラを思い出していた。
カルディアのクローンと人間の間に生まれたダモスたちは、皆、屈強で長寿だと聞いた。
自分とカルディアの遺伝子を引き継ぐ者がどれほどのものか。カルディアは既にそのクローンが強大な力を持つ事を予見しているに違いなかった。そして、それらは確実にダモス達と闘い、オーシャンフロントをこれまで以上に強大な力で支配することになる事も、容易に想像できた。

「ねえ、次のカルディアは誰が選ぶの?」
そばにいたフローラがフォルティアに尋ねる。フォルティアは少し考えてから、答えた。
「それは、オーシャンフロント自身です。」
「馬鹿な・・オーシャンフロントはただの建造物に過ぎない。まるで意思を持つような・・・いや・・それは・・。」
そこまで言ってから、キラが口ごもる。
「どうしたの?」
フローラが怪訝そうな表情で訊く。するとキラは目を輝かせて答えた。
「判った。そうか・・そういうことか・・フォルティア、フローラ、すぐにニコラのところへ行こう。」
そう言って、キラは、穴の中へもぐりこんだ。
「キラ、フローラ、無事だったか。心配したぞ!」
ニコラたちはすでに自分たちのエリアに戻っていて、キラたちが戻るのをハンクが出迎えた。
キラはすぐにニコラのもとへ走った。
「すぐに、反撃しましょう。」
「いや・・今のままではどうしようもないだろう。」
「いえ、判ったんです。この島を支配しているのは、はるか昔死んだはずのカルディアの意思にすぎないんです。すぐに反撃すれば、きっと勝てます。」
「一体どういうことだ、順番に話してくれないか・・。」


3‐41 アルコーン [AC30 第3部オーシャンフロント]

ニコラはすぐに皆を集め、キラを中心にして取り囲み、キラの話を聞いた。
「ジオフロントには、クライブントという導師がいました。僕たちは、日々の暮らしの中で判断に困ったら、導師の意思を聴くことにしていました。いわば、我らの長(おさ)だったのです。しかし、それは、先人類の長でした。はるか昔、ジオフロントが機能停止した時、最後の支配者であり、その意思はすべて、ジオフロントのメインコンピューターに残されていたのです。僕たちは長い間、実在していると信じてきたのです。」
キラが話すと、ハンクが付け加えた。
「それを、キラが暴いた。すべては人類を守るための仕掛けだったんだよな。」
そこまで聞いたニコラも、納得したような表情で言った。
「そうか・・カルディアも実在するのはクローンであり、本物はすでに居ない。とすれば、全て、あのタワーのどこかに、カルディアの意思を持つコンピューターの仕業ということか。・・それを破壊すれば良いと・・。」
「ええ、そうです。きっとタワーのどこかにあるはずです。」
「だが・・タワーの中の事はあまり判っていないんだ。どこにあるのか・・・。」
ニコラは残念そうに言った。
キラは、ドロスのリーダー、エルピスを見て尋ねた。
「どこか、心当たりはありませんか?」
エルピスはしばらく考えてから答えた。
「我ら、ドロスは、タワーの地下の様子は隅々まで知っている。だが、そんな場所はないはずだ。」
「では・・タワーの上部にあるということですね。」
「ああ、おそらく、そうだろう。」
キラは今度は、フローラに訊いた。
「フローラ、君は、しばらく、プレブの層にいたはずだ。どこかそういう場所はなかったかい?」
「いえ、私たちが居た場所には、そういう場所はなかったわ。ほとんど、壁と部屋だけだったわ。」
それを聞いてキラが言った。
「ぼくは、最上階のパトリの部屋にいた。そこにもそんな場所はなかった。多分、その下層のノビレスの層にもないだろう。」
「じゃあ、一体どこに?」
フローラが訊いた。
「フォルティア、あのカルディアが乗っていたドーム状のものはどうだろう?」
「あれは、アルコーンと呼ばれています。カルディアになった者の玉座です。」
「目の前でカルディアが死んだ後、アルコーンは攻撃してきただろ?あれ自身が意思を持っているんじゃないかとおもったんだ。・・あれがすべてではないかと・・。」
確かに消去法で考えれば、その可能性は高いと思えた。だが、確証はなかった。
一連の会話を聞いていた、キラの妹サラが、恐る恐る、口を開く。
「幼い頃、ジオフロントで、クライブント様から聞いたんだけど・・・。」
「どうした?サラ。」
「先人類の古い言葉には、いろんな意味があるって。さっきの・・アルコーンだったよね。アルコーンって・・確か、支配するという意味だったはずよ。」
「本当か?」
「ええ、間違いないわ。」
キラは、ニコラを見た。ニコラもキラを見た。そして頷いた。
「サラの言葉通りなら、アルコーンこそが、カルディアの本体。それを破壊すればすべて終わるんだな。」
ニコラの言葉に、キラが答える。
「ええ、きっとそうです。・・今なら、カルディアを守るPCXは破壊されつくしていないはずです。今なら、一気に攻撃できるでしょう?」
「ああ・・急がねば・・だが、アルコーンは強力な武器を持っている、簡単には破壊できないだろう?」
PCXフォルティアが答える。
「私に作戦があります。」


3‐42 PCXの作戦 [AC30 第3部オーシャンフロント]

キラやニコラたちはすぐに準備に入った。
ドロスのエルピスが、タワーの真下の地下空間まで皆を案内する。そこは、タワーの廃棄物が集まるところだった。そこれ、ドロスの女性たちは、廃棄物を仕分けて、使えそうなものを手に入れていた。
ダモスは、ドロスたちから、壊れたPCXの破片を譲り受けていたのだった。
「この上が、命の泉、クローンたちが育つ部屋の入口です。」
PCXフォルティアが、一人ひとり、運び上げた。
「あの部屋に入ったら、『イグニス』を強く握ってください。強い光に反応し、一気に部屋が破裂します。」
たくさん並ぶ部屋にそれぞれ分かれて入り込んだ。
キラたちも一つの部屋に入り、『イグニス』を強く握った。
予定通り、次々に部屋が破裂していく。
羊水のような水が飛び散り、ほとんど人間の形に近い状態まで育ったクローンたちがぐったりと横たわる。
広い空間に夥しい数のクローンの亡骸が並んでいく。
ダモスも、ドロスも、涙を流している。
目の前に横たわる亡骸は、自らと同類なのだ。皆、一体ずつ、丁寧に扱った。ようやく人間に近い形になっている者もいれば、まだ、何かも判らないほど小さなものもあった。クローンではあるが、それは確かに命を持っている。命の泉を破壊することは、多くの命を奪うことであったことを、改めて知らされ、心が痛んだ。

「皆、無事か?」
ニコラが確かめる。計画通り、クローンを育てている部屋はほとんど破壊できた。
キラは、横たわるクローンの亡骸を一体ずつ確認した。自分の遺伝子を持つクローンが居るはずだ、あるいは、カルディアとキラの二人の遺伝子を持つクローンかもしれない。そう思いながら、じっくりと確認していった。キラの様子に気づいたフローラも、横たわるクローンの亡骸を調べる。皆、自分と・・いや、カルディアに似ていた。
「生きてる者がいるぞ!」
ダモスの男の一人が叫んだ。
皆、そこへ駆け寄り、様子を見ようとして、人垣ができた。
「男の子のようだ。・・こいつは・・・」
人垣の真ん中で、ニコラが言った。すぐに、キラが人をかき分けて中に入る。
カルディアのクローンならば、全て女性である。男の子ということは、自分の遺伝子を持ったクローンではないか、複雑な思いで、ニコラが抱える男の子を見た。
わずかに息をしているようだが、全身が青く、もはや、命の火は消える寸前だった。
キラは、戸惑いながらも、そっと手を伸ばす。だが、触れることができない。何か存在してはいけないものがそこにあり、自分自身が何者なのかを問われているようで、ただ、目の前のクローンを見つめるしかできなかった。
やがて、息づかいが小さくなり、そのまま、眠るように息を引き取った。ニコラがそっと床に降ろす。

「人間を・・命を・・なんだと思っているんだ!」
キラは、無性に怒りが湧いてきた。
それは、ダモスやドロスたちにも伝わり、悲しみと空しさと怒りが混ざりあい、皆、嗚咽しながら涙を流した。
「さあ・・皆さんは、どこかに隠れてください。」
PCXフォルティアが抑えた声で言った。その声と同時に、上空から何かが近づいてくる音がした。
見上げると、カルディアのドーム『アルコーン』が降りてくる。上には、新たに選ばれた『カルディア』が乗っている。カルディアを乗せたアルコーンは、広い空間に横たわる夥しい数のクローンの亡骸を確かめるように、ゆっくりと巡る。
キラとフォルティアは、アルコーンの前に立った。厳しい眼差しで『カルディア』は二人を睨み付ける。
「お前たちがやったことがどういうことか判っているのか?」
カルディアの声が以前とは違い、少し若い。それに、その声には聞き覚えがあった。
「その声は・・ステラ・・、ステラじゃないのか?」
キラの言葉に一瞬、『カルディア』が戸惑いの表情を浮かべた。
「何を言っている。私はカルディア、永遠の命を持つ者であり、オーシャンフロントの支配者である。」


3‐43 記憶 [AC30 第3部オーシャンフロント]

「いや、ステラだろう?」
キラはそう言って、『カルディア』の目の前まで近づいた。
「それ以上、近づくな!下がれ!」
明らかに動揺している。
「生きていたんだね。良かった。・・・もう良いんだ。君はカルディアじゃない。ステラなんだ。さあ、そこから降りておいで。」
キラはさらに近づいて、そっと手を伸ばす。
「止めろ!近づくな!」
わずかに、抵抗する素振りを見せたが、キラの手が、『カルディア』の腕を掴むと、『カルディア』は、体をふらつかせて、キラの胸に飛びこんだ。
「やはり、ステラだったね。本当に良かった。タワーの上から落下した後、どうなったか、心配していたんだ。」
ドロスの住居に匿われた時、エルピスから、古い言い伝え・・パトリの肉を食べると永遠の命を授かる・・を聞いて、ステラはすでに命を落としているのではと心配していたのだった。
もはや、『カルディア』に選ばれたステラは、その意思を失っていた。選ばれてまだ時間が経っていない。彼女の中には、キラとの記憶がわずかに残っていたのだった。
「さあ、これで、本当の敵がはっきりした。」
キラはステラをフローラに預けて、再び、アルコーンと対峙した。
『戦うというのか?』
アルコーンから声がした。おそらく、それは、はるか昔に死んだはずの、カルディアに違いなかった。
「ああ、オーシャンフロントを人類の手に取り戻す。」
『どうやって私を倒すつもりだ?この部屋では、あの小さな武器など、役に立たぬぞ。』
「判っている。」
『まさか、そのPCXが戦うのか?・・無駄だと判っているであろう。』
「やってみなければ判りませんよ。」
PCXが声を発した。
『そうか。では試してみるが良い。』
アルコーンは、ゆっくりと上昇し、怪しい光を点滅させた。そして、閃光が走ると、横たわったクローンの亡骸が一瞬で消えた。強力な破壊力を持った光だった。
「よし、行くぞ。」
キラはPCXに合図した。
「はい。」
球形のPCXは、キラとともに、閃光を避けるように、右へ左へ走りながら、アルコーンの真下へ入り込んだ。
「本当に良いんだな?」
キラはPCXに確かめた。
「ここまでキラ様を巻き込んでしまったのは私です。決着は私がつけます。」
PCXはそう言うと、球形から、長い槍状に変形した。
「アルコーンの中心部、あの黒い部分を狙ってください。」
アルコーンは、真下に潜り込んだ二人を捕らえようと、細かく動き回った。キラは槍状に変形したPCXを肩に担いで、アルコーンの真下で同じように動き回った。
部屋の隅に隠れるようにして、二コラやハンク、フローラが固唾を飲んで見守る。
『諦めよ!しょせん、敵うわけはない。』
アルコーンから声が響く。
「よし、今だ!」
キラは、全ての力を右肩に集めて、力強く、PCXを投げた。
「突き刺され!」
皆の視線は一点に集まっている。音もなく、槍状のPCXは飛ぶ。
真っすぐに、アルコーンの急所目掛けて飛んだ。

3‐44 最後の抵抗 [AC30 第3部オーシャンフロント]

確かに、PCXは、アルコーンの黒い部分に突き刺さった。僅かな静寂があった。全ての時が停まったようだった。
『これで私を破壊したつもりか?』
再び、アルコーンから声が響く。
すると、突き刺さっていたPCXが次第に黒く変色し始めていく。
PCXの表面を覆っているライブファイバーがぼろぼろと落ちてくる。そして最後に、PCXの本体らしき黒い小さな箱が、キラの足元に転がった。そして、目の前で、パチンと小さな音を立て割れてしまった。
『主に傷をつけようなどとは、恐れを知らぬ者だ。』
最後の抵抗であった。もはやなす術はない。
『キラよ。これ以上、抵抗する事は諦めよ。お前が私とともに永遠の命を生きると誓えば、そこにいる者たちには危害は加えまい。いや、この先、開放する事も約束しよう。ともに、この地で生きる道があるのだ。』
アルコーンは既に勝者として、憎らしいほどの余裕を持ってこう言った。
キラは、アルコーンを見上げたままだった。
『キラ、返答せよ!』
それでもキラは、じっとアルコーンを睨み付けたまま、動こうとしない。ニコラたちもじっとキラを見ている。
よく見ると、キラは何か呟いているようだった。
「・・・8・・・7・・・・6・・・・。」
カウントダウンをしていた。
「5・・・4・・・3・・」
『何をぶつぶつ言っている?』
「2・・・1・・・・0。・・・アルコーン、終わりだ!」
キラが叫ぶ。同時に、アルコーンが急に点滅を始めた。不規則な光を発し、上下左右、浮遊している場所が定まらない。そのうち、壁にドーンとぶつかり始める。広い空間の中で、猛烈なスピードで壁に突き当たり、タワー全体にヒビ割れが走る。壁の一部がバラバラと降ってくる。
キラは、急いで、みんなが潜んでいる場所へ走り込んだ。
「いったい、何が起きたんだ?」
ニコラが訊く。
「フォルティアがやってくれたんですよ。」
「だが・・突き刺さっただけで・・・」
「いえ、突き刺さった時、フォルティアは、アルコーンの中に、自分の意識を送り込んだのです。30秒ほどでアルコーンの中に広がっていくのだと言っていました。いや、フォルティア自身が、アルコーンの中でカルディアの意識と闘っているんです。」
キラの説明を聞き、改めて、アルコーンを見る。確かに、アルコーンが苦しんでいるように見える。そして、壁にぶつかるのは、内部で戦う意識が反射的に動くためのように見えた。
「タワーが・・壊れるわ。急いで、外へ!」
上の方を見ていた、エルピスが叫ぶ。
一目散に、皆、小さな穴を伝って、外に出た。
見上げると、高いタワーが左右に揺れている。
カルディアのクローンの女性たちが、次々に飛び出してくる。
ドーンと大きな地響きがした。
そして、タワーの真ん中を火柱が上がる。ズ、ズズ・・と鈍い音がしてタワーの下部が潰れ始めた。
中空部分に向かってタワーが沈んでいく。ギイーという断末魔のような音が辺りに響く。
ダモスも、ドロスも、逃げ出してきた女たちも、ただ、その様子をぼんやりと見ていた。
「これで・・終わったのね・・・・。」
フローラは涙を流しながら呟いた。


3‐45 救世主 [AC30 第3部オーシャンフロント]

『カルディア』は、終に倒れた。
オーシャンフロントは、ニコラたちダモスや、ドロス、そしてタワーの中で生きてきた女性たち自身が、新しい世界へと作り直せる時が来たのだ。
「この先、どうなるか、今は判らないが、ここは生きるには困らない場所だ。助け合えば、きっと未来は開ける。ここで、我々とともに生きよう。新しいオーシャンフロントを作ろう。」
ニコラが、誇らしげな顔でキラたちに言った。
ジオフロントの皆も、青空が見え、爽やかな風が流れ、豊かな実りがある、この場所が、如何に素晴らしい場所かは、よく判っている。ここに留まれば、この先、きっと幸せで豊かな暮らしが待っているに違いないだろう。
ジオフロントに戻れば、極寒の冬や酷暑の夏には、じっと息を潜めて暮らさなけらばならない。気候の良い春や秋であっても、命を奪う巨大な虫たちに怯える日々が待っているに違いない。
それでも、皆、すんなりとここでの暮らしを受け入れることができず、一様に戸惑いの表情を浮かべていた。
「キラ・・・。」
ハンクがキラに何か求めるように呟いた。
キラは振り返り、集まっているジオフロントの皆の顔を見た。皆、何かを待っているようだった。そして、それをキラは小さく頷いて受け止める。それから、ゆっくりと振り返り、ニコラを見た。
「いえ、ジオフロントへ戻ります。どんなに辛い暮らしだろうと、僕たちの居場所はあそこなのです。」
ジオフロントの皆もキラの言葉に頷いた。
それを見て、ニコラも皆の思いを受け取ったように、何度か頷き、笑顔を見せた。
「そうか・・・まあ、そうだろうな。・・」
ハンクがふと呟いた。
「だけど・・どうやって戻るんだ?PCXはもう居ないし・・ジオフロントがどれくらいのところにあるかもわからないんじゃないか?」
「そうだな。おそらく、ジオフロントの場所は調べればわかるが・・ここから皆を送り届ける方法がない。船の類はないし・・外洋に出られたとして、どんな生き物が待ち構えているかもわからない。無事にたどり着けるかどうか・・・これは難題だ。」
ニコラは腕組みをして考える。ジオフロントの皆も腕組みして考える。

「ねえ・・あれ・・あれは何?」
空を見上げていたサラとユウリが指差した。
はるか上空に、何か丸い物体が浮いている。そして、それは徐々に近づいてくる。
その物体は、皆の予想を超えるほどの大きさで、形は、空中を飛び回ることができるアラミーラを大きくしたような平たい円盤状のものだった。
その物体は何度か、オーシャンフロントの上空を周回して、タワーが立っていた場所の前に広がる広場の上空で静止すると、長い脚を伸ばして静かに着陸した。
ニコラやキラたちは、広場の周囲に生える樹木の陰に隠れて、じっと様子を伺っている。

「キラ!キラ!」
円盤状のものから声が響いた。聞き覚えのある声だった。
「ガウラ?ガウラかい?」
キラが樹の陰から飛び出して叫んだ。
すると、円盤状の底が、静かに開いて、長い階段が伸びてきた。そして、上からゆっくりとガウラが姿を見せた。
「キラ・・無事だったのね!」
ガウラが階段を駆け下りて、キラを抱きしめる。
その様子を見て、ハンクやサラたちも飛び出してきた。
「ハンク!・・サラ!・・ユウリ!・・無事だったのね・・良かった・・・」
再会を喜び、抱き合い、歓喜に沸いていた。
その様子を、フローラは、暫く静かに見つめていた。
「フローラ!」
ガウラがようやく気付いて声を出した。

3‐46 ジオフロントへの帰還 [AC30 第3部オーシャンフロント]

ひとしきり、無事を確かめ会い、歓喜に沸いた後で、キラが訊いた。
「ガウラさん、これは?」
「すごいでしょ?アエロプリオって言うんですって。」
「アエロプリオ?」
「あなたが出発した後、エリックはジオフロントの復活のために頑張ってくれたの。もうほとんどの場所が昔のように使えるようになったわ。これも、エリックが見つけたのよ。すごいでしょ?空を飛べるの。これがあれば、何処にでも行けるわ。」
キラたちはガウラの迎えで、ジオフロントに戻る事にした。
しばらく、青く広がる海の上をまっすぐに進んでいく。
乗り込んだジオフロントの皆は、操縦席の前にある大型モニター画面を見つめた。
水平線が伸びている。
「もうすぐ、陸が見えてくるはずよ。」
操縦席に座ったガウラが言う。
遥か前方に緑の山並みが見えた。徐々に近づいてくる。
「あれが・・ジオフロントのある大陸なのか・・・。」
初めて見る光景に、ため息交じりに誰かが呟いた。
アエロプリオは徐々に速度を落としていくと、森の上空に静止した。モニター画面が、エアロプリオの真下を映し出した。
「見ていてね。」
ガウラがマイクに向かって「着いたわ。」と告げると、スピーカー越しに「了解しました。」とエリックの懐かしい声が響いた。
すると、森の木々がゆらゆらと揺れ始め、左右に動き始める。地面が割れたように見えた。
下には、いくつかの眩い光が点滅していた。エアロプリオはゆっくりと降りて行く。すぽりと地面の中に納まると、上部が、蓋が閉まるようにゆっくりと閉じていった。
「まだよ・・。」
小さなモーター音が響くと、アエロプリオを乗せていた台座がゆっくりと沈みこんでいく。その間、周囲は真っ暗になった。10秒ほど過ぎたところで、静かに止まった。
アエロプリオのハッチが静かに開き、ようやく外に出た。
巨大な空間が広がっている。そして、今乗ってきたアエロプリオと同じ機体がいくつも並んでいる。
「ここは?」
キラがガウラに尋ねる。
「ジオフロントの最深部よ。コアブロックの真下にあったの。エリックも知らなかったみたい。エナジシステムの調整のために、潜り込んだところで、見つけたのよ。」
「こんなものがあったなんて・・・。」
キラは周囲を見渡し、ひとしきり感心している。
「先人類も、一部の人にしか知らされなかったんじゃないかしら。クライブント導師もご存じなかったわ。ここの存在を知っていたら、生き延びるための別の道もあったとおっしゃていたから。」
「これからは、ここにあるアエロプリオを使って、何処にでも自由に行けますね。・・虫たちに怯えることもなく、外界に出て、食糧を調達できる。・・オーシャンフロントにだってすぐに行ける。」
「ええ・・そうよ。でも、全て、キラがカルディアストーンを見つけてきてくれたからよ。ありがとう。」
「いえ・・僕だけの力がありません・・・一緒に行った・・アランや・・PCXの助けがあったからです。・・」
ふっと、キラは、アランやPCXと過ごした旅の事を思い出して、目頭が熱くなった。
「お帰りなさい。さあ、コムブロックへ帰りましょう。」
エリックは、大きなバスの様な乗り物を操縦して現れた。広いジオフロントの全てに光が溢れている。


3‐47 新たな未来へ [AC30 第3部オーシャンフロント]

キラたちが、ジオフロントに戻ってから、5年が過ぎた。
皆それぞれに、ジオフロントの様々なブロックを受け持って、熱心に仕事をしていた。
キラは、アエロプリオを使って、外界へ出て食料の調達や資源の開発を受け持っていた。
また、2か月に一度は、オーシャンフロントと行き来し、交流を続けていた。おかげで、ジオフロントとオーシャンフロントとは、結びつきを強め、人の交流も深まって、今では、双方の住人も随分と増えていた。

「エヴァ、見えてきたよ。」
操縦席で、キラが言う。
「・・ほんと?・・どこ?」
幼い女の子が副操縦席で、少し不満そうな声で答えた。

昔、ニコラが心配していた通り、フローラは、やはり短命だった。
オーシャンフロントからジオフロントに戻ってからしばらくは元気であったが、キラの子どもを妊娠して、すぐに体調を崩し、エヴァを出産すると同時に他界したのだった。
ガウラは、先人類の医学知識を総動員し、ジオフロントの医療器具全てを使って、フローラを治療したが叶わなかった。

エヴァは、ジオフロントとオーシャンフロント両方の希望の象徴になっていた。
「やあ。よく来たね。・・おや、また少し背が伸びたみたいだね。」
「こんにちは・・ニコラさん。」
エヴァはちょこんと頭を下げる。
「今日は、君に、新しい友達を紹介しよう。」
ニコラは、そう言うと、手で自分の顔を隠した。そして、パッと手を開くと、ニコラの顔は、キラに変わっている。
「えっ?!」
エヴァが驚いて尻もちをつきそうになった。
「まさか・・」
少し離れて様子を見ていたキラが驚いて近寄った。
「まさか・・お前・・P・・PCXか?」
すると、目の前のキラの顔をしたニコラが、急に膨らんだかと思うと、真ん丸の小さなボール形状に変化した。
「はい、キラ様。お久しぶりです。」
「どうして・・・?」
驚いた表情のキラを見て、隠れていたニコラが姿を見せた。
「少し時間が掛かったんだが・・・あのタワーの残骸を片付けて居た時に、PCXを発見したんだ。随分破損していたんだが、何とか修理した。幸い、中枢部分は破壊されていなかったようで、無事、御帰還ということさ。」
『カルディア』との闘いで、PCXは自らの「意識」を『カルディア』へ送り込み、意識の中で闘い、ついに「カルディア」を崩壊させた。同時に、PCX自身も崩壊したと考えられていた。
「カルディアの意識が崩壊していく寸前に、自分のメモリー回路に意識を飛ばすことができたのです。いえ、自分の意思ではなく、キラ様に呼び戻されたようでした。おかげで、無事に戻る事が出来ました。」
「良かった・・また、会えるとは・・・」
キラは涙を流し、PCXとの再会を喜んだ。
「これからは、エヴァ様の御守役をさせていただきます。」
PCXはそう言うと、「さあ、エヴァ様、農場へ行きましょう。美味しいトマトが出来ているはずです。」と声を掛けた。
「トマト?・・エヴァ、トマト、大好き!」
エヴァは、そういうと、オーシャンフロントの農場に向かって走り出した。
「エヴァ様、お待ちください。転びますよ。」
PCXが後を追う。

頭の上には、高く高く青空が広がっていた。(完)

謝意-ありがとうございました。- [苦楽賢人のつぶやき]

AC30,第3部で、終了しました。
未来のお話はなかなか大変でした。創造力には限界というものがあるようです。

以前の「アスカケ(空白の世紀)」も現実離れしたお話でしたが、それなりに遺跡や古事などを調べて、少しアレンジすることでお話を作る材料になっていたのですが、未来のお話は全く材料になるものがありません。かなり、創造力がないとSFものには手を出してはいけないのだと判りました。

読者数は決して多くありませんが、「NICE]をいただくことで、なんとか、最後まで書かなくてはと変な自己意識でやって来れました。
本当にありがとうございました。

次回作のアイディアはまだ、まったく生まれてきません。
どんなお話が面白いのか、妻に訊いてみると、推理もののほうがいいんじゃないとあっさりした回答がありました。
ただ、あまり、人が簡単に死んでしまうようなお話というのもどうかなあなどと、何だか作家めいた思いを抱いてしまい、ちょっと、戸惑っているところです。
少し、また、お休みをいただき、年明けから春になるくらいに、お目に留まればと考えています。
本当にありがとうございました。

少し早いかもしれませんが・・・メリークリスマス&ハッピイニューイヤーという事で。
それでは、また。
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