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2-5 君原副院長 [同調(シンクロ)Ⅱ-恨みの色-]

二人が橋川署に着いたのは、夜11時を過ぎたころだったが、刑事課の部屋には煌煌と明かりが点いていた。
「遅くなりました。」
二人が部屋に入ると、署長、鳥山課長、森田、松山、葉山が居た。
皆、困惑したような表情を浮かべている。そして、神林レイと君原副院長の姿もあった。
「有田看護師と遠藤技師が行方不明だ。」
鳥山課長が苦々しい表情で言った。
それを聞いて、亜美はレイの顔を見た。レイは済まなそうな表情浮かべている。
「どういうことですか?」と一樹。
「昼頃、病院内で、あの思念波を強く感じたんです。すぐに、思念波の持ち主を探したんです。」
レイはそう言って、その時の様子を話した。

12時を少し回ったころだった。
神林レイは、院長室に居た時、不意に、強い思念波を感じた。恨みの色というより、悲しみの色に近い・・だが、その波長は以前に感じたものと同じだった。
レイは、すぐに持ち主を探そうと、院長室を出て、エレベーターで1階の玄関ロビーに出た。
午前の診療が少し伸びていて、ロビーにはまだ多くの患者が居た。じっと周囲に注意を向けてみたが、ロビー内には、思念波は感じられない。
病院の外にあるのではと考え、外へ出ることにし、事務室の裏口から、職員駐車場へ出てみた。
ちょうど、その時間帯は、病棟の看護師たちが、午後の交代に合わせて出勤してくる頃で、職員駐車場には、何台か車が出入りしていた。
そこで、じっと意識を集中すると、駐車場の一番奥で、先ほどの思念波を捉えることができた。
その方向へ、少しずつ近づいてみると、駐車場の一番奥の場所に、赤い小型車が止まっていた。
遠目だったが、運転席に遠藤技師が座っているのが判った。そして、助手席には、有田看護師が座っていた。
よく見ると、有田看護師が泣いて遠藤技師に縋り付いている。それを遠藤技師が宥めているように見えた。
先に、レイが近づいているのを見つけたのは、遠藤技師だった。
遠藤技師は、レイに向かって深々と頭を下げたように見えた。駆け寄ろうとした時、車は急発進して、レイの横を通り過ぎ、場外へ出て行ったのだった。

「すぐに、今回の事件に二人が関係しているのだと判りました。それで、事務課へ行き、二人に連絡を取ろうとしたんです。ですが、二人とも携帯電話の電源が切られているようで連絡が取れず、すぐに、それぞれの自宅にも行ってみたんですが、戻った様子は無くて・・結局、所在が判らなくなったんです。」
レイが言う。
「やっぱり、そうだったのね・・・・。」
亜美が言った。
「あの・・ちょっと、よろしいでしょうか。」
そう言ったのは君原副院長だった。
「これは、私の机に置かれていたものです。・・1通は、下川医師が書いたものです。そして、もう1通は、有田看護師が書いたもののようです。」
そう言うと、白い封筒2通を一樹に渡した。
「今日は朝から、市民病院で医師会の会議があり、夕刻近くになって戻ってきました。その時には、神林院長が、遠藤技師と有田看護師が行方不明だと・・・何か手掛かりはないかと、部屋に戻って、この封筒を発見したんです。もう少し、早く動いていたら・・こんな事には・・」
君原副院長は、厳しい表情で天井を見上げる。

「もう少し早くとはどういうことですか?」
君原の言葉に疑問を抱いた一樹が尋ねた。
「実は・・最初の事件が起きてから、皆さんとは別に、犯人探しをしていたんです。病院内で起きた事ですから、当然、私にも責任はある。警察の皆さんに全てお任せして良い訳はない。・・ただ、もう少し早く、皆さんにお知らせしておけば良かったと強く後悔しています。」
君原は神妙な表情でそう言った。
「犯人探しを?」
一樹が訊く。
「ええ・・佐原さんが自殺された時、もし、誰かが殺した・・あるいは、自殺に追いやるようなことをしたのなら、きっと、病院内の人間だと考えたんです。医師か看護師か・・いずれにしても、患者に近づけるのは限られていますから。私は、すぐに、皆さんと同じように、院内の監視カメラの映像を確認し、当日の医師や看護師の勤務体制もチェックしました。だが、そこからは何も掴めませんでした。」
君原が答える。
「ええ・・それはこちらも同様でした。」
と一樹も頷いた。
「その後、上村さんが自殺された。・・上村さんは、佐原さん同様、神林病院に検査入院する予定だった。・・検査入院する患者が続けて自殺するなど、偶然にもあり得ない。そこで、見方を変えて、二人の入院経緯について調べてみたんです。・・どちらも、下川医師の判断で入院要請されていました。」
「ええ、そうでした。それが何か?」と一樹。
「検査入院するには、それなりの理由が必要です。既往歴があり、病状が変化しているとか、より精密な検査が必要だとか・・そういう理由を明らかにしたうえで、入院申請の手続きが必要になります。ましてや、最上階の特別室への入院となれば、副院長か院長の事前承認が必要なのです。」
「どういうことですか?」
「例えば、下川医師が二人を意図的に入院させようとしても、合理的な理由を示す必要がある。佐原さんも上村さんもその手続きに瑕疵はなかった。いずれも、定期健診で、レントゲン写真と血液検査データに異常が見つかっていたんです。おそらく、癌ではないかと考えられる所見がありました。」
「二人とも?癌?」と亜美。
「ええ・・申請時期はずれていますが、よく似たケースの申請になっていた。そこで、院内のカルテデータベースで再度点検したところ、レントゲン写真と血液検査データが書き換えられている形跡が見つかったんです。」
「データが改ざんされていた?」と一樹。
「ええ・・そして、それが、いずれも同じ検査技師によるものだった。そうです、遠藤技師が検査に関わっていたんです。下川医師と遠藤技師が何らかの意図をもって、二人を入院させた・・そう考えました。」
君原副院長は残念そうな表情で続ける。
「まず、下川医師に経緯を確認すべきだと考えました。でも、その時には、すでに行方不明でした。」
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