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3-6 疑惑の捜査 [同調(シンクロ)Ⅱ-恨みの色-]

「でも、実際には、殺害されていた。」と森田が呟く。
「ええ・・本当に驚きました。・・それに、今になって思えば、不自然な点はいくつかありました。」
藤堂警部補は、悔しさをにじませて言った。
「どんな点が?」と亜美が訊く。
「父親が我が子を殺せるのかという事です。それに、お嬢さんがはるか遠く、静岡で発見された。誰かが連れ去ったと考えるのが妥当でしょう。ということは、第三者が居たという証拠なわけです。」
「その事は、当時どう扱われたんですか?」と亜美。
「私は駐在として現場に駆け付けただけで、具体的な捜査には加わっていませんから、井上警部補の二人に訊かれた方が良いと思います。たぶんですが・・いったん、無理心中事件としたために、再捜査するという判断が出なかったんじゃないでしょうか・・面子を保つことも時には・・。」
藤堂警部補は、少し躊躇いながら話した。
「それが、今回の事件に繋がったんですよ!」
亜美が少しあきれた表情で言った。
「ええ・・本当に申し訳ない事です。・・事件に関わったものとして恥ずべきことだと思います。」
藤堂警部補は真摯に答える。
「他に何か・・あの事件で不自然な事はありませんか?」
森田が訊いた。
「現場では、いくつか足跡が発見されたんです。ただ、血糊の付いた足跡が・・佐藤健一さんのものだったため、それ以外の足跡は、事件以前の訪問者のものだろうという事になったようです。でも、納屋の奥にも多数の足跡がありましたし・・訪問者があったのかどうかは定かではありませんでした・・しかし、血糊の足跡は事件の大きな決め手になりましたから。何より、凶器の鉈には佐藤健一さんの指紋もありましたからね。」
「それ以外には?」と亜美。
藤堂警部補が少し躊躇いがちに答える。
「でも・・あまりにも・・都合がよすぎるんです。私の知る限り、無理心中事件では、必ず・・殺害の際の躊躇いの跡がどこかにあるはずなんですが・・それがまったくなかったのです。初めに現場を見た時、心中というよりも強盗殺人と判断すべきではないかと直感的に感じたんですがね・・・・。」
話を聞くほどに、当時の捜査が如何にずさんだったかが詳らかになっていく。
「無理心中事件と判断するのは、かなり慎重になるものでしょう?」
亜美がしつこく聞く。
「ええ・・やはり、他殺を前提にしっかり調べてからというのが定石です。ただ、当時は、あまり時間を掛けずに決定されたようですね。そのあたりは、事件の責任者だった、斉藤警部がご存じなのでしょうが・・すでに他界されましたから・・その時の様子を聞くなら、部下だった井上警部補が一番詳しいはずです。」
亜美たちは、藤堂警部補から一通り話を聞き、その日は、近くのホテルに宿泊することにした。

ホテルの部屋で、亜美とレイは窓の外をぼんやりと眺めていた。
なだらかな大地、その先に広がる海、そして、その向こうに夕日が沈んでいく。
「こんな静かな町で・・本当なら、有田さんは、とても幸せな人生を送っていたんじゃないかしら・・。」
レイが呟いた。
「まだ、やり直せる・・そうでしょう?」
亜美が呟く。

翌朝、井上警部補から話を聞くため、札幌に戻ろうと決めていたのだが、朝一番に、札幌に留まっていた松山刑事から連絡が入った。
「いったいどういう事なの?」
電話口で、亜美が興奮気味に松山に詰問する。
「昨日、話を聞くために改めて連絡を取ったんですが、有休をとっているとの事でした。それで、ご自宅に連絡をしてみたんですが、不在だったんです。井上警部補にはご家族はなく、今のところ、所在がつかめません。」
「何か手掛かりは?」
「・・それが・・さっぱりでして・・。もう少し、情報を集めてみます。」
松山の答えに三人は顔を見合わせる。
「・・松山刑事!・・佐藤一家無理心中事件の調書を手に入れてください。・・昨日の藤堂さんの話だと、何か、事件の捜査に不自然なところが感じられるんです。・・余り、考えたくはありませんが・・殺人事件を心中事件に意図的にしたような感じが否定できないんです。調書をしっかり読み込めば何かわかるかもしれません。お願いします。」
森田が、亜美から電話を取り上げて早口で伝えた。
電話口の向こうで、松山は了解したという返答が聞こえた。
「さあ・・これからどうしますか?」
森田が亜美に訊くと、亜美もどうしたものかという状態だった。
その様子を見て、レイが言った。
「事件現場に行ってみましょう。」
「でも、佐藤一家の土地は道路工事で収監されて・・現場は残っていませんよ。」と森田が答える。
「とにかく、行ってみましょう。」
亜美は森田に言ったあと、レイを見た。レイの言葉が何を意味しているかをすぐに理解していた。

十勝の町を抜け、山あいに向かう。もともと、酪農や畜産、農業の地域で、周囲は広々とした農場が広がっている町だが、佐藤一家の牧場はさらに町から外れた山裾に位置していた。途中、民家はほとんどなかった。
「あのあたりですね。」
森田が地図を見ながら指さした。自動車専用道路の高架が壁の様に立ちはだかり、景観を損ねている。森田が指差した辺りは、ちょうど道路の部分になっているようだった。
レイは森田が示す辺りをじっと見つめ、両手を組んで目を閉じた。5分ほど静寂な時間が過ぎる。
「ここに二人が来たようです。」
レイが目を開き、呟くように言った。やはりそうかといういう思いで亜美が頷く。
「どうやら、ここから西の方へ向ったようですね。」
レイはそう言うと、西側の峠の方を見た。
「それなら・・札幌方面のようね。・・私たちも行きましょう。」

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