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2-11 惨劇 [同調(シンクロ)Ⅱ-恨みの色-]

佐藤健一郎は、若い男たちに小突かれながら、母屋を出て、サイロのある建物に入った。
「おい、金はどこだ!早く出せ!」
強面の兄貴分の男が太い声で脅すように言った。その様子から、昼間のやり取りを聞いていた、上村と下川は何が起きているのかすぐに判った。男たちが金を取り返しに来たのだった。
「命が惜しけりゃ、全部出せ!」
その言葉に、佐藤健一郎は、先ほど自分が隠した場所を指さした。
「持って来い!」
すぐに、弟分の男が佐藤健一郎と一緒に、飼料の山の中から、アタッシュケースを引っ張り出して、兄貴分のところまで運び出した。アタッシュケースがゆっくりと開けられた。しかし、中は、飼料屑が詰まっているだけだった。
「おい、これはどういう事だ!金は、金はどうした!」
兄貴分の男が強い口調で佐藤を問い詰める。問われた本人もどういうことか理解できない。兄貴分の男は顔を紅潮させ、佐藤を殴りつける。
「ふざけてないで、金を出せ!」
そう言いながら、何度も殴りつける。そのうち、佐藤は気を失ってしまった。
「おい、金を探すぞ!」
兄貴分の男はそう言うと、佐藤を放置して、母屋に戻る。
家人たちは、物音に気付いて起きだしていた。最初に、男たちに出くわしたのは、佐藤の父親だった。男たちの様子から、尋常ではない事はすぐに察知した。そして、土間に置かれていた鉈を手にした。
「出ていけ!」
高齢ながらも気丈な父親は、若い男たちに向かって、鉈を振り上げて威嚇する。しかし、若い男たちは、ひるむことはなかった。弟分の男が、父親を蹴りつけると、転んだ隙に、父親から鉈を取り上げた。
「おい、金はどこだ?・・昼間、息子に渡した大金はどこだ?」
凄んで問い詰める。しかし、父親は意味が解らない。
「ちっ!」
弟分の男は舌打ちすると、無表情に、鉈を振り下ろす。それは、父親の首筋を直撃し、真っ赤な血が噴き出した。それを見た弟分の男は、正常さを失った。訳の判らない言葉をつぶやき、凶器に満ちた表情を浮かべて、奥の部屋に向かう。
そこには、佐藤の母親と妻が立っていた。弟分の男は躊躇することなく、鉈を振り下ろす。二人とも、叫び声さえも上げる間もなく、絶命した。さらに、奥の部屋に踏み込んだ。そこには、小学生の男の子が立ちすくんでいた。
「ワー、ワーッ!」
男の子は、恐怖のあまり、叫び声をあげる。それでも、若い男は容赦なく、鉈を振り下ろす。
もはや、家の中は血の海になっていた。
後を追って、母屋に入った兄貴分の男は、余りの光景に驚いた。金を手にする事が目的だったはずが、一家皆殺しとなってしまっていた。
「おい!おい!やめろ!」
兄貴分の男の声で、弟分はようやく正気に戻った。全身、返り血を浴びていた。
「兄貴、どうしよう・・・。」
「この馬鹿が!」
兄貴分の男はそう言うと、弟分が手にしていた血塗れの鉈を取り上げて、手近にあったタオルで持ち手を丁寧に拭きとった。
「・・しかたない、・・一家心中に見えるよう細工するしかない・・・。」
そう言うと、鉈を持ったまま、サイロのある建物に戻って行った。
佐藤健一郎はまだ気を失ったままだった。
兄貴分の男は、鉈を佐藤健一郎の右手に握らせる。そして、弟分と佐藤の靴を取り換え、一度、母屋に戻らせた。そして、血に染まった床をひとしきり歩かせると、再び、サイロのある建物に戻り、佐藤にもう一度靴を履かせた。それから、建物の隅にあったトラクター用のガソリンタンクを運び、佐藤の全身に浴びせた。
「これで良いだろう。」
兄貴分の男は、そう言うと、藁に火をつけ、横たわる佐藤に投げつける。ガソリンに塗れた佐藤の全身を劫火が覆った。叫び声さえもなかった。
「おい、逃げるぞ!」
二人の若い男は、急いで車に飛び乗ると、峠の方角へ走り去っていった。
一部始終を、佐原、上村、下川の三人は、息を潜めて見ていた。
予想外の出来事だった。だが、確かに目の前で、一家皆殺しが行われた。そして、その発端は自ら招いたことだという事は明白だった。そのうち、佐藤健一郎の全身を包んでいた炎が、サイロの中の飼料にも燃え移る。三人は慌てて、建物を飛び出した。
「逃げよう!・・このままじゃ。俺たちが殺人犯になる。」
勝手な言い分だったが、上村の言葉に、佐原も下川も頷いた。
大きな袋を抱え、母屋の前を通り過ぎた時、佐原の目に人影が見えた。いや、そんな感じがした。
「ちょっと待ってくれ。」
佐原はそう言うと、抱えていた袋を地面に置き、母屋の裏口から、中を覗いた。
食卓の置かれた部屋の灯りで見える光景は、言葉にできないほど惨いものだった。佐原は蹲った。そんな様子を見ていた下川が、佐原の横に立ち、同じように中の様子を確認する。下川は医学生だった。実習の中で、手術の見学があり、真っ赤な血液が流れ出る光景はある程度見慣れていた。だが、そんな下川さえもその場に蹲ってしまった。
「おい、急げ。」
既に、出口付近まで逃げ出していた上村が声を掛ける。
「ああ・・すぐ行く。」
下川が答える。
「佐原、行こう。」
「ちょっと・・待ってくれ・・ほら・・あそこ。」
佐原が指差した先には幼子が立っていて、こちらを見ていた。

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