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2-2 容疑者の男 [同調(シンクロ)Ⅱ-恨みの色-]

「静岡?・・確か、下川医師は静岡の病院から神林病院へ来たんだったな。」
一樹は何か閃いたように言った。
「そうね・・そうよね・・。」
亜美も応える様に言った。
「佐藤優香は、児童養護施設に居たのは15歳までだろう?その後、例えば、看護学校へ入っていたとしたらどうだ?今は看護師。・・そして、静岡から・・ほら、14階のナースステーションにいた・・ええっと・・」
一樹はそう言いながら、手帳を取り出して名前を確認する。
「そうだ・・有田・・有田看護師は、下川医師の紹介で静岡の病院から神林病院へ来ていた。彼女が、佐藤優香だとしたらどうだ?」
一樹が皆に確認するように言った。
「ちょっと待って・・ええっと・・」
そう言いながら、藤原女史がタブレットを開いて名簿を確認し、言った。
「有田看護師・・・旧姓は加藤祐子・・佐藤優香ではないようですね・・。」
それを聞いた森田が驚いて立ち上がった。
「加藤祐子・・ですか?」
「どうしたの?」と藤原女史。
「佐藤優香は、失語症でコミュニケーションが取れず身元が判らなかったために、施設で新しく名前を与えられたんです。その名が・・加藤祐子なんです。」
「やはり・・帯広一家惨殺事件の生き証人が、あの・・有田看護師で・・その恨みを晴らすために、犯人である、佐原、上村、下川に近づき、死に追いやったと考えられることになるが・・・」
鳥山課長が纏める形で言った。
「間違いないでしょう。・・ただ・・どうやって自殺を迫ったのかは・・。」
葉山が残念そうに言った。
「有田看護師を任意聴取して・・。」と亜美が口を開いたが、途中でやめた。
自殺を強要した証拠がない。たとえ証拠があったとしても、復讐の対象となった三人はすでに亡くなり、強要の事実は本人にしか判らない事であり、立証するのは難しい。最初の佐原氏の自殺発生の段階で、そのことは充分に判っていたはずだった。だが、これだけの情報がある。それでも真相に辿り着けない。何か突破口は無いものか、この場に居る全員の思いだった。
「皆、もう一度、冷静に考えよう。これが、帯広の事件を起こした犯人への復讐であれば、これ以上の犠牲は出ないだろう。今まで集めた情報を見直してみよう。」
鳥山課長がまとめ、その日、捜査会議は終了となった。

外は、すっかり陽が落ち、夜の闇に包まれている。橋川署の前にある国道を、長距離トラックが何台も走り抜けていく。
「飯でも食って帰るか・・。」
一樹はそう呟くと車に乗った。しかし、しばらく、駐車場から動かなかった。
「そもそも、有田看護師は、帯広の犯人の一人がなぜ下川医師だと判ったんだろう。偶然か?それとも何か手掛かりがあったのか?」
一樹はそう呟いて、車を降りた。そして、橋川署に戻って行った。
「課長!」
「なんだ、まだ居たのか。」
「どうもスッキリしなくて・・すみません。もっと、有田看護師の事を調べなくちゃいけないんじゃないでしょうか?」
「ああ・・そうだな。有田看護師が加藤祐子だという確証、そして、下川医師のと関係、復讐までの経過、ここまで来たからには今更、自殺では処理できん。」
「明日一番で、三島に行ってきます。」
「ああ・・そうしてくれ。」

翌朝、一樹は亜美とともに、三島方面へ向かった。
東名高速道路を走っている途中で、「有田看護師が育った養護施設は廃止されたようだけど、当時の施設長の所在は判ったから、住所を送ります。」と藤原女史から連絡が入った。
「当時の施設長は、勝俣時子さん、現在85歳のご高齢らしいわ。」
亜美が携帯メールを見ながら一樹に言った。
勝俣施設長のお宅は、静岡市郊外の安部川を見おろす高台の住宅地の中にあった。
古い一戸建てで、現在一人暮らしだった。

「ええ・・覚えていますよ。保護された時は身元を示すものを全く所持していなかったんです。ですから、身体的な特徴から小学校入学前だろうと判断しました。名前は、園の名を名字に、下の名は私が付けました。」
勝俣時子は、温和で上品そうな表情を浮かべ、ゆっくりと思い出すように話した。
「身元が判明した後も、名前はそのままだったんですか?」
一樹が訊く。
「いえ、手続きは行ったのですが、ご家族が全員亡くなっていて、まだ小学生だった彼女を引き取ってもらえる縁者もなく、結局、こちらへ戻ってきたんです。名前は戻すかどうかも話し合ったんですが、悲しい事件を引きずることになるだろうと、そのまま、加藤祐子のままで、ここでは過ごしていました。」
一家全員惨殺されたことで精神的な影響を受けているのは確かで、彼女の将来を考えての措置だったことは理解できた。
「あの・・彼女は失語症だったと・・。」と亜美が訊く。
「ええ・・失語症というか・・いつもうつろな表情で、こちらからの働きかけにはまったく反応しないんです。泣いたり、怒ったりもしない。まるで、心を失くしたような状態でした。心療内科へは何度も受診し、治療も行ったんですが、なかなか改善しなくてね・・」
勝俣は悲しそうな表情浮かべていた。
「どれくらいまで・・」と亜美も同じような悲痛な表情で訊いた。
「その後の事は、判りません。私は、加藤さんが施設に来て2年目に、退任しましたから・・加藤さんの事なら、指導員で来られた、石黒先生なら、良くお分かりになるんじゃないかしら。子どもたちの事を最優先で考えておられたようですから・・・」
勝俣時子は何か含みを持たせるような言い方をした。
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