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2-9 悪魔の誘い [同調(シンクロ)Ⅱ-恨みの色-]

国道をひたすら札幌方面へ走りながら、上村の顔は、徐々に紅潮していくのが判った。途轍もない事を思いついている事は下川にも十分に理解できた。
「おい、一体、何を考えているんだ!」
下川は、異常と思えるような形相の上村を見て、堪らず言った。
「一挙に問題は解決するんだよ!まあ、任せておけ。」
「まさか。お前、あの金を・・。」
「ああ、そうだ。どうせ、裏の世界の金なんだ。表に出ることはない。」
「犯罪だぞ!」
「俺の借金は、これからまじめに働いても到底返せる金じゃない。多少のリスクは避けられないさ。少しばかり、分けて戴くだけだ。」
「お前は、それに、佐原を巻き込もうって言うのか?」
「ああ、あいつだって、親の借金に困っているんだ。すぐに乗るさ。」
「馬鹿な事はやめるんだ!」
「いいさ。・・お前はここで降りても構わないよ。だが、他言無用だ。」
もはや、上村を止める事などできなかった。

佐原の務める建設会社に到着した時には、辺りは夕日に染まっていた。
上村は、佐原を車に乗せると、すぐに、今来た国道を取って返した。
「いい話がある。お前は親の借金で苦労しているんだろう?・・俺も借金に追われている。このままじゃ、二人とも一生浮かばれない。・・どうだ、これから一緒に、仕事をしないか?」
上村は、そう言うと、昼間、喫茶店で見たことを詳細に佐原に説明した。
「それは犯罪だろう。・・それより、今の話を警察に話した方が良い。その・・佐藤牧場の人は、きっと無事には済まされないだろう。いったんは、金を受け取れたとしても、その後、もっとひどい目に遭うかもしれない。」
佐原の言葉は正しかった。
「じゃあ、お前は、このまま一生借金取りから逃げ回って生きていくつもりなのか?」
上村が、吐き出すように言うと、佐原は答えに窮した。大学を辞め、アルバイトをしながら、借金取りから逃げ回り、実のところ、もう気力も体力も限界に来ていた。正直なところ、この仕事を最後に命を絶つことさえ考えた事もあった。
上村はその様子を見て囁くように言った。
「盗むんじゃない、少しの間、借りるんだ。目の前の借金を返して、真面目に働いて、コツコツ返すんだ。もともと、悪銭なんだ。それを借りて、俺たちは更生する。そう考えようじゃないか。」
身勝手な理屈だった。そもそも、借りる事などできるものではないはずだった。しかし、佐原にとって、その言葉は、充分すぎるものだった。
「ああ・・判った。だが、命を奪ったり、傷つけたりしない。見つかったら、正直に捕まろう。それならば、おれはやるよ。どうせ、このままじゃ、野垂れ死ぬだけだ。」
佐原の言葉に、下川は驚いて訊いた。
「君は、本当にやるつもりか?」
佐原は、じっと下川の目を見て言った。
「下川君、君は、何も知らなかったことにするんだ。これは、僕と奴だけがやることだ。君はまっとうに生きるんだ。」
「いや・・ここまで、横井を連れてきたのは僕だ。こうなったのは僕の責任でもある。こうなったら、君と横井だけの事にはできない。最後まで見届ける。そして、横井が約束を守るよう監視する。」
下川は佐原の肩を強く掴んだ。
「よし・・じゃあ、行くか。」
3人の乗った赤いシボレーは、国道を帯広方面へ走り出した。

途中、行違う車はほとんどなかった。
車内の3人は、じっと無言で、暗い国道の先を見ている。
幾つかの峠道を超えると、目指す「佐藤牧場」が見えてきた。周囲には、民家はなかった。背後に原生林を抱えた牧場が山麓にポツンとあった。開拓以降、代々の男たちが山を切り開き、開墾し、農地にしたのだろう。土地に対する執念は、いわば、佐藤一家にとってはここに生きた証に違いなかった。

赤いシボレーは、牧場の手前の森の中に隠すようにして停めた。万一にも誰かに目撃されてはならない。暗闇に紛れて、3人は佐藤牧場へ向かう。夜8時を回ったころだった。

牧場の入り口には、外灯が一つあった。入口には、佐藤と書かれた表札と、牧場主「佐藤健一郎」の名が書かれていた。
3人は、身を隠すようにして、牧場の周りを囲むように立っている柵伝いに、大きく回り込んで、佐藤一家が住んでいる母屋からは、最も離れた辺りから、敷地内に入った。
そして、いくつかの建物や農機具の陰を使って、背の高いサイロのある建物の中へ一旦身を隠した。
その中には、牛の飼料が山の様に積まれていて、そのための器具が置かれている。
その陰から、建物の窓越しに、母屋の様子を探る。オレンジ色の灯りにぼんやりと、食事をしている家族の姿が見えた。
3人はしばらくその様子を見ていた。祖父と祖母、父と母、そして幼い子供が二人、静かな夕食を摂っているようだった。
3人もふと自分たちの幼かった頃の事を思い出していた。幼い頃、佐原も上村も比較的裕福な家だった。下川は、母が病弱で、夕食は一人で摂ることが多かったが、それでも、年に何度か、家族で楽しい食事をしたことは記憶にあった。
「なあ・・本当にやるのか?」
下川が呟く。上村と佐原は、その問いにすぐには答えなかった。暫くして、上村が「ここまで来たんだ、やるしかない」とつぶやいた。
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