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AC30第1部グランドジオ ブログトップ
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2.キラ [AC30第1部グランドジオ]

「では、行ってきます。」
体に密着する形状のエメラルドグリーンのボディスーツを着た若者の名はキラ・アクア。年は17歳。ひときわ大きな体格で、伸びた髪の毛を一つに縛り、鋭い眼光の持ち主だった。
「グラディウスは持ったか?」
そう言ったのは、キラの父、アルス・アクアだった。
黒い髭を蓄え、長い黒髪。グラスファイバー製の車椅子に乗っている。
「気を付けるんだぞ。私のようにしくじるんじゃない。お前に何かあれば、皆、飢え死にすることになる。」
「はい。充分に気を付けます。それに、これがあれば大丈夫です。」
そう言って、キラは、薄いブルーの細長い杖のようなものを目の前に掲げた。
「それは、先人たちから伝わった道具、グラディウスだ。これがあれば、凶暴なウルシン等ひとたまりもないはずだ。」
ウルシンとは、地上の森に潜む大型の昆虫だった。
原種はカマキリの類だが、気候変動で巨大化し、人類よりも大きく、肉食性で大型の爬虫類を鎌で捉え捕食する。これが最大の敵であったが、これ以外にも肉食性の昆虫や爬虫類もいる。丸腰ではひとたまりもない。キラの父アルスは、狩猟の最中に、ウルシンに足を奪われたのだった。
ここは、ライフエリアの中央、ライフツリーの立ち並ぶ真ん中の広場であり、コムブロックと呼んでいた。一族のほとんどは、日中は、そこに集まり過ごしている。
キラは、グラディウスを背中のバッグの脇のホルダーに収めると、さっと走り出す。
コムブロックから螺旋階段へ続く通路には、同じように狩猟に出かける若者たちが次々に集まっていて、家族たちが見送りに来ている。ここで若者たちは列をなし、ライフエリアから地上へ続く階段を昇っていく。
皆、同じようにエメラルドグリーンのボディスーツを着て、手にはグラディウスを持っていた。そして、背中には大きなバッグを背負っていた。

これから、彼らは地上に出て、食料を調達するのだった。夏と冬は、人間が耐えられる気候ではない。
1年間のわずかのこの時期に、食糧となりそうなものをいかに多く収集できるかが、ここに住む全ての人の命を握っていた。
キラたちが出かけたのは、マイナス60℃以下まで凍りつく深い冬の期間が終わり、厚い氷が解け、地上温度が10℃程まで上昇したころだった。現代で言えば、春の季節なのだろう。

地上までは100m。
もともと、このジオフロントを作った頃の科学者たちは、彗星落下以降、地表で人類が生きられるとは考えていなかった。地球環境が大きく変わり、人類が地表で生きられる保証はないと判断され、地上に出ることは想定されていなかった。そのために、地表につながる通路は、緊急用であり、利便性などは考えられていない。
細長い螺旋状の長い階段が遥か天井高くに続く。
毎年、こうして狩猟や採集に出かける若者たちのうち、何人かは命を落とす。それでも、そうせざるを得ない。皆、長い階段を無言で昇っていく。

出口は何層もの厚い扉で仕切られている。隕石落下による衝撃と、その後の気候変動を予測した、科学者たちによって作られたものであった。面倒な扉の開閉を何度も繰り返し、キラがようやく地上に通じる最後のチャンバーに着いたのは、ツリーをでて1時間近くたっていた。

朝日がようやく昇った時間で外気はようやく10℃程まで上昇していた。この時間なら、まだ、害となる昆虫や爬虫類は活発には動き回っていない。
共に地上に出た若者たちは、数人のグループに分かれて、狩猟と採集を行う。
50人ほど居ただろうか。それぞれ、出口からちょっと顔をのぞかせると周囲を探り、安全を確かめると草むらに身を隠しながら慎重に出かけて行く。
キラも、同じツリーの仲間3人と行動を共にした。


3.地表の様子 [AC30第1部グランドジオ]

最後のチャンバーで順番を待っている間、今日の計画を相談する。
「今日は、海に行ってみないか?」
キラが切り出した。
「それは良い。たくさん、貝を集めて持ち帰ろう。ちょっと重いが、保存ができるからな。」
そう答えたのは、プリムだった。
プリムはキラよりも8歳ほど年上の25歳だったが、猟に出るのはまだ2年目だった。それまではプリムの父が猟に出る役目だった。プリムの父は2年前にウルシンに襲われ、絶命していた。

「だが、海までは遠いんだろ?ウルシンに見つかるかもしれないじゃないか。食べられるかもしれない。このあたりで草を集めれば良いじゃないか。」
そう心配げな声を出したのは、ハンクだった。
ハンクもプリムと同い年であったが、恐ろしく臆病者で有名だった。
若者たちの中では誰よりも体が大きく力持ちではあるのだが、とにかく臆病であったために、ジオフロントのすぐ近くで、草や花、実の採集しかやろうとしなかった。

「また、ハンクの怖がりが出たな。・・なあ、ハンク、お前の集める草や花の中には毒があって、食べるまでに手間がかかるんだってさ。もっと、良いものを集めて来いって、クライブント様が言ってたぞ。」
ハンクを少し窘めるように言ったのは、アランだった。
アランは、キラと同い年の17歳で、キラと同様にもう10歳から猟に出ている。キラの父がウルシンに襲われた時、アランの父も一緒だった。アランの父が先にウルシンに見つかり襲われた。それを救おうとキラの父アルスはウルシンと闘い、足を奪われたのだった。残念ながら、アランの父は、ウルシンに頭を食われてしまって絶命していた。

「導師様が?お前、導師様に会ったのか?」
ハンクが訊く。
「いや、直接会ったわけじゃないが・・うちの母さんが俺に言ったんだ。導師様に、取ってきた草や花を見せた時・・と言っても、いつもの様に、ビジョン越しだが・・・・草や花を細かく仕分けて、毒の抜き方を教えられたそうだ。随分と手間のかかるものもあったみたいだぞ。それに、余り美味くないじゃないか。」
アランが答える。
クライブント様とは、導師様と呼ばれ、彼らの一族の長とも言うべき人物であった。
最も長老で一族を率いてきた。かつて、一人で猟に出て、体長5mほどのウルシンを倒したことがあったと聞かされていた。ライフツリーの最も高い場所にあるセルボックスを住居とし、常に、一族全体を見守っている。もうかなりの高齢で、若い者たちはその姿を見たことはなかった。いや、ライフツリーの住民のほとんどの者が存在は認めているが姿を見たものは居ないのだった。
「よし、キラの言う通り、今年はしばらく海へ行こう。大丈夫さ、川沿いに下っていけば、ウルシンたちには見つからない。グロケンは居るだろうが、あいつらは動きが鈍いから、捕まることはないさ。旨くすれば、グロケンの卵も持ち帰れるかも知れないからな。」

グロケンとは、巨大なカエルの事だった。こげ茶色をしていて、体調は3mほどで、水辺に居る。
ウルシンは、グロケンを襲わない。グロケンの体表にある黒い水泡上の液体がウルシンの神経麻痺を起す強い毒を持っているためだった。

4人は、ジオフロントの出入口から、ひょいと顔を出し、周囲の様子を確認した後、背よりも高く伸びたシダの葉に隠れるようにして、しばらく進み、熱帯雨林という表現が最もふさわしい、森の中を抜けて、大きな川に出た。川の向こう岸は見えないほど広い流れである。
アランが言った通り、グロケンが何匹も川の中に浸かったような状態で座っていて、置物のように動かない。
グロケンは、じっと動かない姿勢を保って、自分の近くにやってきた小型の昆虫や魚など、とにかく動くものは長い舌で絡めとって食糧にする。キラたちも近づきすぎると長い舌に巻き取られて呑み込まれる恐れがあった。
キラたちは、グロケンとの距離を保つように、川べりを腰辺りまで水に浸かった状態で、海へ向けて下って行った。


4.潮の香 [AC30第1部グランドジオ]

1時間ほど川べりを下っていくと、潮の香がし始める。ここまで来ると、もうグロケンの姿はない。4人はいったん川から離れ、腰くらいまで伸びた細い萱野原を歩く。突然、視界が開けて、長い砂浜が続く景色が広がった。
砂浜に出て、波打ち際まで4人はゆっくりと進んだ。穏やかな海が広がっている。
長い冬の間、土竜のように地下で暮らす4人を、遮るものが何もない光景は、何か、全てのものから解放されたような気持ちにさせた。臆病者のハンクは、先ほどまで周囲の様子を異常なほどに気にしていたのだが、目の前の光景に一気に気が緩んだようで、『はあ・・・』といって砂浜に座り込んでしまった。
「ハンク、気を付けろ!ブクラが噛みつくぞ!」
そう言ったのは、キラだった。ブクラとは、カニの一種だった。砂の中に身を潜め、刺激を感じると、鋭い爪だけを砂から出して、なに構わず、鋭い爪で挟み、強引に砂の中に引きずり込んでしまう習性がある。
「ヒイ!」
ハンクは飛び上がった。
その直後、予想通り、ブクラの爪が飛び出してくる。
そこをめがけて、アランが背に付けたグラディウス(剣)を素早く投げる。グラディウスが爪を貫くと、爪が二節目で折れて砂浜に転がった。
「よし!これで昼飯が出来たな。」
アランは得意げな表情を浮かべる。ブクラの爪は、裕に50cmほどの大きさがあり、その身は4人では食べきれないほどだった。4人は、萱野原から枯れた葉を集めて火を起こした。
4人は焚火を囲み、ブクラの爪を焼き、硬い殻を割り、身を食べる。
「なあ、ブクラの爪も良いな。・・・さっきみたいに、捕れると良いんだがなあ・・・。」
アランが言うと、ハンクはジロッと睨んだ。
「俺を餌にしようって言うんじゃないだろうな?」
「大丈夫さ、良い方法があるんだよ。」
アランはそう言うと立ちあがって、食べ終えて出た爪の殻を持ち上げ、砂浜に向かって放る。その振動に反応したのか、ガサっという音とともに、ブクラの爪が現れる。
「な?こうやって、砂の上に何でも投げつけてやれば、爪が現れる。そこを一突きすればいいんだ。」
「へえ・・そうか・・・。」
ハンクは爪の身を頬張りながら納得の表情だった。
「だが・・そんなに、都合よく出てくるかな?」
プリムが訝しげに言って、自分が食べていた爪の殻を砂浜に投げる。しばらく待ったが何も起きなかった。
「ほら・・やっぱりな。そんなにたくさんいるわけじゃないだろう。」
そう言われて、アランが残念そうな表情を浮かべる。それを聞いていたキラが言う。
「ちゃんと巣の上に落とさないとダメなんだよ。」
「巣?」
アランが訊く。
「ああ・・よく見れば判る。あいつらは砂の上に小さな触覚を伸ばしているんだ。よく見れば判る。細い糸のようなものが出ているんだ。」
キラに言われて、アランもハンクも、プリムもじっと砂の上を見つめる。最初はなかなか見分けられなかったが、目が慣れてくると、確かに砂の上に、白い糸状のものが少しだけ飛び出しているのが判った。
「あれか?」
ハンクはそう言うと、目の前にあった殻をひょいと投げた。上手い具合に白い触角に触れた。とたんに、太くて黒い爪が飛び出してきて、周囲をぐるぐると旋回し、すぐに引っ込んでしまった。
3人は、顔を見合わせ、深く頷いた。
「よし、ハンク、俺と一緒にブクラ取りをしよう。」
アランが立ちあがり、ハンクの腕を取った。
「気を付けろよ!」
プリムが言う。
「ああ・・じゃあな。」
アランとハンクは、ゆっくりと注意深く、周囲を見乍ら、砂浜を進んでいった。

5.貝集め [AC30第1部グランドジオ]

残ったキラとプリムは、貝を集めることにして、アランたちとは反対側へ歩いた。
砂浜の先に、高い崖が聳えていて、その下辺りは岩礁が広がっている。
「岩の裂け目には気を付けた方が良い。小さいブクラが潜んでいるからな。あいつらは、殻ばかりだから捕まえても仕方ないんだ。それより、爪にやられると体中痺れるからな。」
キラがプリムに言う。
「ああ、判った。で、獲物は?」
「こいつさ。」
キラがそう言って岩の一部にグラディウスを突き立てる。すると、岩の一部が剥がれるようにめくれ上がった。キラがゆっくりとグラディウスを持ち上げると、薄い板状の貝が現れた。
「こいつら、岩と同化しているんだが、こうやって見つけることができる。10枚も取れれば、かなりの量になる。」
キラの言葉を聞いて、プリムも目の前の岩にグラディウスを突き立てた。しかし、カキンと音がしただけで何も起きなかった。「チッ」とプリムが舌打ちをした。
「よく見ると、表面が少しだけ黒っぽくて、何カ所か小さな穴がある。空気を吸う穴らしいんだ。そいつを見つければいいんだ。ビラルって言うらしいんだがな。」
取ろうとしているのは、アワビのような一枚貝の類だった。人の顔ほどの大きさがある。キラはそう言いながら、じっとあたりの岩を睨み付けた。
「ほら、こいつがそうだ!」
そう言って、グラディウスを突き立てると、同じようにめくれ上がってくる。
キラとプリムはしばらくその岩場でビラル取りに熱中した。
太陽が少し傾き始めた頃、それぞれ、猟を終えて、最初に足を踏み入れた場所に戻った。
ハンクとアランは、ブクラの爪を10本ほどを取っていた。キラとプリムも、30枚ほどのビラルを持っている。
背負っているバッグから、大きな網を取り出し、包み込む。網は強い形状記憶合金なのか、一旦広げて、獲物を並べると強い力で締め付け始め、随分と小さく固め上げた。体積が最初の5分の一ほどまで小さくなって、4人はそれぞれに分担して、袋を背負った。
「さあ、今日はこれくらいで帰ろう。日が落ちる前に、戻らなくては。」
「ああ、そうだな。少し急がなきゃ。」

4人は来た道を戻る。
「頭を下げて!」
先頭を歩いていた、キラが身振りを使って皆を制止する。
朝と比べて、萱野原の様子が少し違っている。風になびく萱の向こうに、頭を突き出して動くウルシンの姿が見えた。時々、ウルシンは、立ち止まってはきょろきょろ見回し、また、動き出す。時折、長い鎌を高く翳す。ウルシンが狩りをしている。
4人は暫く萱野原にうつ伏してじっとして、ウルシンが行き過ぎるのを待った。がさがさというウルシンの足音が遠ざかったのを確かめて、ゆっくりと動き出す。

萱野原を抜け、川に辿り着いた。今度は、グロケンが居る。
朝はまだ体温が上がらず、動きもほとんど鈍く、心配なかったが、帰り道は注意が必要だった。陽を浴び体温が上がったグロケンは動きが活発になる。大きくジャンプすれば、すぐに10mは飛んでくる。離れているからと安心はできない。できるだけ気づかれないよう静かに進まなければならない。
帰り道は、川には入れない。水の動きでグロケンは獲物を判断するからだった。
先頭をハンクが歩き、プリム、アラン、最後をキラが歩く。岸辺ギリギリのところをゆっくりと音を立てずに進むしかなかった。
キラとアランは、右手にグラディウスを構えたまま、グロケンの動きに目を光らせながらゆっくりゆっくりと進んだ。

4人がジオフロントの入り口に到達した頃には、もう夕日で周囲が赤く染まる時間だった。
「何とか無事に戻れたな。」
プリムの言葉に、一同はホッとした表情を浮かべた。そして、厚い扉を開き、中に入った。

6.歓喜の声 [AC30第1部グランドジオ]

4人がコムブロックに到着すると、皆がすぐに集まってきた。すでに、ほとんどの若者たちが戻っていた。
「今日は、海まで行ってきました。」
キラがそう言って、網を広がる。中には、ビラルとブクラがたくさん入っている。
「まあ・・こんなにたくさん!」
そう言って、喜びの声を上げたのは、ユウリだった。
ユウリはアランの妹で、小さい頃から、キラたちと共に過ごし、いわば幼馴染である。キラの妹サラや母ネキたちもやってきた。
「ビラルは熱を通して乾燥させれば、長持ちさせることができるし、美味しいのよね。ブクラもこれだけあれば、みんなも喜ぶでしょう。本当にご苦労様ね。海までは遠いんでしょ?無理しないでよ。」
キラの母、ネキは4人を労った。
「ええ・・でも、大丈夫です。みんなで力を合わせて注意していきます。たくさん獲物がいますから、暫くは、同じ場所で取って来ますよ。・・他の皆は?」
キラはそう言うと周囲を見回した。
コムブロックには、キラたちの様に狩猟から戻った若者たちをあちこちで人々が取り囲んでいる。
「きっと、キラたちが一番たくさん採ってきたはずよ。」
ユウリが自分の事のように喜んでいる。
「別に競争しているわけじゃないんだから・・・。」
キラは少し窘めるように言いながら、周囲の様子を確かめている。
「今日は、誰ひとり、怪我もなく戻ってきたよ。」
キラの様子を見て、そう言ったのは、キラの父アルスだった。
「そうですか・・良かった。」
「まだ、暖かくなったばかりだからな・・・これからもっと気温が上がれば虫も増えるだろうから、気を付けねばならないだろう。お前たちも、海まで行くのは危険なことだ。くれぐれも無理するんじゃないぞ。」
「はい。」
キラたちは、サラやユウリたちと一緒に、取ってきた食材をフードブロックへ運び始めた。
食事はすべてフードブロックで調理される。
調理の作業は、一族全員で分担する。男も女も関係ない。今日集められた食材は、今日の分を除いて長期保存の作業が進められる。フードブロックには、巨大な冷凍乾燥機や冷凍庫などが設えられていて、これまでに集めたものもすべてここに保管されていた。

ジオフロントには巨大なエナジーシステムがあり、地下空間の空調から照明、機器の電力を担っていた。しかし、それ自体は、本来の機能の100分の1ほどの、いわば緊急システムが稼働している状態だった。隕石落下・地殻変動から200年近くは当初の設計通り、ジオフロント全体が稼働できるほどのエナジーを供給できていた。しかし、次第に主力が低下した。この先、どれほど維持できるか判らない状態で、今はライフエリアだけが稼働できていた。

その日は、久しぶりの新鮮な食材で、豊かな食事が並べられた。
「ねえ、キラ。海ってどんなところ?」
ブクラの身を口いっぱい頬張った状態で、ユウリが尋ねる。隣に座ったサラも目を輝かせてキラを見た。
狩猟に出かける者以外は、ほとんど一生、このジオフロントから出ることはなく、まだ幼いユウリやサラたちは興味津々だった。
「どんなところって・・ビジョンで見たことあるだろ?・・白い砂浜がずっと広がっていて、波が打ち寄せていて、静かなところさ。頭の上には青い空が広がっていて、真っ白い雲も浮かんでいる。・・・。」
隣のサラが訊いた。
「怖くないの?」
ほとんどの子どもたちは、外界は恐ろしい所だと教えられて育ってきた。確かに、ウルシンのような凶暴な虫たちがいる外界は恐ろしいところだった。真夏と真冬は、僅かな時間で命を落としてしまう。ジオフロントに居る限り、恐ろしい目に遭う事はなかった。だからこそ、子どもたちが外界に興味を持ち、安易に出て行かないよう、外界は恐ろしい所だと教えられているのだ。

7.猟の代償 [AC30第1部グランドジオ]

「いや・・怖い処さ。油断をすれば命を落とす。このブクラだって、砂の中に隠れていて、鋭い爪で捕まえ食べてしまうんだ。もっとたくさん、そうした恐ろしい奴らがたくさんいる。」
サラは、たくさん並んだ食材を前にして、思わず手が停まってしまった。
「そんな恐ろしいブクラをどうやって捕まえたの?」
「ブクラを捕まえたのは、ハンクとアランさ。砂から飛び出してくる爪にグラディウスを突き立てるんだ。アランは狩猟の名人だ。」
キラが言うと少し離れた席に居たアランが、サラに向かって手を振って言った。
「どうだい?美味いだろ!」
「ええ・・。」
サラが少しだけ笑顔を見せて返事をする。
「明日も海へ行ってくるよ。大丈夫。グロケンとの付き合い方もわかってきたから、心配ないさ。」
キラは目の前のブクラの爪肉を掴むと豪快に噛みついた。

翌日から20日ほど、4人は海へ通い、たくさんの獲物を取ってきた。
キラたちの様子を知り、他の若者たちの中にも、海へ向かった者もいたが、余りの道のりの遠さに、辟易として、結局、続かなかった。

「キラ、あの空。」
アランがブクラの爪を抱えて引き揚げ乍ら、空を指さした。見上げると、真っ黒い雲が南の海から徐々に近づいているようだった。
「もう、そろそろ無理だな。」
キラが呟く。
「ああ・・あいつが来たらもうここまでは来れないな。」
プリムも残念そうにつぶやく。
4人は急いで帰り支度を始めた。川を上り、入口に辿り着くころには、頭上には黒い雲が覆うように広がり、ぽつぽつと雨が降り出してきた。
「なんとか、間に合ったな。」
ハンクはそう言うと、入口の扉に手をかけた。ヌルッとした感触があった。
「おや?」
「どうしたんだ?」
「これ・・何だろ?」
ハンクが、手のひらを広げて見せた。
ハンクが広げて見せた手は真っ赤に染まっている。
「それ・・血じゃないか?・・怪我したのか?」
プリムが確かめるようにハンクを見た。
「馬鹿言え、俺はどこも怪我してないぞ・・・。」
キラはすぐに気付いた。
「誰か、他のやつがけがをしたんだろう。急ごう。」
4人は急いで扉を開け、中に入る。
次の扉にも、血糊がべったりと付いている。幾つもある扉のことごとくに真っ赤な血が付いている。さらに、最後のチャンバーには大きな地の塊もあった。
急いで、螺旋階段を駆け下りて、コムブロックへ向かった。
コムブロックには、ベッドを囲むように、ひとが集まっている。年老いた女性がベッドに縋り付いて泣いている。すぐ脇に、アルスとネキが居るのが見えた。
「どうしたんです?」
人なみを分け入って、キラはアルスの傍までたどり着くと、二人に訊いた。
「ウルシンにやられたようだ。」
ベッドに横たわる若者は、息絶え絶えの状態だった。若者は、肩から背中にかけて切られた傷があり、まだ血が流れ出している。

8.治療 [AC30第1部グランドジオ]

「すぐにホスピタルブロックへ運んで!」
人垣を掻き分けて現れたのは、ガウラという女性だった。ガウラは、このジオフロント唯一の医師である。ガウラはキラよりも一回りほど年上だった。代々、ジオフロントの中にあるホスピタルブロックを守る役割を担っている。ガウラの父はすでに他界し、若いガウラが跡を継いだのだった。
「キラ、手伝って!」
キラの父がウルシンに襲われた時、まだ幼かったキラが何も怖気づくことなく、ずっと父に寄り添い、ガウラの治療を手伝って以来、ガウラはキラを助手と決めていた。
ホスピタルブロックは、収蔵庫の一つで、先人類が遺した医療用スペースで、高度な医療器具や薬品があった。だが、医療技術は伝わらなかった。ガウラも、僅かに伝えられた技術だけで何とか皆の役に立つ程度だった。
大きなドアを開けると、中の照明が一斉に点灯した。大きな病院のように、ブロックの中には幾つものベッドが並んでいる。壁の両側には、大量の医薬品が入る棚がある。中央には、白い治療台があった。
「さあ、ここへ。上を向くように寝かせて。」
ライトが強く照らされる。ガウラは、治療台の隣にある、器具のスイッチを入れる。それは、中央にモニタービジョンがあり、そこから腕のように飛び出した棒の先に、銀色の丸い突起物が付いている。ガウラはその棒状の腕を持つと、若者の傷口へ近づける。二本の棒が近づくと、プラズマのような光が発する。モニタービジョンを覗き込み、その棒を何度も何度も傷口へ近づける。時々、パチパチと何かが弾けるような音がする。
「これで良いわ・・。」
ほんの10分程度だった。若者の傷口はすっかり塞がり、出血もなかった。見守っていた人々は、安堵の溜息を漏らす。
「随分、出血があったみたいね・・・キラ、次は何かしら?」
「造血剤を打たないと・・。」
「そう、正解。じゃあ、持ってきてくれる?」
「はい。」
キラはそう言うと、医薬品が積まれた棚の方へ行き、手に小さなカプセルを持ってやってきた。
「じゃあ、投与して。」
キラは手際よく造血剤を横たわる若者の傷痕に打つ。
「じゃあ、彼をセルに連れて行ってあげてね。ウオーターベッドで静かに休ませてあげてください。そして、目が覚めたら、痛み止めを飲ませてね。きっと元気になるわよ。」
ガウラの言葉に反応するように、外で見守っていた人たちが入ってきて、若者を運び出していった。
「やっぱり、キラは物覚えが良いわ。ねえ、ここで私の役目を継いでくれいないかしら?」
いつも治療が終わるとガウラがキラに向かって言うセリフだった。キラはいつも聞いていないような表情を浮かべて、そっと頭を下げて、ホスピタルブロックを出て行くのだった。
外に出ると、キラの母ネキが、一人の女性に寄り添っている。その女性はじっと蹲り悲しみを耐えているようだった。そこへ二人の若者がやってきて、その女性の前で土下座をするような格好で蹲った。
「ごめんなさい・・本当に・・ごめんなさい・・。」
「もっと周囲に気を配っていたらこんな事には・・本当にすみませんでした・・・。」
キラが出てきたことに気付いたネキが、キラを見て首を横に振り、立ち去るように目でそっと合図する。

ライフツリーに戻ると、セルへ上る階段の下で、父アルスが待っていた。
「草むらで、芽を摘んでいた時、ウルシンと出くわしたそうだ。一人が、グラディウスで立ち向かったが、鎌で首を切られ絶命した。それを助けようとした、もう一人が背中を切られたようだ。」
アルスは、自分が襲われた時の事を思い出すかのように呟く。
「・・・・」
キラは何も言えなかった。
「この時期のウルシンは、長雨に備えて腹いっぱいになろうと必死だからな・・。運が悪かったんだ・・。」
アルスは、そう言うと、自分のセルへ入った。
毎年、何人かの若者が狩猟の最中に命を落とす。
それでも、短い季節の間に、地表へ出て食糧を手に入れるほかなかった。そうやって、人類は生き延びてきたのだった。


9.フェリクスの実 [AC30第1部グランドジオ]

翌日からは、もう狩猟には出かけられなかった。
季節が移り始めたのだ。
昨日見た真っ黒い雲こそ、灼熱の季節の前触れであり、これから1ヶ月近く、豪雨が続く。尋常な量ではない。ジオフロントの地上への出入口あたりはすっかり沼となり、扉を開ける事もできないほど水の底に沈む。それと同時に、凄まじい落雷が昼夜を問わず続くのである。そして、その雨が上がる事には外気温が60℃近くまで上昇する。グロケンたちはじっと水の中に身を潜め、ウルシンも、水のない高地へ移動し、じっと地面深く潜って過ごす。生きものすべてがじっと息を殺して灼熱の季節をやり過ごすのである。

灼熱の季節は2か月ほど続く。
その灼熱に耐えられるサボテンに似た植物だけが地上を支配できる季節である。
その中でも、彼らがフェリクスの樹と呼ぶ、最も大きなサボテンは、地上10メートルまで一気に成長するのである。そして、灼熱の季節の中で実をつける。
灼熱の季節が終わりを告げる頃には、その実は、直径10センチほどの大きさに育つのである。
その実は、硬い表皮に覆われているが、割ると、中はみずみずしい真っ赤な果肉が詰まっている。
果肉は、途轍もなく甘く、一口で十分満足できた。また、硬い表皮を潰し、粉にすると芳しい香りを放つ。その魅力は、ジオフロントの全ての人間にとって何物にも代えがたい至福の喜びに違いなかった。
豪雨と灼熱の3か月間、じっとジオフロントの中で息を殺して暮らすことになるのだが、その期間は、だれもがこのフェリクスの樹の事を考えているのであった。

いよいよ、灼熱の季節が終わる頃になった。キラたちはいつもの仲間たちで地表に出た。
「さあ、あの実を見つけよう。」
ハンクが威勢よく言った。
「ああ、みんな、楽しみに、待ってるからな。」
そう言うハンクもうきうきとした表情を浮かべている。だが、アランとキラは浮かぬ顔だった。実が見つかれば確かに皆喜ぶだろう。だが、その実を見つけるには、背の低い草原に行かなければならないからだ。フェリクスの樹は、周囲に高い草が生えていない砂漠の様な場所を好んだ。その上に、10mもの高さに伸びている。サボテンの様な棘のある樹を昇り、実を切り落とす作業が必要なのだ。ウルシンたちに見つかる危険もあった。
4人は、背丈まで伸びている草叢をまっすぐ西へ向かった。徐々に草丈が低くなり、草叢が薄くなってくる。
「おい、あったぞ!」
ハンクが指差した。少し先に、フェリクスの樹が何本も生えているのが見えた。
既に、他のグループが先に向かっている。できるだけ、ウルシンたちに見つからないよう、地面に張り付くようにしてゆっくりと進んでいる。
「さあ、俺たちも行こう。」
プリムが言うと、キラが「ちょっと待て」と言った。キラが、じっと周囲を見回す。周囲の草むらにウルシンが潜んでいないかを確かめているのだった。しかし、ウルシンは緑の体をしていて、草叢に潜んでいるとほとんど見分けがつかない。それでもキラはじっとウルシンの姿を探した。アランもじっと草むらに視線を遣る。
いつもは、怖がりだったはずのハンクは、フェリクスの事を考えると恐怖も吹き飛んでしまうのか、キラが止めるのを待っていられない。
「大丈夫さ、さあ、行こう。」
ハンクがそう言って、草叢から顔をのぞかせた時だった。
前を行く他のグループの男たちが急に立ち上がって、慌てて走り出した。10人ほどが一目散に駆け出し、キラたちの隠れている草叢の方へやってくる。
「ウルシンか?」
走ってくる男たちの後ろで、バリバリという激しい音がしたと思うと、フェリクスの樹がキラたちの方に向かって勢いよく倒れてきた。ドスンという音とともに、フィリクスの実が樹から離れて転がった。
ハンクは、急いで、転がる実を集める。プリムもアランも、持てるだけの実を拾い集める。草むらに逃げ込んできた他のグループの男たちも、転がる実を集めた。
キラは、グラディウスを手に構えて、じっと様子を伺っていた。

10.命からがら [AC30第1部グランドジオ]

フィリクスの樹が倒れた後には、2体のウルシンが、威嚇しあいながら、鎌状の両手を鋭く振りまわして対峙していたのだった。
長い夏季で飢えているウルシンは、凶暴で見境がない。食糧になるものなら、同類さえも襲う。もはや、そこにいる人間など目に入っていない。
「今のうちに、早く逃げよう。」
キラは、フィリクスのみを集めるのに必死になっているハンクたちに声を掛ける。
「ああ・・だが・・まだ・・。」
10mを超える大木が何本も切り倒されたのだ。鈴なりの実がまだまだ周囲に転がっている。
「早くしないと、ホルミカたちがやってくるぞ!」
キラが厳しく言う。ホルミカとは、体長50CM程度の虫で、蟻が巨大化したものだった。
フィリクスの実は、ホルミカたちも好物であった。本来、熟しきって地面に落ちた実に集まる習性があった。通常なら人間を襲う事はないが、フィリクスの実を持っていれば別だ。実を奪おうと、大きく伸びた顎で噛みつく。顎には弱い毒液を持っており、噛みつかれると全身が麻痺してしまう。しばらく動けない状態になる程度だが、そこに別の虫が現れれば、命を落としてしまう。
ホルミカ1匹に見つかれば、すぐに群れとなって次々にやってくる。
「さあ、急ごう。」
4人は、一目散にジオフロントへ向かった。
「うわあ!」
草叢を走り続けていると、急にプリムが転がった。足元にフィリクスの実が転がる。
キラが予想した通り、ホルミカが一匹、目の前に現れたのだった。
「まずいな!」
キラがすぐにグラディウスを抜き、構える。キラの声に、三人は立ち止まったままだった。
「先に行け!大丈夫だ!」
キラはアランに視線を送る。アランはこくりと頷く。
「さあ、行くぞ!」
ハンクとプリム、アランが草叢に身を隠しながら、一目散にジオフロントの入り口に向かった。
命からがら、フロントの入り口に辿り着く。ジオフロントの入り口の脇に、腰を下ろす。
「キラ、大丈夫かな?」
ハンクが心配顔で、アランに訊く。
「大丈夫さ。あいつ、今までも何度もウルシンやホルミカを相手にしてきたんだ。俺も何度か救われたことがあった。」
経験の短い、ハンクやプリムにとっては、巨大な虫と戦うなど想像もできない事だった。
ゆっくりと日暮れが近づいている。じっと入口で待っている3人には、途轍もなく長い時間のような気がしていた。
「すまない、ちょっと、手間取った。」
そう言ってキラが戻ってきた。手には、三つほどのホルミカの蜜袋を持っている。ホルミカは、大量の蜜を貯めることができる袋を体に持っており、キラはそれを獲ってきたのだった。
入口のドアを開け、チャンバーに入ると、すぐにハンクが訊いた。
「どんなふうにやっつけたんだ?」
階段を下りながら、キラが言う。
「最初のホルミカは、グラディウスで突き刺した。その時、尻にある蜜袋を狙うんだ。蜜袋が破れてしまうと、仲間のアトリムたちは、その蜜に集まるのさ。もう、人間なんて関係ない。われ先にと蜜を吸いに来る。あいつら、蜜を吸う時は無防備になる。あとは、後ろから一突きして、こうやって、蜜袋をいただくのさ。」
キラが言うと、プリムもハンクも感心した表情を見せる。
「だが、注意しないとなあ。尻の蜜袋はおそろしく硬い。だが、一カ所だけやわらかい所がある。そこに命中させないと、意味がない。前に一度、痛い目に遭ったよ。」
アランが付け加える。
その日は、ジオフロントは、お祭りのような騒ぎになった。
待望のフィリクスの実とホルミカの蜜袋が手に入ったからに他ならない。戻ってきた男たちはほとんどがフィリクスの実を抱え、その数は一族全員に配っても余るほどだった。これほどの収穫はここ数年なかったことだった。

11.不気味なグロケンの集団 [AC30第1部グランドジオ]

翌日も同じ場所に向かった。しかし、そこにはもはやフィリクスの実は一つも落ちていなかった。ホルミカたちがすべて持ち去ったあとだった。
「やっぱり・・もう何にもないなあ・・・。」
がっかりした表情でハンクが言う。
「せめて、フィリクスの樹を持って帰ろう。」
そう言うと、キラはグラディウスを使って、倒れたフィリクスの樹を切り始めた。
フィリクスの樹はサボテンの様なもので、枝状に伸びた部分を切ると、中からねっとりとした樹液が滲み出てくる。ちょっと舐めると、それは実と同様に甘かった。
4人は暫く黙々と枝を切り、ネットに詰め込んだ。フィリクスの樹は長期保存ができる。硬い皮を剥き、中の透明で柔らかい部分は実と同様にちょっとしたデザートにもなるものだった。だが、フィリクスの実には適わない。
4人は背負えるだけの枝をもって、ジオフロントに戻った。
それから、数日、同じ作業を続けた。
「なあ・・そろそろ、他の場所へ行ってみないか?・・どこかに、まだ、実がついている樹があるんじゃないかな?」
ハンクはどうしても、フィリクスの実が諦めきれない様子だった。
「他の場所って言ってもなあ。」
プリムが言う。アランも、作業の手を止めて、ハンクを見る。
アランは、もう7年も猟に出ていて、ジオフロントの周囲の様子は熟知しているが、フィリクスの実が取れる場所は、ここの他には、思いつかなかった。
「じゃあ、明日は、また、あの海に行ってみるか?」
キラが言った。
「え?」三人が同時に反応した。
「前に言った時、砂浜の近くに、広い荒地があったんだ・・・ひょっとしたら、あそこならフィリクスがあるかも・・。」
その言葉ですぐに決まった。

翌日は、少し早目にジオフロントを出た。
四人は、グロケンの潜む川沿いを急いで下っていく。前は、恐怖が先に立ってみんなの一番後ろを歩いていたハンクが、今回は先頭を歩いている。
「気を付けろよ、この時期のグロケンは、凶暴なんだ。油断するなよ。」
キラが声を掛ける。
「大丈夫さ!」
そう答えたハンクがつい油断して、石に躓いて転んだ。拍子で、小さな石が川の方へ飛んだ。
「バチャン!」
その音と同時に、川の中央あたりが俄かに騒がしくなった。それまで静かだった川縁に、何度も波が寄せるようになる。
「いかん、グロケンがこっちへ向かってくる!」
キラがそう言うと、すぐにみんなが川岸から土手へ上がった。そして、萱野原の中にじっと身を潜めた。
川縁の波が徐々に大きくなると、水中から黒い塊が顔を出す。大きなグロケンだった。それも一匹だけでなかった。
「動くなよ。」
キラが小さな声をみんなに言った。
川縁には、数十匹のグロケンが現れた。そして、四つん這いの格好でじっと、萱野原の方を見ている。グロケンは余り視力は良くない。むしろ、粘着性のある肌で空気の流れを感じ、獲物を見つけるのだ。だから、じっと動かなければ見つかることはない。時折、何匹かのグロケンが、何かを感じたのか、あらぬ方向へ長い舌を伸ばすしぐさを見せたが、徐々に、また川の中へ戻って行った。全てのグロケンの姿がなくなるまで、キラたちはじっと草むらに這いつくばったままでいた。一匹くらいなら、戦って勝つこともできるだろうが、あれだけの数となれば勝ち目はない。とにかく、いなくなるのを待つしかなかった。
「もう良いだろう。」
キラは、そっと立ち上がり、川べりの様子を探った後、言った。
「急ごう。時間を食った。」
そこからは、キラが先頭になって、海へ向かった。

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