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2-4 つながる糸 [同調(シンクロ)Ⅱ-恨みの色-]

石黒弘江との面談で、加藤祐子・・今は、有田優香の生い立ちが少しずつ明らかになってきた。
「加藤祐子さんの事で、他に思い出すことはありませんか?」
一樹が訊く。
「私は5年ほどで転勤になりましたから、中学生の頃の事は知りません。ただ、私が居た頃は、矢野君と本当の兄妹の様にしていたのは覚えています。ですから、矢野君が退所した後は、随分、寂しがっていました。矢野君も辛かったと思います。退所した年の夏に、一度、施設に顔を見せてくれたことがありました。その時は、加藤さんも嬉しそうでした。」
「あの、矢野健一君は、今、どうしているか判りますか?」
一樹が訊く。
「ええ・・中学校の卒業の時に、近くの工場への就職が決まり、会社の寮へ入って、そこから夜間の高校へ通ったはずです。」
石黒は、古い手帳を見ながら答えた。
 一樹と亜美は、石黒弘江に礼を言って、矢野が就職した工場へ向かう事にした。
 有田優香の子どもの頃を知る唯一の人物であり、兄弟の様に過ごしていたのであれば、北海道の事件も聞いているのではないかと推察されたからだった。
 
 矢野健一が就職した「NKU」という製造会社は、沼津港の近くの工場団地内にあり、敷地内に社員寮も持っていた。本社の事務所を訪ねると、すぐに人事部の担当と面会できた。
「随分前の事ですよね‥20年以上か・・。」
 黒メガネをかけ、白髪交じりの人事部の担当者は、分厚いファイルを抱えて、面談室に現れた。
「矢野・・矢野・・」そう呟きながら、名簿を確認している。
「すみません。今、現在、矢野健一という社員は居ませんね。」
 頭を掻きながら、人事部の担当は答える。
「93年前後に、中学校卒業してこの会社に入ったはずなんですが・・寮にもいたようです。」
と一樹が確認する。
「93年・・ねえ・・・。ああ、これか?」
そう言って、人事部の担当が名簿を見せる。
「確かに、93年3月に矢野健一を採用しています。20歳まではここで働いていたようです。・・ああ、そうか・・そうだ・・あいつだ。」
人事部の担当は、何かを思い出したようだった。
「矢野健一は、ここを辞めてから専門学校に入りました。ここに居た時から、随分、勉強熱心でね。夜間高校の先生からも大学進学を薦められるほど、成績が良かったんです。でも、経済的に厳しい事もあって、夜間も通える医療系の専門学校へ進んだはずです。それで、ここを辞めて、静岡市へ転居しました。母方の実家があるそうで、そこから通える学校に進んだはずです。」

工場を出ると、すでに日暮れが近づいていた。
「矢野の実家は明日一番で行ってみよう。とりあえず、課長に報告して、どこか、近くのビジネスホテルでも探そう。・・腹も減ったな・・・。」
一樹はそう言って、車に乗り込んだ。亜美も慌てて乗りこんだ。
沼津から静岡まで、国道1号線を走った。途中、ファミレスに寄り、夕食を済ませることにした。
平日の夜は、ファミレスは空いていた。二人が日替わりのディナーセットを注文すると、ほんの5分ほどでテーブルに運ばれてきた。二人は無言でそれを食べた。

「あの事件で人生が大きく狂ってしまったようね。」
食事を終えて、亜美が呟いた。
一樹も「ああ」と小さく呟いた。
「その上、施設に入ってからも厳しい環境だったみたいだし、孤独の中で、心を通わせた唯一の人間もすぐに離れて行ったなんて・・・。」
亜美は少し涙声になっていた。
「矢野健一の所在が判れば・・・。」
一樹が呟く。
「今は、遠藤健一でしょ?」
「ああ・・そうだった。いや、ちょっと待てよ。遠藤健一?・・どこかで聞いたことがある名だが・・。」
一樹が、ポケットから手帳を取り出す。パラパラと捲り、はっと手を止めた。
「遠藤健一・・あった。あの検査技師の名が、遠藤健一だ。」
「えっ?」
亜美が驚いた。
「まさか・・同姓同名ってことじゃない?」
「藤原さんに連絡してくれ。遠藤健一の出生を調べてもらうんだ。同一人物ならば、静岡の実家に行く必要はない。すぐに署に戻ろう。」
一樹はそう言うと、伝票を掴んでレジへ向かった。亜美も慌てて一樹の後を追った。

二人は、東名高速に乗り、真っすぐ橋川署を目指した。
車中で、藤原女史から亜美の携帯電話に連絡が入る。
「遠藤健一。本籍地は静岡市駿河区・・。確かに、NKUに就職、その後、静岡市にある医療専門学校を出て検査技師になっているわ。静岡市にある国立病院へ勤務した後、橋川市の市民病院へ転勤になっている。神林病院に来たのは、君原副院長の推薦だったようね。」
電話の中身は、運転している一樹も聞いていた。
「今回の事件は、有田看護師と遠藤技師の共謀の可能性が出てきた。確か、下川医師を発見したのは遠藤技師だったな。・・明日、朝にも、事情聴取できるように課長に伝えてくれ。」
「わかったわ。」
ようやく事件の構図が見えてきたような気がした。一樹は、アクセルを強めに踏んだ。5/4

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