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1-26 下川医師の行方 [同調(シンクロ)Ⅱ-恨みの色-]

二人はまっすぐ、神林病院の医事課へ向かった。
先日、下川医師の件で問い合わせた医事課長がすぐに対応した。
「下川先生は、学会に出席されていましたよ。確か、昨日にはこちらへ戻っておられるはずですが・・。」
先日に比べて、医事課長はやや丁寧だった。
「今日は出勤でしょうか?」
亜美が訊く。
「ええ、それが、出勤の予定で、外来シフトに入っていたんですが、時間になってもお見えにならないんです。携帯も繋がらなくて・・。」
医事課長は少し戸惑った表示で答える。
「行方不明という事ですか?」と亜美。
「いえ・・まだ、半日ですので、ひょっとしたら、出張の疲れで体調が優れないのかと・・。」
「ご自宅はどちらでしょう?」
「ええ、それが、姿が見えないので一応、職員が自宅に言ったんですが、お留守でして・・それに、先生の車は院内の駐車場にありまして・・こちらに出勤されてはいる様なんです。その後、どちらにいらっしゃるかが判らないんです。」
話を聞けば聞くほど、危機管理ができていないのが露見してくる。
「病院内は探されたんですよね。」
亜美はやや強い口調で尋ねる。
「研究室や病棟などには、先生がいらっしゃったら、すぐに医事課へ連絡するよう伝言しております。」
「連絡待ち?信じられない!」
亜美はかなり怒っている。
「すみません。すぐに、手分けして院内を探します。」
医事課長は亜美の剣幕に驚いて、慌てて部下に指図し始めた。医事課の職員数名が慌てて席を立ち、部屋から出て行った。
一樹と亜美も、病院内を回り、下川医師を探した。
その様子は、新道レイの耳にも入った。

コミュニティルームのある階のエレベーターホールで、レイは一樹と亜美を見つけた。
「下川先生の行方が掴めないようですね。」
レイは、事態に対してどういう風に切り出してよいものか迷いつつ声を掛けた。下川医師は自らの病院の意思であり、院長として監督する責任がある。行方が判らない事は自らの責任なのだが、一人一人の意思の行動をすべて把握しているわけもなく、どこか主体であることに実感が伴わない。それではいけないはずだが、やはり、どうにもならない。そういう感情を亜美もすぐに察知した。
「レイさん・・。」
亜美もどこかぎこちなく返答するしかなかった。
「亜美、俺は下川氏を探してくる。レイさんに少しこれまでの経過を説明しておいてくれ。」
一樹はそう言うと、エレベーターに乗った。
一樹の声はレイにも聞こえた。
二人はコミュニティルームの一番奥の席に座った。
「上村氏が自殺されて遺体が見つかったの。佐原氏の同じ文面の遺書を残していたので、二つの自殺に関連があると見て調べているの。思念波の事もあるから、誰かが恨みを晴らすために二人を追い詰めたとみているわ。」
亜美の話に、レイは悲痛な表情を浮かべている。
「下川先生と佐原氏と上村氏は、高校時代からの友人で、大学進学後も交流はあったみたいなの。二人の自殺について、下川氏が何かご存じなんじゃないかと思って、もう一度、話を伺いたくて・・。」
レイはじっと亜美の話を聞いている。
「医事課長から先ほど連絡を受けました。下川先生の所在が判らないと。これまで、下川先生は無断で休まれること等ありませんでした。いや、むしろ、休みの日でも研究室にいらっしゃるような方でした。所在が分からないなんて信じられません。」
レイが口を開く。
「もしかしたら、下川氏も狙われているのではないかと考えているんです。」
「亜美の話にレイは驚いた。
「そんな・・命を狙われるような事が・・そんな・・。」
「あの、下川氏はどのような経緯でこちらの病院へ?」
亜美は刑事らしく質問する。
「詳しい経緯は判りませんが、医事課からの説明では、この病院を立て直すために、いろいろ手を尽くして意思を探していて、紹介があったのだと聞いています。この周囲の総合病院や大学病院へ意思紹介のお願いをしている中の事だったはずです。確か、静岡の大学病院から地元へ帰る希望があったと覚えています。経歴も問題はなく、静岡の大学病院からの紹介状もありました。内科医としての評価も高かったはずです。」
「そう・・・。」
「副院長の君原先生も、静岡の大学病院の知り合いの先生から、下川先生の事をお聞きになって、内科医として問題のない人物だと太鼓判を押していただいたはずです。ですから、すぐに来ていただきようにしたんです。」
「そう・・・では、佐原氏や上村氏との関係については?」
「いえ、特に聞いたことはありません。地元に戻ってきたから知り合いが多いのは当然だと思いますが、下川先生は余りそいういう事を持ち出されるような人ではありませんでした。」
「たしか、看護師も一人、同じ静岡の大学病院からいらしてますよね。」
「ええ・・それは、下川先生からの紹介でした。」
「二人が特別な関係だとかそういう事は?」
「いえ、確か、御主人を亡くされたとかで、環境を変えることで元気づけたいとは聞きましたが、特別な関係ではないはずです。そんな噂もありませんし、勤務態度もまじめですから。」
「何か、下川先生に関して気になる事はありませんでしたか?」
亜美の質問に、レイはどう答えてよいのか判らなかった。内科部長として勤務態度もまじめで、患者からの評価も悪くない、同僚の医師からも特に問題がある様な訴えもなく、むしろ、癖のある医師が多い中で、温厚で真面目で、裏表のあるような人間でもなかった。私生活までは知らないが、トラブルを抱えているという情報も聞いていない。
「判りません。内科部長としての職務もちゃんと果たしていただいていました。」
レイの答えは、亜美にも予想は付いていた。
自分も初めて事情聴取した時、研究室の他の医師に比べて、人当たりも良く、横柄な態度をとることもなく、むしろ信頼できると思える人物に感じていたからだった。
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