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1-32 紙切れ [同調(シンクロ)Ⅱ-恨みの色-]

安永秘書は、小さな紙きれを取り出した。
「これは、先生の机の中にあったんですが・・・。」
その紙きれには、短い文章が書かれていた。

『あの罪は償おうとして消えるものじゃない。世間に知られれば、家族も苦しむことになる。僕は命を絶つことで、秘密を守る。あいつには、君の事も教えた。もうすぐ君の前にも表れるだろう S』

「これは?」
亜美が安永に訊いた。
「ええ、先生に宛てたメモのようです。どこで手に入れたのかは判りません。」
「Sというのは佐原さんという事ですね。」
「おそらく。2か月前ヴェルデで会っていたのは佐原さんだったんですよね。・・これで、先生と佐原さんは同じ罪を犯し、秘密を守るために自殺したという事になるのではないでしょうか?」
一樹も、日記に一通り目を通していて、安永の話を聞いていた。
「2か月前、佐原氏と上村氏はヴェルデで会い、過去に犯した罪がばれそうだという事を知った。そして、佐原氏は病院で投身自殺し、その遺言ともいえるメモを受け取った上村氏は、豊城公園の展望台から投身自殺を図ったという事になるわけですね。」
一樹が言った。
「ええ、そうです。そうに違いありません。」
「この・・『あの罪』とは一体何でしょうか?」
一樹が安永に訊く。
「判りません。私が秘書に就く以前の事でしょうから・・。」
「最近、上村氏に何かおかしなことはなかったでしょうか?」
安永は少し考えてから答えた。
「特に・・思い詰めたような様子も感じられませんでしたが・・・ただ、あの日、病院から戻られた時は尋常ではありませんでした。すぐに部屋に入られてしまいましたし、・・そうです。少し苛立っていらっしゃった様な感じでした。きっと、病院で何かあったんじゃないでしょうか?急に、入院を取り止められましたし、きっとそうです。病院で何かあったに違いありません。」
安永は、何か焦りを感じているような口調で捲し立てた。
「そうですか・・まあ、佐原氏も病院で自殺されたわけですから、そこで何かあった・・安原氏からのメモもそこで受け取ったとも考えられますね。」
一樹が安永の言葉に応えるように言うと、
「そうです。きっとそうです。病院関係者の中に、ここにある『あいつ』がいるんじゃないでしょうか?」
一樹の推理を肯定するように安永が言った。
「では、一番怪しいのは、下川医師という事になりますね。」
一樹がさらに言うと、安永が応えるように言った。
「きっと、そうです。下川医師と何かあったはずです。下川医師も、きっと関係していると思います。」
「下川医師と上村氏の関係について、あなたはご存じだったんですか?」
亜美が驚いて訊いた。
安永は亜美の質問に対して答えに窮している様子だった。
「どういうことですか?」
一樹がさらに詰め寄るように訊く。
「いえ・・あの・・実は、先生のアドレス帳に、佐原さんと下川先生のお名前がありまして・・ちょっと調べてみたんです。高校時代の同級生で、大学時代にも交流があったようですが、あまり詳しくは判りません。」
安永は少し戸惑っているようだった。そして、アドレス帳を一樹に手渡した。
「佐原氏と上村氏と下川氏の3人に交流があったことは我々の調べでも判っています。ただ、具体的な内容が全く判らない。他に誰か、昔の三人の事を知る人物はいないでしょうか?」
「さあ・・判りません。・・昔の話は余り・・あの・・・御実家の・・量円寺はどうでしょうか?」
安永は答える。
量円寺については、松山刑事と森田刑事がすでに聞き込みに行っていた。
上村氏の兄が、跡を継いでいたが、弟とは不仲で、特に、大学時代にどのように過ごしていたのかは全く関心もなかった事は判っていた。
「そう言えば、弟さんが亡くなったというのに、こちらには来られていないんですね。」
亜美が尋ねると、安永は「一応連絡はしたのですが」と言葉を濁した。
「あの、もう一度確認しますが、上村氏は誰かに脅されていたことは本当になかったんでしょうか?小さなことでも良いんです。」
一樹が訊いた。
「先生は、市政を正しくすることに注力されていましたから・・それなりの嫌がらせはありました。でも、それは逆に、不正の存在を裏付けるものですから、先生にとっては何の脅しにもなりません。本気で命を狙らわれるようなことはなかったはずです。」
「最近は、どのような事に取り組まれていたんでしょう?」
「それは・・・刑事さんにお話しすべきことではないでしょう。」
安永の言葉は正当なものだった。不正や癒着といった類は、ともすれば重大な刑事事件でもある。確かな証拠がない限り口にすべきことではない。
「わかりますが・・上村氏がもし殺されたとなれば、話は変わってきます。いえ、自殺としても、誰かに脅されていたとすれば、恐喝、自殺強要といった立派な犯罪なのです。少しでも可能性があるのなら、それを一つ一つ調べるのが私たちの仕事ですから。」
「わかりました。少しお待ちください。」
安永はそう言うと、書斎の机の引き出しから、数冊のノートを取り出した。
「これまで先生が調べて来られた不正や癒着などの記録です。不確かなものも含めて、すべてが記載されているはずですから、慎重に扱ってください。」
一樹と亜美は、安永から書類を受けとり、合わせて、日記やアドレス帳も預かった。

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