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2-8 喫茶店にて [同調(シンクロ)Ⅱ-恨みの色-]

駐車場に置いていた赤いシボレーの横に、高級外車が停まった。
すぐに、助手席から黒づくめの若い男が現れ、後ろのドアを開く。すると、中から、三つ揃えのスーツに身を包み、黒いアタッシュケースを抱えた男がゆっくりと現れた。見た目で、その男がただのサラリーマンではない事はすぐに判った。
そして、その後を、作業着を着た中年の男がいやいや乍らついている。何か、脅されているようでもあった。
若い男が二人、先に喫茶店の中に入ってきて、店内を見渡したあと、アタッシュケースを持った男を奥の席に案内している。作業着の男もその後をついて入ってきた。
店内の観葉植物の陰の席に上村たちは座っていたため、例の若い男たちは、上村たちが居ることに気付かないようだった。
「おい。・・何だか面白そうな話が聞けそうだ。」
上村は、声を潜めて下川に言うと、身を縮めるようなしぐさをした。下川もつられて同じ姿勢を取った。
店主が、水をもって男たちの席に近づくと、若い男が遮り、「注文は良いんだよ!」と言って、店主を追いうようにした。よほど聞かれたくない話のようだった。
奥の席から話し声が漏れる。上村たちはそっと聞き耳を立てた。
「さあ、これで良いでしょう。お互い、損をしない話だ。牧場は提示した通りの価格で買い取る。そして、それとは別に、お礼を差し上げようというんです。これは、まったく表に出ないお金だ。これだけあれば、一生不自由しないでしょう。・・あなたが承諾してくれれば、全てが丸く収まるんですよ。」
三つ揃いのスーツを着た男の声に違いなかった。言葉は柔らかいが、野太い声で威圧感がある。ほとんど脅しているのと変わらなかった。
「しかし・・・・」
返答しているのは作業着の男のようだった。か細く弱々しい。今にも消え入りそうだった。
「工事は随分遅れているんですよ。あの土地が手に入れば、大きな道路がすぐにも開通する。そうなれば、市民の皆さんはたいそう喜ぶんです。いわば、あなたは地域の功労者になれる。その上、これだけの金を手に入れることができる。どこに問題があるんだ。」
三つ揃えのスーツの男は少し苛立ち言葉が悪くなった。
「先祖から引き継いだ土地なんだ。・・親父が生きている間は・・。」
作業着の男は、何とか絞り出すように話す。
「親父?・・じゃあ、すぐにも死んでもらえばいい。・・それくらい、お手伝いしますよ。」
三つ揃えのスーツの男は、不敵な笑みを浮かべて、そう言うと、煙草をくわえる。すると、若い男がすぐさま火をつける。
「そんな・・・。」
作業着の男が叫び声にも似た声を出した。
「冗談ですよ・・だが、私の一声で、簡単にやってしまうような男を知っているということです。そんなことはしませんよ。・・だが、身の安全を考えるなら、そろそろ決断した方が良い。そうだ、確か、あなたには、奥さんも、小さなお子さんもいらっしゃる。無事に毎日暮らせると良いんですがねえ・・」
男はそう言うとたばこの煙をふーっと吐き出した。
傍で聞いていても、もう、承諾する寄り道は無いのは明らかだった。
「じゃあ、こうしましょう。承諾していただけるなら、アタッシュケースをもう一つ用意しましょう。ざっと2億円になる。これだけあれば、本土へ転居して、新しい土地へ新築の家を建て、さらに、お子さんたちも大学までやれるでしょう。土地の代金と併せて、ざっと3億円になる。それで手を打ちましょう。」
一方的だった。
「おい、どうなんだ!」
脇に居た若い男が、乱暴な言葉を浴びせる。
「おい、黙ってろ!私がこの方と話をしているんだ!」
スーツの男は、若い男の胸座を掴んだ。そして、タバコの火を若い男の額に押し付ける。ジューと音がする。若い男は脂汗を流して耐えている。
「わ・・わかりました・・。」
作業着の男は机に突っ伏して承諾する。
「わかっていただければ良いんです。では、この書類に署名と捺印をお願いします。」
スーツの男は涼しい顔で、書類を差し出し、作業着の男にサインをさせた。
「では、今日はこれで。・・今夜にも、お宅に権利書を受け取りに参ります・・。」
スーツの男はすっと立ちあがると、作業着の男を連れて、店を出て行った。上村と下川は、気づかれないようにそっと窓の外を見る。ゆっくりと高級外車が動き始め、出て行くのが見えた。
「おい、下川!追うぞ!」
上村はそう言うと、食事代も払わずに店を出る、下川は慌てて代金を払って、上村の後を追う。
国道は車の通行はほとんどなかった。いったん見失ったが、上村は自慢の車を飛ばして、すぐに高級外車に追いついた。高級外車は、そのまま、国道274号線を帯広方面へ走っていく。前後の車は居ない。上村は高級外車に気付かれないよう、少し距離を置いて走る。人家が亡くなり、山間に入る。目の前に、ダムが見える場所までくると、高級外車が停まった。
道路わきには、白いトラックが停まっていた。そこで、作業着の男が、アタッシュケースを二つ抱えて、車を降りた。高級外車はそこでUターンすると、来た道を戻って行く。
上村は気付かれないよう、そのまま、高級外車とすれ違うと、ダムの近くまで来て車を停める。
しばらくすると、作業着の男が白い車に乗り込むのが見えた。作業着の男は、乗り込んだものの、すぐには発進せず、ハンドルに伏せるようにしている。おそらく、鐘を受け取ったことを後悔しているに違いなかった。しばらくすると、顔を上げて、車を急発進させ、ダムの方面へ向かって走って行った。
「佐藤牧場・・か・・。帯広郊外にあるようだな・・。」
上村は、白いトラックに書かれた名前と住所を瞬時に読み取っていた。
「よおし。」
その言葉は、何か、良からぬことを思いついたことを感じさせるものだった。
「おい、佐原のところへ戻るぞ。」
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