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1-30 目撃者 [同調(シンクロ)Ⅱ-恨みの色-]

県道といっても、中山間地の市街地から離れた場所である。人通りなどあるわけもなく、一樹は周辺の民家を訪ねて回った。しかし、日中は留守ばかりで、これといった成果はなかった。
「人目がない事を判って、ここを選んだんだろうな・・・。」
200メートルほど上流には、赤い橋が架かっている。
対岸に民家が数軒建っているのが見える。一樹は対岸にも足を運んだ。河岸段丘になっている対岸の少し高い位置に上ると、牛洗いの滝が見える。
「ここからなら、あの川岸も見えるな。」
一樹はそう呟くと、民家を一軒ずつ訪問する。
3軒目で、ようやく、住人に会えた。
かなり高齢の女性、いわゆる老婆と呼べるほどの婦人だった。
「すみません。4日ほど前の事なんですが・・。」と一樹が切り出すと、その老婆は少し困った顔をした。
そして、俯きがちに言った。
「あの、自殺騒ぎの事だね。」
「ええ、そうです。・・豊城公園から身投げした事件で、少しお話をお聞きしたくて・・。」
「身投げねえ・・だが、ここからは、あの公園の展望台は見えないよ。」
老婆は、少しもったいぶった言い方をする。
「いえ・・そうじゃなくて、あそこに見える滝の近くの・・。」
と一樹が話し始めると、老婆は訊き終わる前に言った。
「ああ、黒い服を着た男二人がいるのを見たよ。あんなところに人がいるのは珍しいんで、何をしてるのか、ちょっと気になったくらいだがね。」
老婆は、川岸を指さしながら言った。
「確かに、男が二人いたんですね。」
一樹は確かめるように訊いた。
「ああ・・間違いない。二人とも、川岸に立っていた。何か話をしているようだった。」
「顔は判りませんか?」
「いや・・ここからじゃ、男かどうかやっとわかるくらいだね。あまり目も良い方じゃないしね。」
「その後、何か起きませんでしたか?」
「さあね・・気にはなったが・・畑に行かなくちゃならなかったから、ちらっと見た程度さ。」
「じゃあ、二人がその後どうしたかは?」
「さあねえ、ほら、その後、なんだか、豊城川辺りが騒がしくなって、ヘリコプターも飛んでいたから、まあ、川で何かあったんだろうなとは思ったんだがねえ。」
その日、捜索のためのヘリコプターが川近くを低空で飛び回っていたのを思い出して、迷惑だったという表情をあからさまにして言った。
「展望台から身投げしたんじゃなくて、あの川岸で殺されたんじゃないかと考えているんですが・・。」
「ほう・・あそこでねえ?・・」
老婆は頭をひねるようにして返答した。
「また、何か思い出したら、ここに連絡ください。」
一樹はそう言うと、名刺を差し出し、老婆の名を確認し別れた。

「一人はきっと上村氏だ。・・もう一人は、だれだ?。」
一樹はそう呟き、橋を渡りながら、老婆とあった場所と川岸とを確認した。
ゆうに100メートル以上の距離はあり、顔の判別は難しい事は判った。
そして、もう一度、県道の脇道から川岸へ降りてみた。
老婆の家が見える川岸は、レイが思念波を感じた場所だった。そこより滝に近い上流へ向かうと、木の陰になって老婆の家は見えない。
「ここに男二人が居たというのは、やはり不自然だな。きっと、上村氏と誰かが居たはずだ。」
一樹が橋川署に連絡して、1時間が過ぎていた。
県道に車両が停まるのが判った。しばらくして、鳥山課長と鑑識の川越、そして鑑識班数名が川岸に現れた。
「ここですか・・。」
川越は大きなカバンを肩から掛けて、ゆっくりと周囲を観察しながらやってきた。
「ああ・・ここだ。さっき、向こう岸の目撃者も発見できた。何があったかまでは見ていないようだが、男二人がここに居たのは確かだった。ここから、上村氏は激流に突き落とされたんじゃないかと思う。」
一樹が説明する。
「しかし、何を調べる?確か、あの日は豪雨の後で増水していたはずだ。痕跡を探すのは厳しいぞ。」
川越が戸惑っている。
「何でもいい。上村氏がここに居たという痕跡が見つかれば、自殺だと供述した秘書の証言が崩れる。遺書も誰かがでっち上げたものとなる。秘書の安永が殺人犯の可能性だってある。」
「わかった。とにかく、ここ数日の間に付いた、新しい痕跡や遺留品を探してみよう。」
川越はすぐに鑑識班に指示して、作業に入った。
「ここで上村氏が殺害されたとなると・・佐原氏の件とのつながりをどう考える?」
じっと話を聞いていた鳥山課長が一樹に訊いた。
「いや・・そこまでは・・ただ、佐原氏の件と上村氏の件は繋がっていると考えて捜査をしてきましたが、やはり、何かしっくりこなかったんです。」
「遺書の件はどうだ?」
「ええ・・関連はあるでしょうが、象徴的に同じ文面にしたのも、変に引っかかるんです。」
「模倣犯という事か?だが、あの文面はまだ公表されていないぞ。佐原氏を自殺に追い込んだ人物以外に知るものは限られているはずだ。」
「そうですね・・でも、病院関係者なら、知っている可能性はあります。」
「仮に、病院関係者が佐原氏の遺書の内容を模倣して、自殺に見せかけたとして、何かメリットはあるか?むしろ、そうしない方が、さっさと自殺で処理されるとは思うが・・。さっきお前が言ったように、秘書の安永氏が犯人だとすると、つじつまが合わなくなる。・・下川氏がここに居て、上村氏を殺害して、自殺に見せかけたというならつじつまは合うが・・あの日、下川医師は東京出張でアリバイがある。」
鳥山課長は腕組みをして、じっと川面を眺めながら考えている。
「もう一度、安永氏に話を聞くしかないでしょう。」
一樹は鳥山課長に言った。
「ああ・・・それなんだが・・・さっき、安永氏から連絡があって、上村氏の自殺の動機について話があると言ってきたんだ。ちょうど良かった、お前、これから話を聞いてこい。ただ、この川岸の事はまだ言うな。物的証拠が出て来てからだ。」
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