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44.薬品庫 [AC30第1部グランドジオ]

薬品庫の中に入った二人は、目当ての薬を探した。
ガウラは、収納されている薬に大いに興味を持った。300年以上前の薬だったが、きちんと管理されていた。しかし、種類が異常に多かった。目当ての薬にはなかなか辿り着かない。
「お手伝いしましょう。」
エリアキーパーが長い腕を伸ばし、棚の中を探索していく。
薬品庫の中ほどまで来たところで、エリアキーパーが腕を上方に伸ばし始めた。天井近くの棚まで腕を伸ばすと、そこから箱を取り出す。
「これでしょう。」
エリアキーパーはガウラの前に箱を置いた。すぐに中を開いて薬品名を確かめる。
「間違いないわ。これでプリムは元気になれるわ。」
笑顔でガウラが答える。
「これも持っていくと良いでしょう。体力が落ちているでしょうから、即効性の栄養剤です。それと神経強化剤もあると良いでしょう。」
次々に薬を取り出し、ガウラの前に置いた。
「これだけあれば充分だわ・・。急いで戻りましょう。」
すぐに箱をまとめた。

ライフエリアに戻る通路までは、エリアキーパーが薬の箱と二人を腕に乗せて運んだ。
「ユービックはお持ちですか?」
戻る途中で、エリアキーパーが尋ねる。
「ああ、持ってる。だが、ホスピタルブロックでは使えなかったよ。」
「あそこはホスピタルセンターと呼ばれていて、高度な医療機器が在って、治療に支障が起きないように通信遮断されています。他のホスピタルブロックとは違うのです。」
「そうか・・・。」
「ユービックを通じて、私にコンタクトできますから、また、必要なものがあれば指示してください。あの扉までは持っていけますから。」
「判った。・・・だが、ジオフロントの復活はまだ約束できません。エナジーシステムの修復には、カルディアストーンを入手しなければなりません。でもその当てがありません。」
「そこまでお分かりなら十分でしょう。きっとカルディアストーンは見つかります。」
エリアキーパーは言った。
「その前に、ライフエリアのエナジーシステムの修理が先でしょ?」
ガウラが言った。
「ライフエリアのエナジーシステムも故障しているんですか?」
エリアキーパーが訊く。
「ええ・・あと10年持つかどうか・・・それが停まれば、皆、死ぬことになります。・・あそこにもカルディアストーンが必要なのです。・・・。」
しばらく、エリアキーパーが沈黙した。そして、言った。
「それは予測されていませんでした。ジオフロントのエナジーシステムに不具合が発見された時、緊急用として設置されたものでした。カルディアストーンに異常がなければ半永久的なシステムです。あと10年というのは危険です。おそらく、その間に不具合が起きれば突然停止の可能性が高いはずです。急がなければなりません。」
「どこかに代替システムはないの?」
ガウラが訊いた。
「あるなら、ここを閉鎖することはありませんでした。とにかく、一刻も早く、カルディアストーンを手に入れなければいけません。」
エリアキーパーは先ほどとは違って切迫した状態であると警告する。しかし、カルディアストーンは自然石ではなく、高度な科学力が産んだ人工石であった。ジオフロント以外の場所、オーシャンフロントこそが唯一の望みであることをキラは判っていた。

45.フローラの異変 [AC30第1部グランドジオ]

ライフエリアへの通路に到着した。帰りはハウスキーパーに乗って戻ったために、最初の予定の半分ほどの時間で済んだ。おそらく、ライフエリアに着くころには、まだ、皆、眠っている時間だ。
キラとガウラは大きな薬の箱を背負い通路への階段を上る。
「お気をつけて。・・それから、私にはクライブント様からいただいた名前があります。エリックと呼んでください。」
エリアキーパーはそう言って、二人を見送った。
外見はまったくの工作機械に様に見えるのだが、口調や考え方は妙に人間じみていた。
「エリックだって・・なんだかおかしなロボットね。」
通路を歩きながら、ガウラが思い出したように言った。
「ええ・・・ちょっとハンクに似ているみたいでした。」
「そうね・・力持ちだし・・真面目なところも・・・。」
目当ての薬を手に入れて、ガウラは少しほっとしていた。これで確実にプリムは回復するはずなのだ。
セルツリーに下りる階段に着くと、キラが先に降りて、コムブロックの様子を伺う。まだ、だれも起きていないようだった。すぐに、ガウラに知らせ、二人は静かにホスピタルブロックへ向かった。

二人が禁断のエリアから通路に戻ったころ、ホスピタルブロックでは、フローラに異変が起きていた。
夕食のあと、再び眠りに落ちたフローラが、急に苦しみ始めたのだ。
傍に居たCPXは、すぐにベッドサイドのバイタルモニターを確認した。血圧が上昇、体温も38℃を超え、脈拍も通常の倍程度まで増えている。そして、フローラは全身が痛いのか、手足を折り曲げた格好で苦しんでいたのだ。
CPXは、ガウラの姿に変身し、ベッドサイドですぐに鎮静剤を投与した。だが、すぐには、容態は変わらなかった。狭いベッドの中で、フローラは苦しんでいる。しかし、CPXにはそれ以上手当ての方法がなかった。
鎮静剤が幾分利きはじめたのか、フローラがうっすらと目を開けた。
「フローラ様・・大丈夫ですか?」
CPXはそう言うと、もとの球形に戻った。
「ガーディアンのCPX4915です。判りますか。」
CPXは呼びかけた。だが、フローラの記憶の中にCPXは無かった。フローラは、驚いて、目の前の球形をしたCPXを手で払いのけた。CPXは、ころころとベッドの下に転がった。
「・・キ・・」
何か、フローラが譫言を呟いているようだった。CPXが音声解析すると、小さな声で「キラ」と言っているように聞こえた。CPXはすぐにキラの姿に変身した。
「フローラ・・判るかい?しっかりするんだ。」
CPXはキラの声をコピーし、優しく言った。
フローラの表情が少し緩んだように見えた。だが、再び、もがき苦しみ始める。
「痛い!痛い!」
彼女はそう叫ぶと、腕や足の関節辺りを押える。
「鎮痛剤の方が良いようですね。」
キラの姿をしたCPXは、鎮痛剤を投与する。すぐに痛みが和らいできたのか、フローラは静かになって、再び眠りに落ちた。
「ガウラ様が申された通りだった。・・・」
CPXは、静かになったフローラのベッドサイドで、バイタルモニターをチェックする。驚いたことに、身長がぐんと伸びている。髪の毛も伸びているようだった。顔だちも変わってきている。
そこへ、キラとガウラが戻ってきた。
「薬は手に入ったわ。・・フローラの様子はどう?」
ガウラはすぐにフローラのベッドサイドに来た。
「え・・これがフローラ?・・一晩でこんなにも成長しているなんて・・・。」
ガウラは驚いた表情でバイタルモニターをチェックする。
「鎮静剤と鎮痛剤を投与しました。」
横でCPXが言う。

46.コールドスリープ解除 [AC30第1部グランドジオ]

「停まっていた時間が急に流れ出して異常な速さで成長しているわ。・・ひょっとしたら、彼女の実年齢15歳まで成長が続くかもしれないわ。」
ガウラが心配そうな表情で言う。今のスピードなら1か月ほどはこんな状態が続くとガウラは続ける。
「ただ・・体は大きくなっても、知能がついていかないはず。脳へのダメージもどうなのか判らないし・・。心と体のバランスが崩れるかもしれないわ。・・キラ、やっぱり当分フローラをここで預かるしかないようね。」
キラは同意するほかなかった。たとえ、元気になっても、コムブロックの中で皆と一緒に穏やかに暮らせるとも限らない。いや、おそらく、受け入れてもらうには相当の時間が必要だろうと考えていた。それならば、ここでじっくり時間をかけて普通の暮らしができる条件を整える事が必要だと考えた。
「ガウラさん、お願いします。ライフエリアのみんなの事は僕が何とかします。それまでフローラをお願いします。」
ガウラも承諾した。
「さあ、次は、プリムの治療よ。CPX、コールドスリープを解除してここへ連れてきて。」
すぐにCPXがプリムを連れてきた。
ドラコの消化液による壊死は食い止められていたが、体温を徐々に上げていくにつれて、再び壊死が広がり始めた。
「一刻を争うわよ。さあ、始めるわ。キラ、手伝って!」
持ち帰った薬が投与される。10分、20分、時間の経過とともに、茶色に変色していた手足の先端が徐々に黄色くなり、血液の循環が始まった。
30分を過ぎた時、栄養剤と神経強化剤を投与すると、プリムの指先がピクリと動いた。
「キラ、もう少し体温を上げましょう。」
ガウラが言うと、キラがベッドの上部にセットした治療具の調整をする。
透明のカバーに覆われたベッドに横たわるプリムの体温が少しずつ上がっていく。呼吸と脈拍も次第に高くなる。
1時間ほどで完全に平常の体温と血圧まで戻った。
「あとはプリムが意識を取り戻すのを待つだけね。」
ガウラは一つ深呼吸をするとそう言って、椅子に座りこんだ。プリムに治療を始めて1時間ほどが経過し、昨夜から一睡もしていないこともあり、ガウラは疲れ切っていた。そのまま、椅子で眠ってしまった。
キラはしばらくプリムの容態を診ていたが、同じように、椅子に持たれた格好で眠っていた。
CPXはキラに姿を変え、ガウラを抱え上げて、ベッドに移動する。同じように、キラも抱え上げ、フローラの隣のベッドに寝かせた。早朝の静かな空間で、フローラ、プリム、キラ、ガウラの4人がベッドで眠り、それをCPXが傍で静かに佇んでいる。しばらくは静かな時間が流れた。

コムブロックに人々が集まってきて、朝食の準備が始まり、にぎやかになった。昨日の出来事は誰も口にしなかった。皆、複雑な思いを抱えていたのだろう。良いとか悪いとかいう事ではない。このジオフロント以外にも人間が居る事が判ったのは、皆に何か救われた思いを抱かせた。だが、外から現れたあの少女はここに居る人々とは余りにも姿が違っていた。透き通るような白い肌、赤い髪、青い目、か細い手足、どれを見ても同じ人とは思えず、それが不安を広げていた。救いと不安が入りまじり、言葉にするのが怖かったのだった。
ハンクとアランは、朝食を持って、ホスピタルブロックへ向かった。まだ、キラもガウラも静かに眠っていた。
「もう、戻ってきたのか?」
アランが驚いてCPXに訊いた。
「はい。明け方に戻ってこられて、すぐにプリム様の治療をされました。」
それを聞いたハンクは、プリムのベッドを覗きこんだ。
「おお!プリムが、・・プリムが!・・・治療は成功だったんだね!」
ハンクは半泣きでベッドを覗きこんでいる。
「あとはプリム様の意識が回復するのを待つだけだそうです。」
「良かったなあ!」
アランがハンクの肩を抱いて喜んだ。その声で、キラが目を覚ました。
「キラ!ありがとう!ほんとにありがとう!」
目を覚ましたキラを見つけて、ハンクが駆け寄って礼を言う。
「疲れてるだろう、まだ寝てれば良いさ。今日の仕事は俺たちがやっておくから・・。」
アランも喜んでいた。

47.勇者の誓い [AC30第1部グランドジオ]

夕方近くまで、キラは眠っていた。少し前に、ガウラは目を覚まし、プリムとフローラの容態を診てから、自分のセルへ戻っていた。アランとハンクは、コムブロックで与えられた仕事をこなし、夕食をもって、再びホスピタルブロックに現れた。
「キラ、もう夕方よ。」
キラは、ガウラに起こされた。フローラはまだ眠っている。アランとハンクは、キラから禁断のエリアの様子を聞きたくてベッドサイドに座って待っていた。
目を覚ましたキラは、一通り、コアブロックやホスピタルセンターの様子を話した。二人は真剣な表情で話を聞いた。
「エリックというロボットが居たんだ。」
キラが口にすると、ガウラが突然笑い始めた。エリックとハンクが重なったに違いなかった。
「エリックは300年以上、じっと待っていた。最後の統治者、クライブントの遺言を守っていたんだ。」
「クライブントの遺言?」
アランが反応した。
「ああ、クライブント導師はジオフロントが閉鎖された時の最後の統治者だったんだ。その意思をコンピューターに残し、ライフエリアの人間が誤まった道へ進まないようにしたんだ。そして、クライブントは、エリックに勇者が来るのを待っているように遺言した。」
キラが言うと、アランは少し憂鬱な表情で言った。
「あの扉の張り紙もクライブントか・・・なんだか、遠い昔の亡霊に操られているみたいだな・・・。」
アランの言うとおりだった。
「そんな事よりも、まず、目の前の問題だ。ジオフロント復活は確かに大きな夢だが、まずはライフエリアの延命だ。エリックは、緊急用のエナジーシステムはいつ停止してもおかしくないと言っていた。ジオフロントのエナジーシステムも不具合が見つかってすぐに停止したようだ。・・時間がない・・・。」
キラは真剣な表情で言った。
「だが、カルディアストーンの在り処は判らないんだろう?」
ハンクが訊くと、キラは落胆した様子で答える。
「ああ・・そうなんだ・・・。オーシャンフロントが唯一の望みだったんだが・・・どこにあるのか・・」
「そうだったな。」とアランが言う。
「春が来れば、近くに現れるかもしれないんだろう?」
ハンクがわずかな望みをつなぐように言う。
「春を待つしかないか・・・。そうだな・・。その間にできる事をやっておこう。」
キラが言うとアランが訊く。
「できること?」
「まずは、フローラの事だ。しばらくはここに居るとしても、いずれみんなと一緒に暮らせるようにしなくちゃいけないだろ?・・それから、ライフエリアの寿命を話さなくちゃならない。きっとみんな、パニックになるだろう。クライブント導師の秘密、禁断のエリアの事・・・とにかく、ライフエリアのみんなに本当の事を知らせなきゃ。」
アランやハンクの頭にはライフエリアの皆の顔が浮かんでいた。今まで信じてきたものすべてを覆すような話を素直に聞き入れるとは思えなかった。クライブント導師の事だけでもかなりの困難が生じる事は明らかだった。
「できるかな・・。」
ハンクがぼそりと呟く。アランもキラも応えられなかった。
「やるしかないでしょ?もう扉は開かれてしまったのよ。あなたたちは勇者になるの!」
三人の様子を見ていたガウラが励ますように言った。
「勇者・・か・・・」
アランが呟く。
一部始終を聞いていたCPXがみんなの前に転がってきた。
「大丈夫です。私が必ずオーシャンフロントを呼び寄せます。フローラ様も、オーシャンフロントへお帰りいただかないとなりません。そうするのがガーディアンの私の使命ですから。」
「そうだな・・・どんなことがあってもやり遂げなくちゃいけないんだ。勇者の道を選んだのは自分自身なんだから。アラン、ハンク、ガウラさん・・一緒にやり遂げましょう。」
キラが力強く言った。

48.決行の日 [AC30第1部グランドジオ]

フローラはその日からしばらく目を覚まさなかった。その間、ガウラは、CPXの力も借りながら、自らの持てる知識を総動員して、必要な栄養剤を投与し、鎮静剤や鎮痛剤も使って、フローラを診つづけた。プリムの体は、ほぼ完治していたが、意識が回復しなかった。
キラたちは、昼間はコムブロックで与えられた仕事をこなし、夜にはホスピタルブロックへ集まって、これからの相談をした。時折、ジオフロントのエリックにもコンタクトして、情報を集めた。三人は何度も何度も議論した。
当初は、フローラの受け入れられる環境を作る事から始め、馴染めたところで、自分たちの置かれている状況を知らせる方が良いというハンクの考えで、まとまりつつあった。だが、時間が掛かり、春になるまでにうまくいかず、仮に目の前にオーシャンフロントが現れたら、取り返しがつかなくなるとアランが言い出した。
アランは、ジオフロントへ他の人間も連れて行ってはどうかと言い出した。そして、山ほどある武器を持ってきて、春に地表に出てから虫たちを駆除して、安全なエリアを作るのはどうかと言った。一度も地表を見たことのない人間もいる。外の世界を見れば考えも変わるのではないかと考えたのだった。だが、禁断のエリアへ行こうという者がいるかどうか、武器を持って地表に出られるのは春になってからで、やはりオーシャンフロントが現れれば間に合わなくなるかもしれなかった。
何度も話し合った結果、皆が崇めているクライブント導師が実在していない事を明らかにする事に至った。
決行は、プリムの意識が回復する日と決めた。
その日の朝、ガウラは、プリムの変化に気づいた。狭いベッドの中で、プリムの腕が動いているのを見つけた。
「プリム、目が覚めた?」
プリムは目をはっきりと開け、自分の両手を目の前にかざしてしげしげと見ていた。
「もう大丈夫よ。・・辛かったでしょう・・。」
すぐに、キラとハンクとアランが顔を見せた。
「プリム、良かった。助かったな!」
ハンクはプリムの手を取って喜んだ。
「起こしてくれないか・・。」
プリムが言う。ハンクはプリムの背に手をまわして、ゆっくりと上半身を起こしてやった。ガウラが温かいスープを持ってきて、プリムに飲ませる。プリムはゆっくりとスープを飲んでから言った。
「長く暗闇の中に入っていた気分だよ・・・。」
「しばらくはリハビリが必要ね。・・・歩くところから始めなくちゃ・・。」
プリムが意識を回復した事でいよいよ決行する事となった。
その前に、プリムにこれまでのいきさつをハンクが説明した。

いつものように、コムブロックには十人のほとんどが集まっている。毎朝、朝食を済ませ仕事に入る前には、クライブント導師の話を聞くのが習慣だった。
コムブロックの中央にビジョンが開かれた。皆、真っ直ぐにビジョンに向かい、映し出されたクライブント導師を見つめている。
『みな、息災の様だな。極寒の季節が来た。これから100日間、地表は氷に閉ざされ、活けるモノはすべて地中に潜る。われらも同様である。次の春が来るまでやるべきことは多い。辛い季節だが、皆、力を合わせて乗り切るのだ。』
落ち着いた声がコムブロックに響く。
これまで何度も同じ言葉を聞いてきたように感じられた。だが、集まった皆はじっと目を閉じて静かに聴いている。数年前、収穫物が少なく食糧不足が生じた年には、クライブント導師のこの言葉で、皆が絶え凌いだ。狩猟で命を落とした者が多かった年も、クライブント導師の言葉が皆を救った。
キラはクライブントの言葉を聞きながら、これからやろうとすることが、ライフエリアの住人の未来に繋がる事なのか、改めて自問自答していた。
クライブントの話が終わると、キラの父アルスが一歩前に出た。
「今年は、若者たちが力を発揮して、多くの収穫がありました。ドラコの肉も手に入りました。春まで安心して暮らせます。これも導師の御導きによるものです。感謝いたします。」
そう言って、深く頭を下げた。
『善き事じゃ。若者は我等が未来。もっと励むが良い。』
クライブントの言葉が再びコムブロックに響く。

49.本当の事 [AC30第1部グランドジオ]

「クライブント様!」
キラが声を響かせて、皆の前に出た。
「クライブント様、お尋ねしたいことがあります。」
父アルスは困惑した表情でキラを見た。
「なんだ、いきなり!無礼であろう!」
キラはアルスの制止を聞かず続けた。
「あなたは、ジオフロント最後の統治者だった方でしょう。そしてあなたはもうこの世にはいないのでしょう!」
キラの声がコムブロックに響いた。
「キラ!黙れ!下がれ!」
アルスが車椅子を勢いよく動かし、キラの許へ来た。
「父さん。父さんだって、判ってるはずだ!導師は、実在していない。遠い昔の亡霊に過ぎないんだ!」
キラが叫ぶ。
「黙れ!黙るんだ!」
アルスがキラを殴りつける。
車椅子の体になったとはいえ、昔はエリア一番の怪力の持ち主だった。太い腕で、殴られたキラは数メートルも飛ばされ、アランの足元まで転がった。
若者たちや子どもは、何のことか判らない様子で大人たちを見た。だが、大人たちはじっと静寂を保ったままだった。
アランが手を貸して、キラはゆっくりと立ち上がった。そして、居並ぶ住人達に向かって、キラが言った。
「僕は、禁断のエリアに入りました。」
それを聞いて住人達からざわめきが上がる。
「これを見てください。」
差し出したのはユービックだった。
「これは、禁断のエリアから持ち帰ったものです。・・さあ、見てください。」
ユービックから、禁断のエリアの様子がぼんやりと浮かんでいる。
映像は、クライブント導師が映っているビジョンに転送される。ぼんやりと浮かぶ映像、エリックのカメラが映し出したものだった。
「死に至る病が蔓延し、閉鎖されたと教えられ、立ち入ることを禁じられた場所。でもそれは嘘でした。ジオフロント全体を支えていたエナジーシステムが壊れ、機能が低下し、住めなくなったんです。その時、一部の人間を選び出し、ライフエリアで暮らすことが許された。大半の人間は、ジオフロントの中で亡くなったんです。・・そうですよね、クライブント様!」
ビジョンのクライブントは答えなかった。キラは構わず続ける。
「その時、決断したのが、ジオフロント最後の統治者であったクライブント様です。人類の滅亡を避けるためとはいえ、何万人もの人が、絶望の中で、自ら命を絶った。おそらく、想像を絶する世界だったはずです。そして、一番最後に命を絶ったのがクライブント様でしょう。」
「もう良い。止めろ。止めてくれ!」
キラを制止するように、父アルスが言った。そして、続ける。
「もう、はるか昔の先人類の時代の事だ。・・それに・・われわれの命は、その尊い犠牲の上に繋がっているんだ。」
アルスは全て知っているようだった。
「お前には・・私の命が尽きるときに伝えるつもりだった。・・ここに居る大人たちはみなそうやっていつか真実を伝えられることになっていたんだ。・・だが・お前は、禁断のエリアに立ち入った。・お前はこのライフエリアの秩序を壊した。・・・もはやここで生きる資格はない。」
アルスはそう言うと、キラの手からグラディウスを奪い切りつけた。しかし、不自由な体では長いグラディウスを思うように扱えず、剣先は空を切り、足元に転がった。
ビジョンのクライブントの声が響く。
『もう良かろう。その若者は扉を開けたのだ。それは、勇者の証。彼こそ、ジオフロントを復活させる使命を負ったものである。』
「勇者?」
誰かが呟く。

50.導師の決断 [AC30第1部グランドジオ]

『すべてを伝えるべき時が来たようだ。』
クライブント導師の声は落ち着いていた。
『巨大な彗星の衝突が予見され、人類は世界各地に人類を守る為のシェルターを建設した。ここもその一つであった。今から700年ほど昔の話だ。ついにその日が来た。地表にあった人類のすべての都市は破壊され、地球規模の地殻変動が起き、気候も一変した。もはや、人類は・・いや多くの生命が、地表では暮らせないほどの過酷な環境だった。』
クライブント導師の話に合わせて、ビジョンに映像が映し出される。
『ここはグランドジオ73と呼ばれ、各地に作られたシェルターの中でも最も規模の大きなものだった。巨大な地下都市、人類が数百年・・いや1000年以上暮らせるだった。あの日から200年は、豊かな暮らしを続けていたのだ。』
ビジョンには、正常に機能していた頃のジオフロントの映像が次々に映し出される。
大人も子どもも、その映像を食い入るように見ている。そこには幸せそうな笑顔が溢れている。見たこともない生物・・牛や豚、犬や猫、空を飛びまわる鳥なども映し出されれている。
『しかし・・ジオフロントを支えるエナジーシステムが、突然不具合を起こしてしまったのだ。・・決断を迫られた。当時10万人もの人々が暮らしていたが、エナジーシステムの停止は、滅亡を意味する事は明らかだった。だから、人類の滅亡は避けなければならなかった。そのために、人々の選別を始めた。優秀なDNAを持つものを残す道を選んだのだ。そして、“選ばれし者”だけがライフエリアで暮らすことを許された。ここに居る者は、その末裔なのだ。』
最初の選ばれし者たちが、ライフエリアに入っていく様子が映し出される。皆、悲痛な表情を浮かべている。
『そして、私自らが、ライフエリアの隔壁のスイッチを押したのだ。・・残された者は、絶望し、自ら命を絶った。私は、統治者としてすべてを見届け、そして最後に命を絶った。』
ビジョンは真っ暗になった。そして再び、クライブントの顔が映し出された。
「エナジーシステム修復はできなかったのですか?」
キラが訊く。
『お前には判っているのだろう?エナジーシステムは、中心にあるカルディアストーンが全てだ。不具合が見つかったのはストーンの亀裂が判ったからだった。・・ここにある技術では修復できない事はすぐにわかった。それゆえ、他のジオフロントを頼るほか道がなかった。・・そして、勇気ある、多くの若者たちが、地表に出て、ジオフロントの探索に旅立っていった。だが、誰ひとり戻ってはこなかったのだ。』
「ジオフロントには、優れた武器がたくさんありました。グロケンやウルシンたちなど恐れる事はなかったはずです。」
キラが再び問う。
『確かに、ここには優れた武器はたくさんある。だが、200年間、ジオフロントで過ごしてきた者には、地表の世界は想像を絶するものだった。武器を満足に使える者は居なかった。過酷な自然の中を生き抜ける力を持っていなかったのだ。・・おそらく、皆、途中で息絶えたに違いない。』
皆、沈黙している。
今でも、地表の世界は容易く生きられるようなところではない。油断すれば、虫たちの餌食になる。酷暑と極寒の季節には、ほんの1時間でも耐えられない。実際、毎年、命を落とす男たちは絶えなかった。
『勇者、キラよ。お前は、禁断を犯し、全てを暴いた。すべてが明らかになった以上、人類の未来はお前の手に委ねられたのと同じなのだ。その事が、判っておるのか?』
強い意志を持つ言葉だった。
キラは、じっとビジョンを睨んでいる。
集まった人々の中に、キラの母ネキは居た。ネキは、クライブント導師に問い続けるキラを見て、驚きと恐れと悲しみに襲われ、立っていられないほど動揺していた。傍で、キラの妹さらがそっと母を支えていた。
「クライブント様、もう一つお聞きしたいことがあります。」
キラは覚悟を決めたようだった。
「このライフエリアのエナジーシステムにも不具合が生じ始めている事はご存知でしょうか?」
『なに?・・ライフエリアのエナジーシステム?・・・』
「ユービックが教えてくれました。今のままでは、ここもそう長くはありません。」
これを聞いた住民たちはざわめいた。
「どういう事だ、キラ。」
アルスが訊く。
「ジオフロントのエナジーシステムが故障した事を調べていた時、ライフエリアのエナジーシステムも見てみたんです。もともと緊急用のシステムでした。ユービックの計算では、あと10年ほどで完全停止するのです。

51.悲哀 [AC30第1部グランドジオ]

『それは間違いない事なのか?』
住民たちのざわめきの中に、クライブントの声が響く。
「ええ、残念ながら・・まちがいありません・・。出力の低下は明らかでした。今後、どれほど維持できるのか、はっきりとはわかりません。ですが、少なくとも10年後には完全に停止するでしょう。・・」
『それは想定されていなかったことだ。』
クライブントはそう言うと、沈黙した。
住民たちのざわめきは収まらなかった。いや、クライブントの言葉に、一層、不安が広がり、女たちの中には、泣き崩れる者が出た。
「キラ、修復できないのか?」
アルスが問う。
「ジオフロントのエナジーシステムが停止した時と同じです。代わりになる、カルディアストーンを手に入れる以外ありません。」
「しかし・・そんなことができるのか?」
アルスの問いに、キラは即答しなかった。
『キラよ!お前は禁断のエリアに立ち入り、秘密をすべて暴いただけでなく、ライフエリアの危機さえも、皆に明らかにしてしまった。もはや、ここに住む者たちには、未来はないと宣言したのだ。この罪は重いぞ。・・・』
未来はないというクライブントの言葉が、コムブロックに響くと、皆、声を上げて泣いた。
今でさえも、絶えず、食糧の不安を抱えている。命をかけて虫たちと闘わねばならず、これまでにも多くの男たちが傷つき命を落としてきた。じっと息を殺して生きているような過酷な暮らしを強いられている。この先、ライフエリアのエナジーシステムが故障すれば、どのような暮らしになるのか。おそらく、一年も暮らせはしない。そんな未来を想像して皆悲しんでいる。

クライブントの言葉をじっと聞いていたアランが叫ぶ。
「キラは真実を明らかにしただけでしょう。このまま、何も知らずにただ死に向かうしかない運命よりもずっとましじゃないですか!それのどこが罪なのでしょう。」
『お前は誰だ?』
クライブントが訊く。
「おれはアラン。俺も一度、通路に入り、禁断のエリアの入り口まで行きました。そして、その扉に貼られた紙を読みました。そこには、勇者よ、扉を開け未来を拓けとありました。あれは、あなたが貼った物でしょう。・・いつか、禁断を破る者をずっと待っていたんでしょう。・・俺はあの貼り紙を剥がしました。だから、キラは何も知らず禁断のエリアに入ってしまったのです。罪というなら、俺の方が重いはずです。」
アランは、顔を紅潮させて言い放つと、剥がしてしまった貼り紙を掲げた。セピア色に変色している紙には、黒く変色した血文字が見えた。
『では、キラとアラン、お前たちが力を合わせ、この危機を救わねばならない。』
「はい。」
キラとアランは揃って返事をした。
『さて、ではどうするつもりだ?』
クライブントが問うと、キラが躊躇なく答えた。
「カルディアストーンを探しに行きます。」
それを聞いて、アルスが言う。
「クライブント様は、探しに出た若者たちが居たが全て命を落としたと言われたではないか!無理だ!いくら、狩猟の腕前が良くても、どれほど遠くまで行けるというんだ?灼熱と極寒の季節が訪れればそこで死ぬほかないだろう。到底、できるわけはない。」
「確かに、僕とアランだけではきっと無理でしょう。しかし、方法はあります。」
キラは落ち着いて答える。ホスピタルブロックの前で車椅子に座ったプリムの傍に、居たハンクが心配げに呟いた。
「キラのやつ、一体どうするつもりかな?カルディアストーンはそんな簡単には手に入らないって言ってたよな。」
「キラにはきっと考えがあるに違いないわよ。」と、ガウラが言う。

52.CPXの力 [AC30第1部グランドジオ]

「ハンク!」
不意にキラが呼んだ。呼ばれたハンクは驚いて転びそうになる。
「ハンク、CPXをここへ連れてきてくれ!」
再びキラが叫ぶ。ハンクは慌てて、ホスピタルブロックへ飛び込んで、フローラのベッドサイドに居たCPXを両手で抱えて出てきた。そして、キラの許へやってきた。
キラは、CPXを脇に置いた。
「そのボールみたいなものは何だ?」
怪訝な表情を浮かべて、アルスがキラに訊いた。
「これはCPXです。あの少女、フローラをあの浜まで運んできたのです。」
キラの説明では皆は理解できなかった。
「そんな小さなボールの中に居たというのか?」
「いえ・・そうだ。CPX、変身してくれないか?」
キラが、CPXに向かって言うと、アルスが可笑しな顔をして、「キラ、大丈夫か?」と言った。
「大丈夫です。さあ、CPX、頼むよ。」
キラが再びそう言うと、キラの脇の床に置かれたCPXが白く光り始め、急にぐんと縦に伸びた。そして、再び小さくなったと思うと、人間のような形に変形した。さらに、細部まで変形が進むと、キラとそっくりになった。
「キラが・・二人になった・・・・。」
見守っていた住民全員が驚いた。
「CPXは、アンドロイドなんです。自在に変形します。こんな風に人間そっくりにも変形できる。・・CPX、もう良いよ。元に戻ってくれ。」
その声とともに、声の主であるキラが、丸いボール状に戻ってしまった。
人々は再び驚いた。
「今のは、CPXの悪戯です。人間以上の知識もあるし、人間を守る事を使命としています。彼とともにカルディアストーンを探しに行きます。彼がいれば、シェルター代わりになり、酷暑も極寒の季節でも耐えられるでしょう。心強い味方です。これで遠く、どこかにあるはずの別のジオフロントを捜し出し、カルディアストーンを手に入れてきます。」
キラが自信を込めて、クライブントに向かって言った。すると、脇に居たCPXが言う。
「キラ様、それは無理です。私はフローラ様のガーディアンです。フローラ様の傍を離れるわけにはいきません。」
「これは、フローラの為にでもあるんだ。彼女がここで生き延びるためには、ライフエリアが存続しなくてはならないだろう?そのためにはどうしてもカルディアストーンを手に入れなければならないんだ。頼む。手伝ってくれ。」
キラが言うと、CPXは「判りました。仕方がありません。」と承諾した。
それを聞いていたクライブントが言う。
『判った。そのアンドロイドがどれほどの力を持っているかは判らぬが、キラとアランはカルディアストーンを探し出さねばならない。行くが良い。だが、歩いて辿りつけるほど近くにはないだろう。・・・一つ、手助けしよう。ジオフロントにいるエリックに命じて、アラミーラを取り寄せなさい。きっと役に立つだろう。成功を祈っておるぞ。』
そう言うと、ビジョンは真っ暗になった。
集まった住民たちは、じっとキラとアラン、CPXを見つめたままだった。
「導師の言われる通り、キラとアランに未来を託すほかないようだ。」
アルスが口を開いた。人々は、顔を見合わせる。余りに深刻な真実を突き付けられ、まだ、信じ難い心境であった。だが、事実である。
「ああ・・そうするほかなさそうだ。」
誰かが言うと、皆が頷いた。それを見て、キラが言った。
「・・必ず、カルディアストーンを見つけて戻ります。いや、命に代えてもここを守ります。」
その言葉に、皆から拍手が起こった。キラは続けた。
「ひとつだけ・・皆さんにお願いがあります。フローラの事です。彼女は、はるか遠くのオーシャンフロントから脱出してきました。まだ、意識がはっきりしないほど大変な旅を経てここへ流れ付いたのです。もう二度と戻る事は出来ないでしょう。ですから、どうか、ここで、皆さんと一緒に、幸せに暮らせるようにして下さい。」
再び、大きな拍手が起きた。
こうして、キラとアランは、CPXとともにカルディア・ストーンを探す旅に出る事になった。

53.アラミーラ [AC30第1部グランドジオ]

キラはすぐにエリックに連絡し、ジオフロントから、新しい武器のいくつかと「アラミーラ」を取り寄せた。「上手く動くと良いのですが」とエリックは一言加えてから、渡してくれた。
「アラミーラ」は、グラディウスと同じように全体は白く塗られ、1か所だけブルーに彩色された楕円形の円盤状のものだった。中央より少し上部にあたる部分に、細い紐状のものが出ている。
キラとアラン、ハンクとプリムは、「アラミーラ」を真ん中にしてじっと見入っている。
「どういうものなんだろう?何かに使うんだろうけど・・・。」
ハンクが呟く。
「その紐をもって盾にでも使うのかな?」
アランが言う。
「エリックは、上手く動くと良いがと言っていたんだ。それに、導師も歩いて辿り着くほど近くにはないだろうと言われてから、手助けするといってアラミーラの事を教えてくれた。・・何か、関係があると思うんだが・・・。」
キラが言う。
不意に、プリムが細い紐状の部分を持った。すると、意外に軽かった。それに、少し弾力もあった。
そんな4人の行動を見ていたCPXが言った。
「アラミーラとは…不思議な翼という意味ですよ。」
「不思議な翼?・・翼って何だい?・・虫たちが空を飛びまわる、あの翅みたいなものってことかい?」
ハンクが訊く。
「ええ・・そうです。翅とは違いますが・・・まあ、いいでしょう。キラ様、その円盤の上に立ってみてください。」
CPXに言われるまま、キラは円盤の上に立った。
「そしたら、その紐上のものを左手で握って、引っ張ってみてください。」
「こうか?」
キラは言われたとおりに、細い紐状のものを引き上げる。シュンと何か小さな音がした。
「では、そのまま左手を胸の前に突き出して・・・そうですね・・・上がれと言ってみてください。」
言われるままにキラは左手を突き出して、上がれと言った。すると、アラミーラが徐々に浮き上がってくる。突然の事にキラは慌てて姿勢を崩して、左手を離してしまった。その途端、ドスンと円盤も地面に落ち、キラは放り出されてしまった。
「そうか・・こいつは、空を飛びまわる事が出来るんだな!」
アランの眼がきらりと光る。アランは、さっきのキラの動きを思い出しながら、円盤の上に立ち、紐を引き、上がれと叫んだ。すると、すーっと円盤が浮き上がった。「前へ進め」そう言うと円盤が宙に浮いたまま前進する。「回れ」というとくるっと向きを変えた。アランはすぐにコツをつかんだようだった。
「CPX、これでいいんだろ?」
コアブロックの天井近くまで上がったアランが叫ぶ。CPXが答える。
「ええ・・そうです。ただ・・口に出さなくても考えるだけで自在に動けるようにならないといけません。・・オーシャンフロントでも限られた人にしか与えられていない道具です。これがあれば、歩いて移動する何倍も早く動けます。」
すぐに、キラも練習を始めた。アランは半日ほどで自在に操れるようになったが、キラはなかなかうまくいかない。心落ち着けて乗ろうとするが、思うように動かず、何度も何度も落下した。
「乗るんじゃなくて・・自分の体と思えば良いんだよ。・・足の裏側に貼りついているつもりになればいいんだ。」
アランがアドバイスする。2日ほどで何とかキラも操れるようになった。
「アラミーラの中にも極小のカルディアストーンが入っています。地球の磁力に反応して、浮き上がる力を得ています。おそらく、地表に出ればもっと高く飛ぶことができるでしょう。・・でも注意してください。高く飛ぶことは、虫たちにも見つかりやすいという事です。もちろん、虫よりも早く飛べれば良いですが・・そうでなければ、餌食にされます。仮に高く飛び上がって、虫に攻撃され、意識を失うと一気に地面まで落下して命を落とすことにもなります。」
CPXはそう説明した。

長い長い極寒の季節、キラたちは旅立ちの準備を続けた。キラとアラン、そしてCPXは、禁断のエリアにも何度か行き、ほかにも役に立ちそうなものはないか、物色した。アランは、できるだけ軽量小型で威力のある武器をいくつか選んだ。キラは万一の事を考え、医薬品や食料の代わりになりそうなものを探した。

54.目覚めたフローラ [AC30第1部グランドジオ]

キラたちが旅立ちの準備を進めている間、ガウラは、フローラの世話をした。
フローラは、ぼんやりとした意識の中で、朝と夕に目覚め、食事を摂ると再び眠りに落ちる事の繰り返しだった。そして、目覚めるたびに、ぐんぐんと成長をしていくのが判った。
ハンクは、プリムが少しでも早く普通に動けるよう、リハビリに協力していた。
こうして、長い長い極寒の季節がようやく終わりを告げようとする頃になった。
「さあ、準備は整ったな。」
「ああ、明日には出発できそうだ。」
二人がそう決めた日に、フローラが、はっきりとした意識を持って、目覚めた。
フローラがここに運ばれた時はまだ10歳程度の幼い少女だった。しかし、今は、立派な女性の体格に成長していた。ほんの数か月の間に、5年、いや10年近く成長したように見える。
ガウラがフローラのバイタルチェックをしていると、フローラが叫んだ。
「キラはどこ?キラを連れてきて!」
フローラが、はっきりとした意志を持って初めて口にした言葉だった。
旅立ちの準備をしていたキラが、CPXとともにすぐにやってきた。

「フローラ、目覚めたんだね。大丈夫かい?」
ベッドの脇に立って、キラは優しく声を掛けた。まともに会話をするのは初めてだった。フローラは、キラをじっと見つめたまま、小さく頷いた。
その表情は、浜辺で初めて見た時とは別人だった。あの時は、あどけない表情が残る少女に過ぎなかった。だが、目の前のフローラは、明らかに大人の女性であった。
「体の方は良いみたい。急激な成長も止まったわ。もう大丈夫よ。」
ガウラがほっとした表情で答える。
「そうだ・・僕はアランと・・CPXと・・その・・明日、旅に出るんだ。しばらくは戻れないだろう。」
フローラは明らかに不安な表情を浮かべた。
「・・ああ、大丈夫さ、君がここでちゃんと暮らせるように、みんなにお願いした。ガウラ先生もいるし、ハンクもいる。君をちゃんと守ってくれるから、安心して・・。」
キラは、フローラの変貌に少しドギマギしながら言った。ただ、ガウラが以前に、体は成長しても知能はどうか判らない、もしかしたら10歳のままかもしれないと言ったのを思いだし、言葉を選びながらだった。
「私も連れて行って下さい。」
フローラは、落ち着いた声で、言い出した。
「いやダメだよ。・・とても危険な旅なんだよ。・・無事に戻れる保証はない。ここに居なきゃだめだ。」
キラは反対した。
聞いていたガウラも言った。
「まだ、目覚めたばかりでしょ。まともに歩けるかどうかも判らないし、足手まといになるだけよ。危険すぎる。きっとキラは無事に戻ってくる。・・ね、ここでキラたちの帰りを待っていましょう。」
「嫌です。一緒に行きます。」
フローラの意志は固いようだった。
すると、CPXがフローラの前に転がり出た。
「フローラ様、覚えておいででしょうか?CPX4915です。」
白いボール状のCPXをフローラは、CPXの事を思い出せないのか、じっとしばらく見つめていた。
すると、CPXがいきなり大きく膨らみ、卵状になって、フローラを包み込んだ。そして、何度か、青白い光が点滅した。中から、フローラの呻くような声が聞こえた。
5分ほどその状態が続いて、光がぼんやりと赤く変わると、徐々に萎み始め、フローラを覆っていた膜のようなものが糸状になり、するすると縮まると、CPXはもとの状態に戻った。
「フローラ様にこれまでの事を全てお教えしました。もう大丈夫です。」
フローラは、大粒の涙を流していた。
「僕たちは、ここに住む人たちの未来を拓くために旅に出るんだ。判ってくれるね?」
キラが訊くと、フローラは小さく頷いた。

AC30 第1部が終了しました。 [苦楽賢人のつぶやき]

少し、設定が難しくて、お話がうまく進みませんでした。

ジオフロント復活のために、いよいよ、キラは旅立ちの時を迎えました。

外の世界はどうなっているのか、環境が大きく変わった地球に、果たしてカルディアストーンはまだ残っているのか、そして、フローラは何者なのか、この先の展開はまだはっきりとはわかっていません。

第2部は、9月1日から掲載いたします。

ここまで、お付き合いただきありがとうございました。