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2-10 招かれざる客 [同調(シンクロ)Ⅱ-恨みの色-]

三人がサイロの建物に潜んでから、1時間ほどが過ぎた時だった。
夕食を終え、家族はそれぞれ自分の部屋に戻ったようで、先ほどまでオレンジ色の灯りが点っていた食堂と思しき部屋の明かりが消えた。
しばらくすると、母屋の裏口から、誰かが出てくるのが見えた。
黒い影は、何か大きなものを抱えて、足音を忍ばせるようにして、サイロのある建物へ近づいてくる。そして、灯りもつけずに、建物の中に入ると、丸く固められた牛用の飼料の中に手を突っ込んでいるようだった。ごそごそとしばらくその動きが続いた。そして、抱えてきた大きなものをその中へ入れている。薄暗い中でどれだけ目を凝らしても、はっきりとした様子は判らなかった。
その間、三人はじっと息を潜めていた。
作業が終わると、その人影は再び、母屋へ戻って行った。そして、母屋の灯りが消えた。

三人は、静まった様子を確認して、先ほどの作業をしていた場所へ出てみた。
薄暗い中だが、随分と目が慣れてきて、間近の様子は判別できるほどになっていた。
「おい、これ・・。」
そう言ったのは、上村だった。飼料の中には、昼間見たアタッシュケースが押し込まれていた。
「ここに隠したんだ。」
上村は、そのアタッシュケースを取り出して、確認する。
「ああ、きっと家族にはまだ、話してないんだろう。」
下川が言った。
後ろめたい「金」であるのは間違いなかった。
上村は、アタッシュケース2個を地面に置く。そして、そっと開いてみる。中には、100万円の束が綺麗に並んでいる。まだ手を付けていない様子だった。
「おい、袋を出せ!」
上村が指示をする。
「本当に盗むのか?」
佐原が確認する。
「ここまで来て、手ぶらで帰るのか?・・言っただろう。ちょっと借りるだけだ。真面目に働いて返しに来るんだよ。」
勝手な理屈だった。
佐原が、仕方なく、服のポケットから、黒いごみ袋を取り出すと、上村は、それをふんだくるように受け取り、アタッシュケースから札束を袋に移す。
アタッシュケース2つ分の札束は、黒いごみ袋4袋に分けた。そして、空になったアタッシュケースには、散在している飼料の干し草を詰め込んで、元の場所に戻した。それから、三人は物音を立てないよう、サイロのある建物から外に出ようとした。
その時、牧場の前の国道から、車のエンジン音が響いてきた。
「おい、まずい、隠れろ!」
三人は、慌てて、元の場所に身を潜めた。
国道を走ってきた車は、ライトを消して、ゆっくりと佐藤牧場へ入ってくる。
よく見ると、それは、昼間に喫茶店で、見た黒い高級外車で、運転席と助手席に、あの若い男二人が乗っていた。
「あいつら・・。」
予想がついていたように、上村が呟く。
母屋の玄関で、男たちは、家の中の様子を伺っている。そして、裏手に回り、裏口から入って行った。
「権利書をいただきに来たぜ!」
少し乱暴な言葉で若い男が言った。
薄暗い部屋に男の声が響く。すぐに、牧場の主人、佐藤健一郎が飛び出してきた。
「静かに!」
「ああ・・悪かった。・さあ、約束の権利書・・出してもらおうか?」
「わかりました。すぐに用意します。ちょっと待ってください。」
そう言うと、佐藤健一郎は一旦奥へ入り、すぐに、権利書をもって戻ってきた。
若い男の兄貴分と思しき方が、それを開いて内容を確認する。
「よし、これで社長との取引は完了だな。・・じゃあ、明日にでも出て行くんだ。良いな。」
兄貴分の男は、にやにやしながら言った。
「いや・・明日というのは・・・まだ、親父にも話していないんだ。・・工事もまだすぐには入らないはずだ。せめて、1ヶ月は待ってくれ!」
佐藤健一郎は、至極、当たり前な事を要望した。
「おいおい・・あれだけの大金を手にしただろうが、・・家も家財道具もキャッシュで手にできるだろ?」
「そんな‥、無茶な!・・。」
「ほう、そうか・・なら、あの金は返してもらおうか。借金だけは帳消しにできるがな・・その先はどうなることかな?」
意地悪そうに、兄貴分が言う。
「そんな・約束が違う・・・おい、その権利書を返せ!・・・金も返してやる。さあ!すべてなかった事にする。返せ!」
佐藤健一郎は、兄貴分の手にある権利書を取り返そうとするが、あっという間に、弟分の男に、腕を羽交い絞めにされた。
「おい、俺たちに逆らおうってのか?・・身の程知らずだな。」
弟分の男は、羽交い絞めにした腕をさらに強く締め上げる。
「もともと、あんな大金、お前にはもったいないんだよ!・・こんな土地にこだわって、儲かりもしない牧場なんかにしがみついてるから、こんなことになるんだ!・・お前には、借金を苦に一家心中って筋書きがピッタリなんだよ!」
そう言うと、兄貴分の男が、佐藤健一郎の顔を殴りつける。
「おい、金はどこだ?金だけでも返せば、命は助けてやろう。どうだ?」
「わ・・わかった・・・。」
佐藤健一郎は、もはや観念した。これ以上逆らっても話が通じる相手ではない。
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