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23.真っすぐに [AC30第2部カルディアストーン]

「ここからはとにかく北西へ真っ直ぐ向かいます。」
PCXが先導しながら、しばらくは、快調に進んで行けた。
火山地帯を超えると、比較的平坦で、穏やかな緑の森が延々と続いている。二日ほどは順調に進んでいった。
南から熱波が近づいているためか、日中の気温はかなり上昇し、40℃を超えていた。
「少し高度を上げましょう。」
「ああ・・そうしよう。」
快適な温度には1000m以上の上空を飛ばなければならなかった。できるだけ高い位置をキープして飛ぼうとしたが、上空にはジェット気流のような強い向い風が吹き、スピードが上がらない。ぎりぎりの高さを選んで飛ぶしかなかった。
「右手に海が見えれば、ジオフロントはもうすぐです。」
PCXは、キラを励ますように声を掛ける。気温の上昇でキラは随分と体力を奪われていて、気持ちとは裏腹にアラミーラのスピードは徐々に落ちていく。
PCXは、キラの体力を考え、日中の高温時間帯はかなり高度を上げ、朝夕の少し涼しい時間帯には、風の弱い低いエリアを選んで飛んだ。
4日目には、ついに、海岸線を視界にとらえる事が出来た。ようやく、出発した地点に戻れたように感じ、キラは少し気力を持ち直すことができた。
「PCX、あとどれくらいなんだ?」
キラは、海岸線を視界にとらえた時、PCXに訊ねた。
「あと1日で到着できます。」
「そうか・・いよいよだな。」
「はい。」
その会話の後、キラは少しスピードを上げた。体力は限界に近づいているはずだったが、一刻も早くジオフロントに着きたいという一心で、スピードが上がったのだった。
一夜を浜辺で過ごして、いよいよ、ジオフロントに向かう最終日になった。
キラは前夜、興奮してなかなか寝付けなかった。
「皆、元気に暮らしているだろうか?」
PCXが作ったシェルターの中で、横になったキラは独り言のように呟いた。
「きっと、キラ様の帰りを待ちわびておいででしょう。」
「ライフエリアのエナジーシステムは無事に動いているだろうか?・・PCX,何か判る方法はないかい?」
「まだ、この距離ではそこまでは判りません。先ほどから、ライフエリアのコンピューターに、通信は試みているんですが・・反応はありません。おそらく、電波が届かないんでしょう。」
「そうか・・・。」
「さあ、もうお休みください。明日、もう1日、飛ばねばなりません。かなり高温ですから、夜明けとともに出発しましょう。」
「ああ・・そうしよう・・。」
キラは目を閉じた。
既に外気は40℃を超えている。日没後もほとんど気温が下がらない。PCXのシェルターがなければ、体を休める事も出来ないほどであった。
明け方、空が少し白み始めた頃、PCXはキラを起こした。
「さあ、行きましょう。」
PCXがシェルターを解除すると、いきなり熱風がキラの体を包み込んだ。
「予想以上に熱波が近づいています。現在の気温は45℃です。すぐに上空へ逃げましょう。」
キラは荷物を背負うと、アラミーラで一気に上昇する。1000m上昇しても、まだ40℃近くの気温だった。東の空からはっきりとした太陽の光が差し込み始めた。ふと、南の方に視線を遣ると、既に空高くまで積乱雲が到達している。その下は真っ暗だった。
「あの雲の下はおそらく豪雨と暴風のはずです。巻き込まれたら、まともには飛べません。急ぎましょう。」
「ああ・・・」
とにかく、一刻も早くジオフロントに到達しなければならない。キラは最後の体力を振り絞って、アラミーラの速度を上げた。

24.帰還 [AC30第2部カルディアストーン]

5時間ほど飛び続けると、見慣れた風景が足元に広がってきた。
海岸へ流れ込む川が見えた。あそこには、グロケンが潜んでいるに違いない。そしてその上流には深い森があり、ウルシンたちが闊歩しているだろう。ほんの数か月前までは、あの森や川に潜む虫たちに怯えながら、食糧を調達し、息を殺して生きていた。
キラは、涙が溢れてきた。
「どうしましたか?」
PCXが訊く。
「いや・・懐かしくて・・・。」
「皆様はきっと喜ばれるでしょうね。」
「ああ」
そう答えたキラの表情は硬かった。
約束通り、カルディアストーンは持ち帰る事が出来た。
これでジオフロントは復活し、きっと、もう虫たちに怯えて暮らすこともなくなるに違いない。明るい未来が待っているはずだ。だが、キラは、アランの死を思うと、手放しでは喜べなかった。
この風景をアランと一緒に見るはずだった。あのジオフロントでの忌まわしい出来事がなければ、キラの隣にアランの姿があるはずだった。そして、二人で誇らしく胸を張って皆に出迎えられることを想像していた。しかし、アランはもうこの世にはいない。
PCXは、キラの表情を見て気遣うように言った。
「アラン様の事は仕方ない事です。キラ様のせいではありません。」
「ああ・・・だが・・・」
「アラン様が命を懸けて、キラ様を守ってくださったからこそ、カルディアストーンを手に入れる事が出来たのです。アラン様はジオフロントの未来のために命を懸けられたのです。」
「ああ・・そうだ・・だが・・避ける事は出来たかもしれない・・・そう思うと・・・。」
「悲しんでも、アラン様はもう戻っては来られません。キラ様は、アラン様の分まで、ジオフロントの未来へ力を尽くすべきでしょう。そうでなければ、この旅は辛いばかりでしょう。」
PCXの言葉に、キラは少し心が軽くなったように感じた。
「しかし・・皆にはどう説明すればいいのか・・・。」
「ありのままに報告しましょう。ジオフロントを発見し、そこで巨大なドラコと戦い、命を落としたのだと。そして、アラン様の活躍があったからこそ、カルディアストーンを手に入れる事が出来たのだと。」
「ああ・・それ以外にないんだが・・・。」
しかし、アランの妹、ユウリは納得できないだろう。父や母を幼くして失い、兄妹仲良く暮らしていた様子を思い出すと、キラの胸は張り裂けそうだった。
あとわずかでジオフロントのチャンバーへの入り口が見えるところまで来た時、キラは、海の方角に違和感を感じた。
「PCX,あそこに見える島のようなものは以前からあったかな?」
キラが指差した先には、さほど大きくはないが確かに島が見える。海から突き出たピラミッドのような形状だった。
「さあ・・・どうでしょう?・・漂流している時は、海上の様子は把握できない状態でしたから。」
「前にブクラを獲りに来た時にはなかったように思うんだが・・・。」
「遥か沖合にある小さな島です。海岸から肉眼では見えなかったのかもしれません。」
徐々に高度を下げ、いよいよジオフロントのチャンバーの扉に辿り着いた。
キラは、扉の前に立って何か違和感を覚え、辺りを見回した。
「どうかしましたか?」
「いや・・何か・・雰囲気が違うような気がして・・。」
「そうですか?」
PCXも周囲を探った。
「虫たちは近くには居ないようです。」
「いや・・そうじゃなくて・・何か辺りの風景が・・少し・・・。」
「しばらく留守だったんですから、仕方ないでしょう。春の間に木々が大きく育ったせいではありませんか?」
「ああ・・そうだな・・。」
「さあ、行きましょう。」

25.ジオフロントの異変 [AC30第2部カルディアストーン]

扉を開け、静かに、ジオフロントへ入った。幾つもあるチャンバーを一つずつ降りていく。皆の笑顔が少しずつ近づいてくる実感があった。最後のチャンバーを抜けると、あの長い長い階段が見えた。足元にぼんやりと明かりを感じる事が出来る。キラは、階段をゆっくりとアラミーラで下っていく。
キラは、途中の踊り場で一度停まった。
「やはり何か変だ。」
そして、足元の階段をじっくりと見る。何か、出発した時と比べて、あちこちに小さな傷がたくさんついているように感じた。この階段は、猟に出る男たちが通る程度で、さほど痛むものではないはずだった。しかし、たくさんの人が一度に通ったような跡が見られた。
「ただ今、戻りました。」
キラは、ライフエリアの入り口で、響き渡るようなはっきりした声で挨拶した。
夕食を摂る時間で、コムブロックにはたくさんの人でにぎわっているはずだった。しかし、キラの声は壁に反射ししばらく残響した後、迎えるべき声が返ってこなかった。
キラは、チャンバーの扉の前で感じた違和感を思い出していた。何か異変が起きたのは間違いない。急に胸騒ぎがした。
キラは、フードブロックを覗いた。しかし、そこには人影はない。続いて、ホスピタルブロックも覗いた。そこにはガウラが待っているはずだった。だが、姿はなかった。
「皆、どうしたんだ・・・。」
ジオフロントには誰一人居ない。
「PCX!ここは本当にあのジオフロントなのか?」
キラは混乱し、ここがジオフロント73とは思えなかった。
「間違いありません。」
「皆はどうしたんだ?死んでしまった・・と・・。ライフエリアのエナジーシステムが異常を起こしたのか?」
「いいえ・・私がアナライズした範囲では、ずっと正常に動いているようです。」
「じゃあ・・一体、何が起きたというんだ!」
キラは、PCXに問い詰めながらも、まだ、ライフエリアのあちこちを走り回って、どこかに潜んでいないかと探し回っていた。PCXは、センサーを使ってジオフロント内を探っている。
「キラ様、禁断のエリアに生命反応があります。」
すぐにキラは、ライフツリーの階段を駆け上がり、禁断のエリアへ通じる通路へ急いだ。暗闇の通路を一目散に走り抜けるとドアを開けた。
「PCX、灯りを!」
PCXが灯りを照らす。禁断のエリアに降りる階段の下に、身を寄せるように数人が座り込んでいた。光りに照らされると、座り込んだ人たちが、暗闇へ逃げようとする。
「待ってくれ!僕だ!キラだ!戻ってきたんだよ!」
その声を聞いて、座り込んでいる集団がキラの方を見た。光りが当たると眩いのか、皆、顔面を手で隠しながら、キラの方を見ている。
「本当に・・キラ・・なのか?」
その声は、キラの母ネキだった。他には、プリムの母など、年老いた女性たちの様だった。
「母様・・・いったい何が・・」
キラがそう言って近づこうとすると、皆、一斉に身構え、プリムの母がグラディウスをキラに向けて言った。
「それ以上、近づくんじゃない!本当のキラか、どうか、わかったもんじゃない!」
その様子を見て、PCXが訊いた。
「どうしたんです!」
すると、女性たちは悲鳴のような声を上げた。
「やっぱり、お前たち、キラじゃないね!さあ、どうしようっていうつもりだい。こんな婆さんを殺したところでなんてことはないだろ!」
プリムの母は気丈な女性だった。すっくと立ち上がると、両手でグラディウスを構え、キラとPCXを前に高く構えを見せる。
「いったい、どうしたんです。僕はキラです。たった今、長旅から戻ったところなんです。でも、ライフエリアにはだれ一人居ない。探しまわって、ようやくみなさんの居場所を突き止めたんですよ。一体、何があったんです。みんなはどうしたんです?」

26.襲撃 [AC30第2部カルディアストーン]

「本物のキラという証はあるかい?」
プリムの母はまだ信用していなかった。
「僕の顔をよく見てください。」
キラはそう言ったが、「いいや、あいつらもそう言って入ってきたんだ!もう騙されやしないよ」と取り合わない。
キラは、思案した。そして、胸から下げたペンダントを見せた。
「これは、母様から貰ったものです。見てください。」
そう言って、ペンダントを外すとプリムの母に手渡した。そして、それをキラの母がじっくりと見ると、大粒の涙を零し始めた。
キラは、母たちを連れて、ライフエリアに戻り、コムブロックの一角に座ると、ジオフロントで起きたことを母たちから聞くことにした。
隠れていた女性たちはみな憔悴しきったような表情だった。PCXはフードブロックに行き、暖かい飲み物を作って運んできた。女性たちは、PCXの姿に困惑した表情のまま、差し出された飲み物を震える手で恐る恐る受け取るとゆっくりと飲んだ。ようやく落ち着いたところで、キラの母ネキが悲しそうな表情で少しずつ話し始めた。
「あなたたちが出発して、ひと月ほど経ったころだったの。お前たち二人が戻ってきたんだよ。皆、喜んで迎えたんだ。そして、お前たちは、嬉しそうな表情を浮かべて、外界に、素晴らしい場所を見つけたと言ったんだ。それは、海に浮かぶ島で、恐ろしい虫など居ない安心して暮らせる場所だって。」
ネキの話に、キラは驚いて言った。
「そんな・・・馬鹿な・・・。」
出発してひと月と言えば、ようやく別のジオフロントの近くに達したころだった。遥か5000㎞離れた場所にいた。
「プリムやハンクが、その話を聞いて、それはきっとオーシャンフロントだって言ったんだ。・・そう、フローリアの故郷に違いないってねえ。」
「それで?」
「若者たちはみな、お前たちの話を信じ、すぐに出かけて行った。フローリアも故郷に戻れると喜んでいたよ。禁断のエリアから、アラミーラをたくさん運び出して、皆、すぐに出発したんだ。」
「父さんたちは?」
キラが訊くと、突然、ネキは顔を伏せて泣き始めた。その様子を見て、プリムの母がネキの背を摩りながら話を続けた。
「若者たちと違って、私ら女や年老いたものはアラミーラを操る事などできないから、ここに留まる事にしたんだ。外界に出たこともない者にとって、どれほど恐ろしいかさえ想像できない世界なんだ。プリムたちは私たちを説得したんだがねえ。・・アルスだって、足が悪い。まあ、ここで生まれた者にとって、ここはそれほど住みにくい場所じゃない。だから、ここに留まる事はごく当たり前の事だった。・・だが・・・。」
プリムの母はそこまで話してから、悔しそうな、怒りに満ちた表情に変わった。
「若者たちが出て行って、1週間ほど経った頃だった。・・・いきなり、たくさんの・・あの・・PCXがやってきたんだ。あいつらは、男たちを襲い始めた。容赦なかった。アルスたちは、グラディウスを手に戦ったよ。だが、とても敵いやしない。怪しい光を放って…あっという間に、男たちを殺して、灰にしてしまうんだ。恐ろしくて恐ろしくて・・・私らはすぐにライフツリーに逃げたんだ。そして、あの通路に身を隠したんだ。」
それを聞いて、PCXが言った。
「そんなはずは・・私たちは人間を傷つける事が出来ないようプログラムされているのです。」
それを聞いて、顔を伏せていたキラの母ネキが叫ぶように言った。
「目の前で見たんだよ。アルスはお前の仲間に殺されたんだ!お前だって、きっと私たちを殺すにちがいない!」
ネキは再び顔を伏せて泣いた。
「もう、ここに残っているものしかいないんだ。きっとプリムたちも殺されているだろう。もう、終わりさ・・。」
プリムの母が吐き出すように言った。
「なんてことだ…せっかく、カルディアストーンを見つけたのに・・・。」
キラは落胆し、肩から背負っていたカバンを投げ捨てた。
沈黙の時間が流れた。
キラは、ネキやプリムの母たちの話を思い返していた。そして、遥か海上に見えたあの小さな島こそがオーシャンフロントに違いないと確信を得た。だが、何故、オーシャンフロントは突然現れ、ジオフロントの若者を連れて行き、従わないものの命を奪ったのか、見当もつかなかった。

27.ガウラとの再会 [AC30第2部カルディアストーン]

「ガウラさんはどうしたんですか?一緒に行ったんですか?」
キラが思い出したように訊いた。
「ガウラ?・・いや・・プリムたちとは一緒じゃなかったね。まさか・・あいつらに殺されたんじゃ・・。」
プリムの母が辛そうな表情で言う。すると他の女性が呟くように言った。
「いいえ・・確か・・少し前に・・禁断のエリアに行くと言って・・それきり姿を見ていないわ・・。」
「だが、あそこは真っ暗だったじゃないか。誰も居なかっただろう?殺されたのさ・・・」
プリムの母は、諦め顔で言う。
「PCX!ガウラが生きているなら、きっと、ユービックを持っているはずだ。通信してみてくれないか?」
キラが言うとすぐにPCXがガウラのユービックに通信を送った。
「返答はありませんが、確かに禁断のエリア・・それもコアブロックの辺りにユービックがあるようです。」
「すぐに行ってみよう。」
キラとPCXは、母たちをライフエリアに残して、禁断のエリアに向かった。
オーシャンフロントのPCXたちによる襲撃からすでに1ヶ月は過ぎている。その間、ガウラが一人でコアブロックに入ったままというのは余りに不自然だった。
ガウラの身に何か起きているのではないかと胸騒ぎを覚え、キラは通路を風のように走り抜け、真っ暗な禁断のエリアを迷うことなくコアブロックへ向かった。
「PCX!エリアキーパーのエリックと通信できないか?」
「はい。」
コアブロックに急ぎながら、PCXがエリックと通信する。
「ガウラ様と一緒の様です。」
それを聞いて、キラは少し安堵した。
キラとPCXはコアブロックの前に着いた。分厚い扉は閉じられたままだった。
「ガウラ様は、この中にエリアキーパーと一緒にいらっしゃるようです。」
キラは分厚い扉の脇にある小さな通用口のドアを開ける。中は真っ暗だった。PCXは照明を発したが、見上げるほどの広い空間が広がるコアブロックはほとんど暗闇と同じだった。
「ガウラー!」
キラの声が広い空間に響き渡る。しばらく待ってみたが返答はなかった。キラは周囲に注意を払いながら、ゆっくりとコアブロックに足を踏み入れる。カルディアストーンを発見したあのジオフロントには大きなドラコが巣食っていた。ここもどこかの裂け目から侵入しているかもしれなかった。そして、ガウラが襲われたのではないかとも考えていた。
中ほどまで来ると、コアブロックの中央部に大きな球体が見えた。エナジーシステムの心臓部だった。その大きさは、あのジオフロントとは比べ物にならないほど大きい。
「ガウラー!」
キラは再び名を呼んだ。ゴトリと音がした。そして、ギュルギュルと何かが床を移動してくる音がする。キラは咄嗟にグラディウスを構える。
「キラ様・・ですか?」
そう呼びかけたのは、エリックだった。エリックは姿を見ようとライトを照らした。
「エリック!そうさ、戻ってきたんだ!」
「ご無事でしたか・・・。」
「ガウラさんはどこだ?無事なのか?」
キラが問うと、エリックが向きを変え、キラを案内するようにエナジーシステムの方へ向かった。
「この中です。」
そこには、エナジーシステムへ降りる階段があった。
「ガウラ様!キラ様が戻られました。」
エリックの呼びかけに、暗闇からガウラが姿を見せた。
「キラ?本当にキラなの?」
「ああ。さっき戻ってきたんだ。・・カルディアストーンは見つかった。・・だが・・・。」
「良かった・・本当に戻ってきたのね・・良かった。」
ガウラはキラに飛びつき、強く抱きしめ、嗚咽を繰り返し、涙を流す。そして、そのまま、気を失ってしまった。


28.コアブロック [AC30第2部カルディアストーン]

ガウラは、キラのカバンの中に入っていた栄養剤を打ち、コアブロックの隣室にある薬品庫のベッドに寝かされている。
エリックが、この間の経緯を説明した。
「ガウラ様は、薬を取りに来られたんですが・・ライフエリアに戻ろうとした時、ユービックを通じて、あの襲撃を知ったのです。」
エリックが話し始めた。
「ガウラ様は、異変を知りすぐに戻ろうとされたのですが、男たちが為す術なく次々に命を落としているさまを見て、私がここに留まるように説得しました。それに、あの光景を見てしまえば、恐怖で動けなくなっているのも事実でした。以来、ずっとここに隠れておられました。」
「2か月近くの間ここに居たのか?」
「はい、最初は非常食でしのぎましたが、すぐに底をつき、薬品庫の中の栄養剤で何とか命をつないできたのです。」
「何度か、ライフエリアの様子を知ろうとされましたが、ユービックで見たあの襲撃の様子が余りにも惨いものだったために、ここから出る勇気は持てなかったのでしょう。精神的にも、ジオフロントの人たちを見捨て、自分だけが生き延びた罪の意識を持たれてしまったようでした。」
「そ・・そんなにも惨い様子だったのか・・・」
ガウラは元来、気丈な女性だ。そのガウラが恐れるほどの惨劇が繰り広げられ、罪の意識に苛まれたことを改めて知り、驚いた表情でキラは、静かに眠っているガウラの顔を見つめた。
すっかりと痩せた様子が痛ましかった。
「ええ・・・あの者たちの力は凄まじいものでした。怪しい光を放つと、人はもがき苦しみ、血を吐き、ゆっくりと体が溶けていき、最後には灰のようになるのです。」
「怪しい光?」
キラが訊く。
「ええ・・熱線のようなものではないようでした。PCXの体がぼんやりと光っているようで、その光はPCXの周囲1mほどだけに見えました。そして、その光に触れると、急に苦しみだすのです。」
「何か対抗できる方法はなかったのか?」
「男たちがグラディウスで反撃していましたが、グラディウスを突き立てたところで傷一つつける事はできませんでした。結局、皆、その光に触れてしまうのです。」
「だが、亡骸はどこにも・・灰の痕跡さえなかった。」
「PCXたちは、灰を吸引し、何もなかったかのように綺麗にしてしまいました。」
母たちもその光景を見たのだろう。そう思うと、キラは胸が痛んだ。
グラディウスで一突きされ絶命する方がどれほど楽だろう。苦しみや痛みを感じながら悶え、そして徐々に体が溶けるなど・・そう想像した時、アランを思い出した。
キラはガウラの顔を見つめたまま、もう言葉が出なかった。
「キラ様、お戻りになられたという事は・・カルディアストーンを手に入れる事が出来たという事ですか?」
落胆し沈黙しているキラにエリックが訊く。
「ああ・・」
キラはそう答えたものの、今のジオフロントの様子を見て、その事にどれだけの価値があるかと半ば投げやりな言い方をした。PCXが付け加えた。
「ここから5000kmほど南東に、ジオフロントを見つけました。地殻変動で大きく破損し、すでに人類は死滅していましたが、奇跡的にエナジーブロックは無事でした。そこから、カルディアストーンを持ち帰る事が出来たのです。」
「それは・・素晴らしい・・・ジオフロントが昔のように蘇るのですね。」
「そうです。そうすれば、また、豊かな暮らしが迎えられるのです。」
PCXとエリックは、そう会話している。しかし、キラの心は沈んだままだった。
「ああ・・だが・・アランが命を落とした。巨大なドラコに襲われた。それに、ここが復活したところで、もはやここに居るのはわずかな者だけじゃないか・・きっと、フローラやハンクたちももはや殺されているに違いない。ここに、どんな未来があるんだ!」
キラは苛立って言い放つ。
「諦めちゃダメ!」
ベッドに横たわっていたガウラが目を覚ましていた。

29.一縷の望み [AC30第2部カルディアストーン]

「ガウラ、気が付いたのか?体はどう?まだ、辛いんだろう?」
キラは、ガウラのすっかり痩せ細った手を握って訊いた。
「・・もう・・大丈夫よ・・。」
ガウラの声は弱々しかったが、キラの顔を見て安心した表情を浮かべていた。
しかし、脇に居るPCXを見て、急に毛布で顔を覆った。惨劇を見たガウラはPCXの姿に怯えたのだった。
「PCX、ライフエリアに戻って、何か栄養になるものを持ってきてくれないか?フードブロックに行けば、何かあるだろう。フィリクスの実でもあればいいんだが・・・」
キラは、ガウラの様子に気づいて、PCXをいったん遠ざける事にした。
「はい。」
PCXもすぐにキラの言葉の意味を理解し、出て行った。
「ガウラ、PCXはもう居ない。大丈夫だ。」
キラが言うと、ガウラは毛布の隙間から少し周囲の様子を確認して、ゆっくりと顔を見せた。
「本当に・・本当に・・怖かった・・PCXがたくさん現れたのよ。・・人間は傷つけないと聞いていたのに・・まるで獲物を狩るように・・・・信じられなかった。・・・。」
「もう良いんだ。エリックから聞いたよ。思い出さない方が良い。・・それより、諦めちゃダメって言ったけど・・。」
キラが訊く。
「そう・・きっとまだ、ハンクたちは生きてるわ。PCXがやってきた時、抵抗しなかった者は、連れて行かれたの。ただ闇雲に殺戮しに来たわけではないようだった。だから、あの・・キラの・・偽物について行った者たちはきっとまだ生かされているはずよ。理由は判らないけど・・」
「じゃあ、海に浮かぶあの島に皆生きているかもしれないって・・」
「ええ、きっとそうよ。」
「迎えに行かなくちゃ・・。僕が戻った事を知れば、きっと皆もここへ戻ろうと考えるはずだ。」
「ええ・・でも、自分の意志で戻れるかどうか・・・抵抗した者は命を奪われたのだから・・・。」
キラは、沈黙し、天井を見上げて、思案した。
「PCXなら、島の様子も知っているだろうし・・理由も知っているかもしれない。」
「駄目よ!ここを襲ったのもPCXなのよ。きっと、裏切るに違いないわ。」
ガウラにしてみれば、PCXは全て同じアンドロイドであり、ジオフロントの人々を殺戮したおぞましい存在に違いなかった。そして、PCXにジオフロントを襲撃するよう指令を出した張本人がいる事になる。だが、PCXの協力なしで、島へ向かう事は困難な事だった。
「あの・・キラ様・・、カルディアストーンはどこに?」
傍に控えていたエリックが唐突に言葉を発した。
その言葉に、キラは思いなおすように顔を上げた。
「ここにある。おそらく使えると思う。」
キラは、カルディアストーンを収納したBOXを、エリックのマルチハンドの先に差し出した。ゆっくりとマルチハンドが伸びて、BOXを掴む。
「正常に使えるか、分析します。」
エリックはそう言うと、くるりと方向転換して、コアブロックへ向かった。
「ジオフロントが復活するのね・・。」
「ああ・・。」
小さく呟いたガウラの横で、キラはため息のように答えた。そして、しばらく沈黙が続いた。
キラは、連れ去られたハンクたちを連れ戻す術をじっと考えていた。島に向かい連れ戻すほかないのだが、無事に戻れる保証はない。そうなれば、ガウラや母たちだけがジオフロントに残されてしまうことになる。カルディアストーンを持ち帰った事にどれほどの意味があるというのか、復活したジオフロントに僅かな人々が残るだけなのである。出口のない思いがぐるぐると渦を巻いて胸を締め付けている。

30.キラの迷い [AC30第2部カルディアストーン]

沈黙を破ったのは、PCXだった。
「キラ様・・。」
PCXはガウラが自分を恐れている事を察知して、遠くからキラに声を掛けた。フィリクスの実を一つ抱えている。キラはすぐに気付いて、ガウラのベッドから離れて、PCXから、フィリクスの実を受け取るとすぐにガウラの許へ戻った。
「さあ、これを食べれば、元気になる。」
キラはそう言うと、フィリクスの実を二つに割り、差し出した。ガウラはゆっくりと身を起こし、フィリクスの実を受け取ると静かに口に運んだ。暫く、その様子を見つめたあと、キラが言った。
「もう少し横になって休んだ方が良い。ひと眠りすれば、元気に目が覚めるさ。」
ガウラはキラに言われるまま、横になり目を閉じる。随分と落ち着いた様子だった。
キラは静かにガウラのベッドから離れ、PCXとともに、コアブロックへ向かった。
コアブロックの奥にあるモニターがたくさん並んだラボで、エリックがカルディアストーンの分析をしていた。
「もう少し時間が掛かります。」
エリックが、キラたちに気付いてそう言った。

キラは、コアブロックの隅にある椅子に座ると、少し考えてから、PCXに訊いた。
「一体、オーシャンフロントでは何が起きているんだ?どうして、PCXが・・いや・・オーシャンフロントからPCX達が来て、ここを襲ったんだ?」
「わかりません。私たちPCXは、人間を傷つける事などできないよう、プログラムされているのです。」
「誰かが、そのプログラムを解除したということかな?・・。」
「それは無理です。禁止プログラムと稼働プログラムは一つのプログラムですから、解除すれば、機能が停止します。」
「だが・・・ここで男たちが命を奪われているのは事実だ。」
PCXは、キラの言葉に返答できなくなってしまった。
「ここに流れ着いたのは、オーシャンフロントの火災と暴動だと言ってたよな?」
キラが確認するように言った。
「はい。」
「じゃあ、その後、オーシャンフロントがどうなったか判らないんだな。」
「はい。」
「暴動の後、狂った統治者でも現れたのだろうか?」
「わかりません。ですが、私たちアンドロイド・ガーディアンのプログラムを書き換える事は、想像を超えるほどの高度な技術力がなければできません。暴動を起こしたミドルエリアやそれ以下のエリアには、そういう教育はされていませんでした。」
それを聞いて、キラがはっと思いついた。
「君たち、アンドロイド自身という事はないだろうか?」
「理由がありません。」
「いや・・主人の命を守るために、暴動を鎮める必要があった。それには、人間を傷つけないというプログラムが邪魔になる。そのことに気付いたんじゃないか。プログラムを解除し機能停止となったとしても、その前に、再起動プログラムをセットしておけばと考えたのじゃないだろうか?君たち、アンドロイド・ガーディアンは僕たち人間以上に高い頭脳を持っているんだ。それくらい容易な事なんじゃないか?」
「理論的には成立しますが、その必要があったのでしょうか?それに、暴動を抑えるのが目的であれば、なぜ、ジオフロントを襲う必要があるでしょう。」
PCXの答えも正当のように思えた。
「いずれにしても、一刻も早く、ハンクたちを連れ戻さなければならない・・・。ジオフロントが復活しても意味が無くなってしまう。」
「オーシャンフロントへ行きましょう。私が案内します。」
「しかし・・・。」
キラは、言葉に詰まった。目の前に居るPCXがどこまで信用できるのか、ガウラの言葉を思い出していた。


31.復活の予感 [AC30第2部カルディアストーン]

「キラ様、カルディアストーンは正常でした。これをエナジーシステムにセットすれば、ジオフロントは復活するはずです。すぐにセットしましょう。」
エリックは、まるで人間のように、いやそれ以上に、喜んでいる様に大きな声を出した。
そして、マルチハンドにカルディアストーンを持ち、まっすぐに、エナジーシステムへ向かう。キラとPCXはエリックの後ろをついて行く。
キラの後ろを歩きながら、PCXは、「しかし・・」と言ったキラの思いを察していた。
「キラ様、私はラボに戻って、エナジーシステムのモニタリングをしています。」
PCXはそう言うと、ラボに引き返して行った。

「さあ、セットしますよ。」
エリックはそう言うと、エナジーシステムの中央にある大きな球形の前に立つと、頑丈な扉を開き、マルチハンドをゆっくりと伸ばした。それはまるで宇宙ステーションの船外操作のハンドの様に、じれったくなるほどゆっくりゆっくりと伸びていく。
10分ほどかけて、ようやく、システム中央にあるシリンダー部分を掴むと、上部の蓋を再びゆっくりと開いていく。その後、ようやく、カルディアストーンを少しずつ差し込んでいく。そして、カルディアストーンを格納すると、厚い扉をゆっくりと閉めた。
頑丈なドアを開いて格納するまで、1時間近くを掛けて慎重に進めたのだった。
「さあ、スイッチを入れます。PCX、モニターのチェックをしてください。」
球形の核の操作パネルをエリックが触れた。
「ブーン」という低周波の様な鈍い音がし始める。
徐々に音は高くなり、小さな振動を感じた。球形の核に設けられた覗窓のような部分から強い光が発している。確実にエナジーシステムが稼働を始めたようだった。
ラボにいるPCXの声が、エナジーシステムのどこかに設置されているスピーカーから聞こえた。
「エナジーボリューム5%・・・6%・・・7%・・」
徐々にPCXの言葉はカウントアップしていく。
「大丈夫・・どんどん上がっています。」とエリックも言う。
PCXが「10%」とカウントした時だった。突然、エナジーブロック内にけたたましい警報が響いた。
「どうしたんだ!?」
キラが言うと同時に、「グーン」という鈍い音とともに、光が消え、静寂となった。
「エナジー変換システムのどこかに異常があるようです。」
PCXの声がスピーカーから流れる。
「何てことだ!」
キラが球形の隔壁を殴りつけて、落胆を露わにした。
「ラボに戻りましょう。」
エリックは機械的にそう言うと戻って行く。キラも後ろをついて行く。
ラボに戻ると、PCXがモニターシステムと自分のシステムを接続して、データ解析をしていた。そして、同じデータをエリックに送信した。
「ストーンは正常でした。今も異常は出ていません。それ以外のシステムの故障です。」
PCXが言うと、エリックが答えるように言った。
「ジオフロントのエナジーシステムは、ここから、各エリアにエナジーを伝送したあと、再び、エナジーの核へ戻ってくる設計で、このジオフロント全体が大きなエナジーシステムを支える構造なのです。どこかに故障原因があるはずです。一つずつ確認しなければなりません。」
「エリア全てを調べるのか?」
「早い段階でシステムが停止しましたから、それほど広域ではありません。ひと月程度で特定できるはずです。」
「ひと月もかかるのか・・。」
キラは落胆したまま呟いた。
「復活するなど考えられない状態だったのです。正常なカルディアストーンが手に入ったのですから、もう復活したと同じことです。私に任せてください。」
エリックは、そう言うと、PCXとともに、すぐにコアブロックの中を調べ始めた。

32.決意 [AC30第2部カルディアストーン]

キラは、一旦、ガウラの許へ戻った。
ガウラはまだ眠っていたが、随分と穏やかな寝顔を見せている。キラはまだ答えを出せずにいた。
ガウラのベッドの脇に座り、目を閉じ、出るはずのない答えを探している。

「キラ・・」
しばらくして、ガウラが目を覚ましたようだった。
「ああ・・ここに居るよ。」
ぼんやりとしているガウラに、顔を近づけて答えた。
「システムは回復したの?」
キラは首を横に振りながら、「エリックがシステムを調べているんだ。時間が掛かるようだ。」と答える。
ガウラは、小さく「そう・・」と答え、天井に視線を向けた。
ガウラも、ここからの未来を思い浮かべ、やはり、答えのない問いを繰り返しているようだった。静かだった。時間が停まっている。いや、もともと、コアブロックは遥か昔に時間を止めているのだが、それがまさしく現実のものの様に感じられた。
突然、グーンという低い唸りにも似た音が響き始めた。徐々にその音は高くなっていく。何かが高回転しているような音だった。
「キラ様!」
エリックの声が響く。キラが驚いて飛び上がった。
「どこだ?」
どうやら、声は、室内のどこかにあるスピーカーから聞こえているようだった。
「キラ様、エナジーシステムは起動しました。・・ストーンの取り付け方が違っていたようです。安定して徐々に出力を上げています。完全に復活するまでもうすぐです。」
その声とともに、コアブロック全体の照明が輝き始めた。
「徐々に、エナジーがジオフロント全体に行き渡るでしょう。もう大丈夫です。」
再び、エリックの声が響いた。
「やったぞ!ガウラ!」
キラはガウラの手を取った。ガウラも力強く握り返す。そして、ガウラの目には大粒の涙が溢れていた。
「よし!オーシャンフロントに行く!何としても、ハンクたちを連れ戻すんだ!」
キラは答えを出した。
「でも・・無事に戻れるかどうか・・・。」
ガウラが心配する。
「いや、必ず戻る。カルディアストーンだって、持ち帰ることができるかどうかわからなかったんだ。それでも、持ち帰ることができた。」
「それは・・PCXの力を借りたからでしょう?今度は、そんなふうにPCXが協力してくれるかどうか・・」
「ああ、判らない。でも、ジオフロントは復活したんだ。これで、僕たちの未来は変わる。そのためには、ハンクたちは居なくちゃ。・・・みんなが戻って来なければ、ジオフロントが復活したとしても、意味がない。このまま、ここに留まることこそ無意味だ。」
「行けば・・命を・・命を落としてしまうかもしれないのよ・・」
ガウラは不安げであった。
「ああ・・そうかもしれない。それでも、行かなくちゃならない。」
「あなたは、カルディアストーンを持ち帰った・・すでに、充分に、勇者の役割を果たしてるわ。」
「いや・・僕は、禁断のエリアの扉を開けた。・・勇者として、ジオフロントを復活させる使命があるんだ。・・命と引き換えにしても、皆を連れ戻さなければならない。」
「もし・・戻らなければ?・・誰も戻って来なければ・・私は・・私は・・どうすればいいの?」
ガウラの言葉は行き場を失い、泣き崩れた。
キラは覚悟を決めていた。
「ガウラ、判ってほしい。・・僕は、必ず戻ってくる。例え、PCXが裏切ることがあっても、僕一人でもやり遂げてみせる。そうしなくちゃ、アランにも顔向けできない。」

33.準備 [AC30第2部カルディアストーン]

決意を固めたキラは、泣き崩れるガウラの背を優しく撫でながら、「わかってほしい。」と繰り返した。
ガウラはしばらく泣いていたが、「わかったわ・・私も何かできることを探すわ」と応え、キラの覚悟を受け入れたようだった。
キラは、すぐに、出発の準備を始めることにして、エナジーシステムの調整を続けているエリックに告げた。
「オーシャンフロントへ行く。皆を連れ戻す。それまで、ガウラや皆を支えてほしい。」
「お任せください。エナジーシステムさえ回復すれば、ここは大丈夫です。快適に生きていけるよう、お戻りのころには、見違えるようなジオフロントにしておきましょう。」
エリックは作業を続けながら答えた。

キラは、エリックを手伝っているPCXに言った。
「PCX!オーシャンフロントへ案内してくれ。皆を連れ戻すんだ。」
「よろしいのですか?」
「君が、オーシャンフロントの何者かに支配される可能性が高いことは承知している。だが、君の助けなしには、たどり着けないだろう。それに、ここに残したところで、オーシャンフロントに支配されるのは一緒だろう。それなら、道は一つだ。」
迷いを吹っ切ったキラの意思は固かった。
そして、これから起こる想定を超える出来事をも必ず乗り越えてみせるという気持ちは、PCXにも伝わった。

「わかりました。おそらく、オーシャンフロントに近づけば、影響を受けるでしょう。出発までに何か策はないか探ってみます。」
「そうしてくれ。」
「キラ様は、フードブロックから1週間分の食糧を調達してください。オーシャンフロントはおそらくかなり遠ざかっていると思います。海上を行きますから、途中で、食料や水は調達できないかもしれませんから。」
「判った。すぐに取り掛かる。」
「それから、小さな武器が必要です。アラミーラも、もっと良い性能のものを選びましょう。そちらは私が準備します。出発は、明日にしましょう。もう、地表は熱波に覆われ始めています。急がなければいけません。」
「そうしよう。」

キラはフードブロックで食料の調達を始めた。
皆が囚われてから、満足な狩猟もできず、わずかな食糧が残っている程度だった。自分が戻るまでの間、ガウラや母たちの必要なものを残さなければいけない。キラは、ドラコの干し肉を一握りと、フィリクスの実のフレークをわずか程、袋に入れた。

キラのところへ、キラの母たちがやってきた。
ガウラから、話を聞いた様子だった。
「どうしても行くのかい?」
キラの母ネキは、心配げな表情で遠慮がちに聞いた。息子の決意は理解している。今さら引き止めることなどできないことも承知している。それに、皆を連れ戻さなければ、ジオフロントは自分たちだけになり、いずれ滅びてしまうことも分かっていた。だが、息子が再び危険な旅に出ることを喜ぶことなどできなかった。
「母様、すみません。決めたことです。こうなってしまったのは、僕があの扉を開いたことが原因です。必ず、皆を連れ戻してきます。信じてください。」
キラは、涙を見せぬよう必死の形相で母に告げる。
「そうかい・・そうだね・・・信じているから。」
ネキはそう言うと、キラの手を強く握った。
すると、一緒にいた女性たちが、キラを取り囲むように身を寄せた。皆の思いは一緒だった。温かい思いがキラの身を包みこんでいた。

翌朝、日が昇り切らないうちに、キラとPCXは地表に向かった。

AC30 第2部終了、いよいよ、第3部です。 [苦楽賢人のつぶやき]

長い旅の末、カルディアストーンを手に入れ、ようやく辿り着いたジオフロントは、オーシャンフロントから来たPCXの集団に襲撃され、仲間たちは皆連れ去られてしまいました。
ジオフロント復活は、カルディアストーンだけでは仕方ないのです。ここで生きる者たちが居てこそ、復活できるのです。

キラは、強い決意を胸に、いよいよオーシャンフロントへ旅立ちます。
これまで、頼りにしてきたPCXは、おそらく、裏切るに違いありません。
絶体絶命のピンチが襲うのは必然。
どうやって、キラは、仲間たちを連れ戻し、ジオフロントを復活させ角でしょうか。
いよいよ、最終部に入ります。

3‐1海上の道程 [AC30 第3部オーシャンフロント]

地表はすでに50℃近くの熱波に覆われ始めていた。最後のチェンバーまで、ガウラは見送りに来ていた。
「では、行ってきます。母たちをお願いします。」
「ええ、大丈夫。エリックもいるし、ジオフロントも回復しつつあるから。気を付けてね。」
ガウラは、キラの手を握りしめた。

「さあ、行こう。」
キラがチェンバーの扉を開くと、熱波が入り込んできた。
PCXが先に地表に出る。キラは、PCXが新たに見つけた大型のアラミーラに乗る。ふわりと浮きあがると扉をすうっと通過し、地表に出る。
「ガウラ、すぐに扉を閉めて!」
閉める間、扉の隙間から、ガウラの顔がしばらく見えていた。
「さあ、行きましょう。熱波の勢いに負けないよう、急上昇します。」
PCXはそういうとすさまじいスピードで上昇した。キラも遅れないよう、一気に上昇する。以前に使っていたアラミーラに比べて、安定していて、スピードも出るようだった。何より、大きいことでアラミーラの上に身を横たえることもできる。
一気に1000メートルほど上昇すると、耐えられるほどの暑さになった。
「これ以上上昇すると気流が強くなりますから、しばらくはこの行動を保ちます。オーシャンフロントは北東の方角にあるはずです。」
足元には、青い海が広がっている。陸地のほうにはかなり高いところまで大きな積乱雲がいくつも広がり、熱波の強さを示している。
陸地を離れてすぐは、海上のところどころに小さな島のような黒いものが見えていた。島といっても、植物は生えておらず、岩の塊に過ぎないものだった。
「オーシャンフロントは、熱波を逃れて北へ向かっているはずです。おそらく、北緯60度くらいまでに達しているはずです。そこまでいけば、熱波も届きにくいのです。」

しばらくすると、転々としていた島も見えなくなり、深く青い海が見えるだけとなった。いったい、どれほど進んだのかわからない。PCXが把握する位置情報がすべてだった。
太陽が水平線に沈みはじめた。
「夜に飛ぶのは危険ですから、そろそろ休みましょう。」
「だが、降りれるような陸地はないようだが・・。」
「大丈夫です。」
PCXは、そういうと徐々にスピードを落とし始めた。キラもPCXに合わせてスピードを落とす。
「海面近くまで降りましょう。」
下降するにつれ、気温は上昇する。
穏やかな海だった。
海面が近づくと、PCXが変形をはじめ、大きな半球形になった。
「さあ、私の中へ降りてください。」
キラはアラミーラから、半球形に変形したPCXへ乗り移る。
すると、一気に半球形のPCXは、キラを包みこんで球状になり、波に揺られた。
「日が昇るまで、この状態でいます。お休みください。」
キラは、海岸で白い卵を発見した日のことを思い出していた。
「ライブカプセルか・・・。」
「はい。そうです。これなら、外気がどれほど高温でも大丈夫です。ただ、全く動けませんから、夜の間に海流で流されてしまいます。このあたりの海流は北向きに流れていますから大丈夫でしょう。さあ、体を休めてください。」
キラは、ライブカプセルに身を横たえた。

3‐2 PCXの願い [AC30 第3部オーシャンフロント]

波は穏やかで、ライブカプセルの揺れは心地良かった。それと、一日中、高度1000メートルを飛び続けたことで、体の負担も大きかった。キラはすぐに深い眠りに落ちていた。
翌日は夜明けとともに、飛び始めた。熱波はそれほど強くなく、高度も昨日よりも低い。ただ、目に入るものは海と空ばかりで、時々、意識が虚ろになる。
PCXはそんなキラの様子に気づき、こまめに、休憩を取る提案をした。しかし、先を急ぎたいキラはなかなか受け入れようとしなかった。
「オーシャンフロントの移動速度よりも我々のほうがはるかに速いのです。すぐに追いつきます。」
PCXがそういったことで、キラもようやく受け入れ、休憩を取ることにした。

ライブカプセルの中で、しばし休憩した。
「キラ様、食事はどうされていますか?」
「ドラコの干し肉がある。飛びながらも摂れるから大丈夫だよ。君はどうだい?」
「私には必要ありません。」
「いや・・何か、影響は受けていないかと思って・・。」
「今のところ異常はありません。おそらく、電波エリアはそれほど大きくないのでしょう。」
「まだ遠いということか・・・。」
キラは少しがっかりした様子だった。
「そろそろ、オーシャンフロントは移動をやめるころでしょう。あと数日中には見えるはずです。」
キラを元気づけるようにPCXが言う。
「そうか・・・。」
キラは袋から、フィリスクの実のフレークを一つまみして口に入れる。
「キラ様、一つ、お願いがあります。私に名前を付けていただけませんか?」
「名前?・・そうか・・そうだな。」
「はい。PCXというのはアンドロイドの機種名ですから・・。」
「そうか・・・・どんな名前がいいんだろうなあ?」
キラは、ライブカプセルの中でごろんと横になり、ぼんやりと呟いた。そして、ジオフロントで初めてPCXの姿を見たときのことを思い出していた。
「そうだ!」
急に起き上がると、キラが言った。
「フォルティア。・・どうだい?」
「フォルティア?」
「ああ、そうだ。君の姿を見たとき、誰かが叫んだんだ。フォルティア・ミーラって。」
「フォルティア・ミーラ?」
「先人類の古い言葉みたいなんだけど・・神秘の力・・魔法みたいな意味だったと思う。まさに君の能力は魔法みたいだからね。どうだい?」
「フォルティア・・いいですね。ぜひ、そうしてください。」
「何だか・・慣れないけどね。」
旅の途中のささやかな憩いの時間が過ぎていた。

その日は、夕暮れまで北東を目指し飛んだ。
翌日になると、北緯60度を超えていた。すでに気温は30℃以下に下がり、海面近くを飛べるほどになっていた。
「PCX・・・いや、フォ・・フォルティア、あとどれくらいかな?」
まだ慣れない呼び方をして、キラが訊く。
「もう、近くまで来ているはずです。ただ、この辺りは潮流が激しいようなので、どこか、穏やかな湾や島々の間に入り込んでいるかも知れません。」
キラは、PCXの言葉に、オーシャンフロントの姿が見えないかと周囲を注意深く見てみた。しかし、周囲に島影はなかった。


3‐3 危険な生物 [AC30 第3部オーシャンフロント]

翌日も朝から北東を目指して進んだ。昼ごろに、小さな島影が目に入ってきた。
「この先に、大きな陸地があります。いくつも湾もあるようですから、きっとこのあたりにいるはずです。」
PCXはレーダーを使ってオーシャンフロントを探しているようだった。キラも目を見開いて探した。
「少し上空から様子を探ってみましょう。キラ様は、この先の湾の中を探してみてください。」
PCXはそう言うと急上昇していった。

キラは、PCXの示した、目の前に見える湾の中に入っていった。
切り立った崖がぐるりと壁のように取り囲む深い湾、中には大小の島がいくつも並んでいる。海流は穏やかに見えた。崖の上や島々には、大きな針葉樹が立っている。
ジオフロントを出て、初めて、森が広がる大地を目にしていた。
森は広がっているが、生物はいないように、静まり返っていた。ジオフロントの地表には、数多くの危険な虫たちがいて、羽音や歩く音、戦う時の激しくぶつかり合う音、様々な音が響いていて、キラはその音を聞き分ける能力も高かった。
しかし、ここでは、そういう音が全く聞こえなかった。
おそらく、長い厳冬の季節には、深い雪と氷に閉ざされるからだろう。
地上の生物は、長い冬を生き抜くことができないのだろうと、キラは考えていた。

アラミーラで、島々の間を縫うように飛び、オーシャンフロントが隠れていないか探して回った。

油断をしていた。一つの島をぐるりと回った時だった。
海面から、急に黒い影が飛び出してきた。目の前が真っ白になる。キラは、アラミーラごと吹き飛ばされ、高くそびえる針葉樹に打ち付けられた。激しい衝撃にキラは気を失い、針葉樹の枝に体を打ち付けながら落下した。

上空でオーシャンフロントを探していたPCXは、海面に浮かんでいるアラミーラを発見して、キラの異変に気付いた。すぐに、生命体センサーを使って、島の中腹に倒れているキラを発見した。

キラは、PCXのライブカプセルの中で目を覚ました。ライブカプセルの中には高濃度の酸素が充満され、キラの回復を助けた。
「気づきましたか?」
キラは体を起こそうとしたが、全身に痛みが走って動けなかった。
「かなり強い衝撃を受けたようですね。幸い骨折はしていませんが、痛みはしばらく残るでしょう。」
キラは、針葉樹に衝突し、そのあと、枝に全身を打ち付けたものの、落下したところが、深い苔の絨毯の上だったことが幸いして、骨折を免れていた。
「一体、何があったのですか?」
キラは少しずつ思い出していた。
「海面近くを飛んでいて、いきなり、水柱が立ったんだ。その勢いで跳ね飛ばされてしまったようだ。」
「きっと、それはグル―でしょう。」
「グル―?」
「オーシャンフロントでは、最も危険な生物と恐れていました。体長10メートルほどで、物凄いスピードで水中を泳ぎます。深く鋭い棘をもった足が10本ほどあり、あらゆる生物を餌にします。水中の魚や貝だけでなく、空を飛ぶ虫さえ餌にします。水中から目にもとまらぬ速さで棘のある足を突出し捕えるのです。直撃していたらひとたまりもなかったでしょう。」
「運が良かったということか・・・」
「いえ、アラミーラのおかげです。新型のアラミーラには、近づく危険を察知してとっさに避けることができる機能がついています。避けるために、急上昇し、キラ様がバランスを崩してしまい振り落とされたのでしょう。」
キラはPCXの話を聞いているうちに、全身から痛みが引いて、ずいぶんと楽になった。
「高濃度酸素の中に、鎮痛剤を少し混ぜています。楽になられたのなら、早めにここを出ましょう。グル―が現れたのなら、この周囲にオーシャンフロントはいないでしょう。別の湾に隠れているはずです。」
二人はすぐに、島を離れた。

3‐4 悪天候 [AC30 第3部オーシャンフロント]

「上空から調べたところ、もう少し西方にも同じような湾がありました。日暮れまでは、そこへ着けるように急ぎましょう。」
PCXはそう言うと少しスピードを上げた。

前方に別の陸地が見えた。同時に、陸地を覆うような黒い雲が広がっているのが目に入ってきた。
「天候が心配です。」
PCXがそういうと同時に、ぽつぽつと雨が降り始める。
目の前の黒い雲があっという間に二人のところまで到達した。叩きつけるような激しい雨、渦を巻くような強風、さらに、激しい稲光が轟音と共に打ち始めた。
もう安定的に、飛んでいける状態ではなかった。目を開けていることもままならない。それに、いつ、稲妻に打たれるかもわからない状態になってしまった。

しかし、目指す陸地までは、まだ距離があった。
「もうこれ以上は無理です。ライブカプセルで海面に降りましょう。」
PCXはキラを包みこみ、海面に降りた。海面は強風に激しく波打っている。
カプセルは激しく波に翻弄されるが、なす術もない。PCXは、ライブカプセルの中のキラの体を完全に包みこみ、空間をなくし、可能な限り小さく縮小し波の影響を避けた。
外は昼間にもかかわらず、薄暗く、ただじっと黒雲が去るのを待つ他なかった。
夕暮れの時間を迎えても、一向に嵐は過ぎなかった。
夜になっても、激しい風雨は続く。
「キラ様、大丈夫ですか?」
時折、PCXはキラの様子を伺う。キラはじっと耐えていたが、昼間の衝撃で意識を失うように深い眠りについた。

朝を迎える時間だった。だが、朝日は射してこない。
黒雲は去っていなかった。雷や強風は収まったようだが、強い雨は降り続いている。波は収まった。
目を覚ましたキラは、「フォルティア、外の様子は?」と訊いた。
「お目覚めですか?・・外は強い雨が降り続いています。」
PCXの声の向こうから、地響きのような、振動のような音を感じた。
「あの音は?」
「近くの火山が噴火しているようです。昨日の黒雲も、噴火によるもののようです。」
「外の様子を見たいんだが・・」
PCXはライブカプセルの横の部分を少し開いて、外が見えるようにした。その隙間から、キラは外を見た。確かに雨が降っている。だが、普通の雨ではなさそうだった。
ちょうど隙間の部分に雨水が入ってきた。それは、真っ黒で少し熱を感じる。
「これは・・・。」
「火山の噴煙が雨に混ざり、真っ黒な水滴になって降り注いでいます。少し酸性の強い雨です。」
「君は大丈夫なのか?」
「何の影響もありません。高温の熱水にも、強酸性の水でもライブファイバーは耐えられます。ですが、キラ様は耐えられないでしょう。目に入れば失明する恐れがあります。今しばらく、このまま耐えるほかありません。」
「オーシャンフロントはどうだろう?」
「直接降り注げば、かなり被害が出るでしょう。しかし、火山噴火は予見されているはずです。避けられる場所まで移動したと思います。」
「また・・離れてしまったのか・・。」
「いえ、大丈夫です。今朝方から、オーシャンフロントの信号をキャッチし始めました。それほど遠くありません。おそらく、噴火した火山の反対側へ逃れたのでしょう。この湾の奥深くに隠れているはずです。」
「そうか・・・。」
そこまで聞いて、キラは不安を感じ始めていた。PCXが信号をキャッチしたということは、今後、オーシャンフロントからの影響を受けやすくなるということになるからだった。

3‐5 島影 [AC30 第3部オーシャンフロント]

海流が湾の奥に流れ込んでいるようで、PCXのライブカプセルは、海流に乗って湾の奥へ移動を始めた。
奥に向かうにつれて、火山の噴火音は一層大きく、ライブカプセルの中でもびりびりと感じるほどだった。しかし、大きく流れが変わったあたりから、雨も止み、日差しを感じるほどになっていた。

「フォルティア、外が見たい。」
「判りました。」
PCXがライブカプセルを解除した。

はるか後方に、噴煙を上げている火山が見えた。青空も見えた。
「このまま、流れに乗っていけば、湾の一番奥につきます。おそらく、その手前あたりにオーシャンフロントが見えると思います。」
フィヨルドのように深く切り込んだ湾、両側に切り立った山、いずれも火山のようだった。いくつかは小さな噴煙を上げている。

「見えました。前方の三角形の尖った山、あれがオーシャンフロントです。」

周囲の山々は、岩が剥き出しの荒々しい形状だが、一つだけ、まっすぐに天に伸び、緑に覆われた、ピラミッド状の山がある。
それは、キラの想像をはるかに超える大きさだった。
人工物とは思えないほどの大きさの島、まさか、これが大洋を自由に動き回るとは思えないほどだった。
以前に、PCXから、ユービックを介して、3D映像を見たことがあった。PCXは、周囲30km、最も高いところは500mと説明し、最大50万人が生活していたと聞いたが、その時はとても想像はつかなかった。
だが、今、目の当たりにして、それが現実のものであることに驚くばかりだった。
そして、それはとてつもなく高い科学技術力で作り上げられたものであること、そして、それを支配する者の力の大きさを想像し、気後れする自分に気づいていた。

「フォルティア、君がいたころと比べて何か変わったところはないか?」
「外観上の変化はありません。」
「そうか・・・。」
徐々に、オーシャンフロントに近づいている。
「フォルティア、影響を受け始めているのか?」
「今のところ、何も変化はありません。」
しかし、キラは気づいていた。
PCXの反応が徐々に機械的になってきているのだ。

「もう、オーシャンフロントでは、気づいているかな?」
「わかりません。」
「武器を用意したほうがいいかな?」
「不要です。」
「だが・・・」
キラがそういって、デイパックの中から小さなスクロペラム(銃)を取り出そうとすると、PCXは変形し、キラの体を細い紐状のライブファイバーで拘束した。
同時に、半球形から円筒状に変形し、一気の速度を上げて、オーシャンフロントへ向かい始めた。

PCXが、オーシャンフロントの支配下に入ったことは明白だった。
キラはこうなることを予期していたが、抗うすべはなかった。


3‐6 PCXの集団 [AC30 第3部オーシャンフロント]

島までわずかの距離になった時、上空に、多数の球形が現れ、一見して、それが、ガーディアン・アンドロイドPCXの集団であることが分かった。
PCXの集団は、キラを乗せたPCXを取り囲むように上空に静止した。
しばらくすると、相互に通信を行っているのか、キラには理解できないような信号音と点滅する光を発すると、集団の中から2体がゆっくりと近づき、挟み込むようにぴったりと接合すると、上昇した。その前後をPCXの集団が編隊を組み、静かに、オーシャンフロントに入っていった。

オーシャンフロントの海岸部分は、人工島らしく、白く高い防波堤が周囲をぐるりと囲むように作られていた。そして、その防波堤の上部から海面までは優に20メートルはあるように思えた。

キラを取り囲んだPCXの集団は、いったん、オーシャンフロントの領域に入ったものの、地上には降りず、その場に待機しているようだった。
「どうなっているんだ?」
キラがPCXに問いかけても、何の返答もなかった。もはや、完全にオーシャンフロントに支配されているただとアンドロイドになっていた。
キラはどうにか、下の様子を見ようと身を捩ってみた。しかし、ライブファイバーの締め付けは強く、全く身動きが取れない。

しばらくすると、PCXの集団はゆっくりと地表に降りた。キラを乗せたPCX以外は、いったん人型アンドロイドに変形し整列した。特に武器は持っておらず、無表情に立っている。次に、キラを拘束していたPCXが、拘束をほどき、他のPCXと同様に人型アンドロイドになり、列に入った。
その段階で、フォルティアがどれだったか、見分けはつかなくなってしまった。

拘束を解かれたキラは、ゆっくりと周囲を見渡した。
そこは、オーシャンフロントの最も外側で、防波堤の内側だった。海の様子は見えないが、島にぶつかる波の音と潮の香りで判った。そして、周囲には何の建物も見えなかった。ただ広い空間だった。地面は硬質のガラスのような物体で作られている。小さな振動を感じるところから、内部は空洞のように思えた。島を支えるフローターなのだとキラは考えた。
「これから、どうするつもりだ?」
キラは目の前のPCXの集団に問いかけるが、何の返答もない。ならば、逃げてしまおうと足を動かすと、PCXの列がキラを制止するように動く。
ここに留めておくという指示だけが出ているのだろうか?
キラは、その場に座り込んだ。動けないならば、動かないまでのこと。ここに連れてきた以上、何かのアクションはあるだろう。目の前のPCXたちに聞いたところで無駄なことだ。相手の出方を待つ他なかった。
膠着状態が1時間ほど経った時、目の前のPCXの色が真っ白からブルーへ変化し、時折、黄色やピンク色に変化し始めた。支配者から何かの指示が届いたに違いない。
「立ちなさい。」
どのPCXかは判らないが、強い音声が響いた。続いて、列の後ろにいたPCXが次々に球体に変形し、宙に浮いた。半数ほどは、すぐにどこかへ飛び去り、キラの周囲には4体が残った。
「ついてきなさい。」
4体のPCXは同時にそう告げると、キラの前後を取り囲むようにして歩き始めた。
「どこかに連れて行こうということか・・・。」
キラはPCXに従った。
フローター部分と思える場所から、遠くに見える山の方角に進み始めると、目の前に壁が見えた。高さは3メートル程度だろうか、外の世界との隔離壁のように見えた。しかし、門や扉のようなものは見えない。
PCXはその壁に近づき、人型アンドロイドの腕を壁に近づけると、その場所が3メートル幅でゆっくりと開いていく。不思議な構造物だった。

3‐7 奇妙な風景 [AC30 第3部オーシャンフロント]

開口部から中に入ると、眼前に、長閑な田園風景が広がっていた。
そこから、まっすぐに、あのピラミッドの形をした山に向かって舗装道路が伸びている。しんと静まり返り、動くものは何もない。
「乗りなさい。」
傍に立つPCXが椅子状に変形した。それを2体のPCXが翼の様な形に変形し、合体する。ちょうど、飛行機のような形状になった。もちろん、キラはそのようなものは見たことがなかった。
椅子に座るとふわりと浮き上がり、先ほどの直線道路上をゆっくり、山の方へ向って行く。
脇には人型のままのPCXが周囲を見張るように目線を動かしながらついてくる。
このPCXは、キラを見張るというより、周囲の異常を発見する役割を担っているようだった。
左右には広い田園が広がり、美しく整えられた畑には、見たこともない植物が植えられ、赤や黄色の実をつけている。田園のあちこちに、球形のPCXが浮かび、監視をしているように見えた。
10万人ほどが生活できるほど広大なオーシャンフロントと聞いていたが、上陸して、まだ一人の人間にもあっていなかった。
田園地帯を過ぎると、森林が広がっている。直線道路は、その森の地下を抜ける大きなトンネルに繋がっている。
トンネルの中は、明るすぎるほどの照明が施され、一定の間隔で、横穴の様にトンネルが作られているのが見える。その奥も、また明るい照明で照らされていた。
しばらく、トンネルを進むと、ようやく出口が見えた。
「もうすぐ、カルディアタワーに到着する。」
傍に居た人型のPCXが告げる。
出口を抜けると、草原が広がり、その先の山の頂上を見上げると、白く輝く円柱の構造物が見えた。目を凝らすと、草原の中にも背の低い構造物がいくつも建っていた。
「人間は住んでいないのか?」
キラが呟く。
「その質問には答えられない。」
人型のPCXが機械的に答えた。
直線道路の終点には、見上げるほどの噴水がある広場があった。PCXたちは、そこで停まった。
「降りなさい。」
キラが椅子を立つと、PCXたちは全て、球形に変形してキラの頭の上で静止した。まるで何かを待っているようだった。
しばらくすると、噴水の前の床が開いた。そこから、真っ白の布を体に巻き付けたような着衣姿で、長い髪の女性が10人ほど現れた。
女性たちは、綺麗に列を作り、まっすぐにキラのところへ歩いてくる。人間には間違いないようだが、その動きは、まるでアンドロイドのようだった。
そして、キラの前に立つと、先頭の女性が、静かに言った。
「主の許へご案内いたします。」
鈴の様な美しい声だった。だが、そこには何の感情も感じられない。表情も変わらなかった。歓迎しているともそうで無いとも思えない。やはり、アンドロイドなのではとキラは考えた。
「主とは?」
キラがその女性に尋ねた。
「その質問にはお答えできません。」
さきほどのPCXと同様の答えが返ってきた。

「ご案内いたします。」
女性の一人が言うと、白い衣服に裳を包んだ女性たちが、キラを取り囲んだ。キラは今まで嗅いだことの無い甘美な香りを感じ、少し頭がぼんやりとした。
「参ります。」
そう言うと、白い服の女性たちが静々と、噴水前の扉に入っていく。開口部から中に入る。目の前には、田園風景が広がっていた。

3‐8 白い人々 [AC30 第3部オーシャンフロント]

扉の奥には地下への通路があった。全員が扉の中に入ると、ゆっくりと扉が閉じる。すると、立っていた床が静かに前進を始めた。
キラは、予期せぬ事に、つい、よろけてしまい、隣にいた女性の腕を掴んでしまった。
女性の腕は温かかった。
「すみません」
キラは腕を強く掴んだことを詫びた。
だが、当の女性は全く意に介さないのか、表情一つ変えず立っている。体温を感じ、確かに人間であるはずだった。だが、人間とは思えないほど無表情であり、感情を見せなかった。
床は音もなく進んでいく。遥か視線の先まで、白い通路が続き、終着が判らない。進んでいるのかどうかさえ判らないほどであった。
キラは、先ほどの女性の顔を今一度見直した。どことなく、フローラと顔立ちが似ている。
ゆっくりと反対側の女性を見ると、やはり良く似た顔立ちであった。
それに、前後左右の女性たちすべてが、背格好もよく似ている。何か、余りにも、似過ぎていることに、キラは違和感を覚えていた。

「お尋ねしたいことがあるんですが・・。」
キラが言葉を発した。静寂の通路の中にキラの声だけが響く。女性たちは微動だにしない。
しばらくの沈黙のあと、声が聞こえた。
「あなたのご質問にはお答えできません。」
誰が言ったのか判らないが、取りつく島もない返答が返ってきた。
それでも、キラは続ける。
「皆さんは姉妹なのですか?」
返答はない。
「ここには男性はいないのですか?」
「どれほどの人が暮らしているのですか?」
「主とはどんな人なのですか?」
矢継ぎ早に質問を投げてみた。
何かに反応してくることを期待した。だが、何の反応もない。
キラは、我慢できず、隣にいた女性の腕を強く掴んで、「何か答えろ!」と叫んだ。
腕を掴まれた女性は、特に驚く事もなく、ゆっくりと、キラの方へ顔を向けた。先ほどと同様に、無表情のままだった。
「さあ、何とか言ってみろ!」
その女性の目を覗き込むように再びキラが迫る。
すると、取り囲んでいた女性たちが一斉にキラの方へ体を向けた。
取り囲んだ女性たちの顔は、すべて、無表情であった。そして、全てフローラに似た顔立ちで、全て同じではないかと思えるほどだった。
「人間じゃないのか?アンドロイドか?」
キラはうろたえながら、取り囲む10人の女性の腕を次々に掴んでみた。すべて、体温を感じる。それに、脈もあり、呼吸もしている。
「何か言ってくれ!」
キラは懇願するように言った。
「ご質問にはお答えできません。」
先ほどと同じ答えが返ってきた。だが、女性たちの口は開いていない。どうやら、先ほどの答えも、この通路のどこからか聞こえてきたものと判った。
落胆し、キラは跪いた。
先ほど嗅いだ、甘美な香りを再び感じた。そして、その香りは先ほどよりも一層強くなり、キラは意識を失った。

3‐9 白い部屋 [AC30 第3部オーシャンフロント]

キラは、白い部屋の大型のソファーで目を覚ました。
目の前は、大きなガラス窓ごしに、青空が見えた。
キラは立ち上がり、天井まで広がるガラスの前に立った。眼下には、同心円上に整備された、田園風景が広がり、中央部に直線道路が見える。足元まで視線を落とすと、大きな噴水も見える。そして、その周囲に、円柱形の低い構造物が左右に際限なく広がっていた。
キラは外の風景を眺めながら、自分がこの島の中央部にあったタワーの中にいる事を確認した。
部屋は、円形をしていて、中央にソファーが一脚置かれているだけだった。白い壁がぐるりと取り囲み、どこにもドアがない作りだった。照明器具はなく、壁自体が白く光を放っているようだった。
「さて、どうしたものか・・。」
そう呟いて、キラは再びソファーに座った。
すると、後方の壁がゆっくりと変形し、開口部を作り、そこから白い服を纏った女性が現れた。
その顔だちと体格などから、先ほどの白い衣服を纏った女性の一人ではないかと思った。

「お目覚めですか?」
今度は女性から口を開いた。
それも、上品な笑顔をたたえ、抑揚のある感情を感じられる言葉であった。
「長旅でお疲れだったのでしょう。途中で倒れられたので、このお部屋でお休みいただくことにしました。」
優しい表情で、ゆっくりとキラへ近づいてくる。

「何かお飲物でもご用意しましょうか?」
キラはそう問われても、どう応えてよいか判らなかった。ジオフロントで飲料といえば、水かフィリクスの果汁、それに野草のスープ程度しかない。ガウラだけは特別な飲み物を自分で調合していたが、詳しくは知らない。
「この季節は、果物のジュースがとても美味しいですから、いくつかご用意しましょう。」
女性がそう言うと、ソファーの床が開いて、箱上のものが出てきた。上部が開くと、中に、緑や黄色、紫の色をした飲み物が入った小さめのグラスが並んでいる。

「お好みのものをどうぞ。」
女性は笑顔で勧める。
「オーシャンフロントの畑で収穫した果物を絞ったジュースです。先人類から受け継ぎ、守ってきました。メロン、オレンジ、グレープ、アップル、地球上から絶滅した植物ばかりです。どうぞ。」
キラは、フィリクスの果汁に近い、緑色のグラスを取り、一息に飲みほした。口の中に感じたことの無い爽やかな甘みと香りが広がる。
「それはメロンジュースです。今が旬の果物です。いかがですか?」
「美味い・・・。」
「宜しければ他のものもどうぞ。」
キラは勧められるまま、他のグラスにも口をつけた。どれも今まで味わったことの無い甘美なものだった。
「食事はいかがですか?」
キラは、ここまでの数日、わずかなドラコの干し肉とフィリスクの実のフレークを口にしただけで、空腹だった。だが、素直に返事ができず、「ああ・・」と曖昧に返事をした。

「すぐにご用意します。」
ほんの数秒だった。先ほどと同様にソファーの前の床が開き、下から箱が現れる。上部が開くと、そこには、スープやパン、それに見たこともない肉の塊、みずみずしい野菜などが盛られた大皿が置かれている。
その美味しそうな匂いに、キラは、我慢しきれず、がつがつと食べ始めた。
女性は、キラの姿を笑みをたたえた表情で見守っていた。
目の前の大皿の食事を、綺麗に平らげたキラは、ようやく、落ち着いた。
そして、先ほどから、ずっとキラを見守っている女性の微笑みが、警戒心を解いてくれたようだった。


3‐10 ステラ [AC30 第3部オーシャンフロント]

「ありがとう。」
キラが心から感謝の言葉を発した。すると、その女性は少し戸惑いの表情を見せた。
「なぜ、礼を言うのです?」
「いや・・これほどのものを用意してもらったから・・・。」
「主のご指示に従っただけです。それに、先ほどの飲み物や食事は、すべてこのカルディア・タワーが用意したものです。」
少し妙な言い回しだった。
「ここはカルディア・タワーというんですか?」
「そうです。このオーシャンフロントの全てをコントロールしています。」
女性は、キラの近くに直立したまま、表情は絶えず笑みを浮かべ、淡々と答えた。
「あの・・あなたのお名前は?」
キラは尋ねてみた。
「名は、ステラです。主にいただいた名前です。夜空の星という意味だそうです。」
「ステラ・・・そう。・・ステラさんは、フローラという名を聞いたことはありますか?」
「いえ、ありません。」
「では、似たような名の女性を知りませんか?」
キラは少し強引に訊いた。
「私は、主、以外の方をお話ししたことがありません。他人とお話するのは、キラ様が初めてです。」
キラは驚いた。
少なくとも、自分より年上に違いない。これまで、他の人間と話したことがないなど想像もできなかった。そして、自分の名をこの女性が知っている事にも驚いてしまった。
「ステラさんは、どうして僕の名を?」
「主より、全て伺っております。お名前は、キラ・アクア。南方のジオフロントからここまで来られたことも知っています。」
「では、僕が何の目的でここに来たかも?」
「はい。ジオフロントの皆さまにお会いになるためでしょう。」
「では、フローラという女性に会いに来たことも?」
「それは知りませんでした。」
「フローラは、ここで生まれ、不慮の事故で海に投げ出され、長い時間をかけてジオフロントの近くの海に流れ着いたんです。そうだ、10年ほど前だと聞いています。大きな火事が起きたのだと・・。」
「ここでそのような事故は起きていませんし、海に投げ出されるような場所もありません。きっと何かの間違いでしょう。」
確かに、ステラの言う通り、オーシャンフロント全体が高い塀に囲まれていて、誤って海に落ちるなど考えられないことは、到着した時に確認していた。
「でも、ここで生まれたのは間違いない。彼女を守っていたPCXが話していました。」
「存じません。」
ステラは、本当に知らないようだった。
「じゃあ、僕の仲間たちはどこにいるんです?会いに来たのです。会わせてください。」
ステラは少し間をおいて答えた。
「それは、主のお決めになる事です。私には判りません。まだ、こちらに来られて、まだ数時間しかたっていません。そんなに急ぐこともないでしょう?まずは、ここの満ち足りた暮らしを満喫されてはいかがですか?」
「それも、主の意思なのですか?」
キラは厳しい声で訊きかえした。
ステラは、顔色一つ変えず、答える。
「そうです。すべては主の御意思に従う事です。ここへ来た以上、主に従う事。そうすれば、あなたの望みも叶うでしょう。」
ステラは、柔らかな微笑を見せて、何の疑いもなく、そう言った。

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