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AC30第2部カルディアストーン ブログトップ
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1.旅立ちの日 [AC30第2部カルディアストーン]

いよいよ旅立ちの日を迎えた。
ライフエリアのほとんどの人がコムブロックに集まっていて、ビジョンにはクライブント導師も現れている。
キラとアランは、背中に大きめのリュックを背負っている。中には、武器や食料が入っている。手には、アラミーラとグラディウスを持っていた。PCXはボール状のままで、宙に浮いていた。
「まずは、北へ向かいます。灼熱の季節が終わるころには、戻ってきます。」
キラが集まった人々に力強く言った。
「キラ、気を付けてね。」
あの日からキラの母ネキは、余りの出来事に心を痛め、寝込んでしまっていたのだが、旅立ちの日には、サラの力を借りてコムブロックに顔を見せていた。随分窶れている。
アランは父も母も早くに亡くしていて、妹のユウリが見送った。
「大丈夫さ、ちゃんとカルディアストーンを持ち帰ってくるから。」
不安げなユウリを前に、アランが笑顔で答え、頭を撫でた。
『勇者たちよ。幸運を祈る。』
クライブント導師の太い声がライフエリアに響いた。キラとアランは、アラミーラに乗り、すーっと浮き上がると一気に地表への階段へ向かった。PCXは二人の後を追うように飛んで行った。
ホスピタルブロックの前で、フローラとガウラが見送る。
「ちゃんと戻って来いよ!待ってるぞ!」
すごいスピードで遠ざかる二人に、ハンクとプリムが叫ぶ。

アラミーラは二人が当初考えていたよりもずっと早い速度で進む。いつもなら1時間近く掛かって登る階段も、あっという間に飛び越えて、出口につながるチャンバーに着いた。
「これなら、すぐにジオフロントを見つけることができるさ。」
アランは上機嫌だった。
最後のチャンバーのドアを開く。地表はようやく雪解けが始まったころで、早朝の外気温は0℃程だった。
まだ、虫たちは土の中にもぐったままだった。
「さあ、どうする?」
上機嫌のアランは、軽くキラの肩を叩いて言った。
「一旦、南へ向かおう。まだ雪解けが始まったばかりだ。暑くなるまでは大丈夫だろう。それから徐々に北へ行けばいいだろう?」
「それは良いが・・・ジオフロントをどうやって探す?ここだって、入口は草むらの中で、虫たちに見つからないように隠されてるんだ。他も同じようなもんだろう?」
確かに、目視で発見できるとは限らなかった。
「海はどうかな?食料の調達には便利だから、もしも人が生きてるなら、何か痕跡があるだろう?」とキラが言った。
「まあ、何にしても決め手はないんだ。とにかく、海岸に沿って南へ下ってみるか?」
アランはそう言うと、アラミーラに乗り一気に上昇していった。
「PCX、ついて来れるか?」
キラが言う前に、PCXはアランと同じほどのスピードで上昇していった。キラも慌ててアラミーラに乗り高く飛び上がった。
遥か眼下に、太陽の光を反射して輝く海原が見えた。風は冷たいが、ライブスーツが身を守ってくれている。勇者たちは、海岸へまっすぐに向って行く。
「PCX、俺たちのジオフロントの場所はすぐに判るんだよな?」
風を切りながらアランが問う。
「ええ・・フローラ様の位置はどれほど離れても必ず判ります。フローラ様がジオフロントにいらっしゃる限り、私は戻ることができます。」
PCXは、アラミーラの様な、細い楕円の円盤状に変形していた。
「このあたりで、ライブカプセルに入ったフローラを見つけたんだったな。」
海岸を見ながらアランが言う。少し風が強いのか、岩礁には高い波が寄せていた。

2.地表の世界 [AC30第2部カルディアストーン]

ジオフロントを飛び立ってから、しばらくすると二人とも、言葉を交わすことなく、周囲の様子を探りながら無心に飛び続けた。
「そろそろ休憩しましょう。もう4時間近く飛び続けています。」
PCXが、二人を気遣うように言った。
「そうか・・・そうしよう。」
キラはそう答えると周囲を見回し、安全そうな場所を探した。
「前方の高台が良いでしょう。レーダー探索では・・虫たちは居ないようです。」
PCXは、レーダーシステムで周囲の生命体反応を見てから、二人に言った。
ゆっくりと高台に降り立った。周囲はうっそうとシダ類が茂っている、半湿地帯のようだった。降り立った高台は、大きな岩石のようだった。
「ああ・・さすがに・・疲れたな・・・」
アランは地面に降り立つと同時そう言って、ごろりと横になった。キラもさすがに疲れて座り込んだ。PCXはゆっくりと降りてきて、二人を包むように幕の形に変形し、周囲の植物に似せた濃い緑色に変色した。風を遮り、周囲からも気づかれることはない。
「ジオフロントからどれくらいの距離なんだろうな?」
仰向けになって空を見ているアランが呟いた。すぐにPCXが答える。
「300kmほど南東の位置に居ます。・・現在、周囲50kmの範囲では、人間の生命反応はありません。」
「まあ・・そんなもんかね・・・PCXが居れば、すぐにジオフロントは見つかりそうだな。」
アランはそう言うと大あくびをした。その様子を見て、キラが言った。
「PCX、少し休ませてもらうよ。」
二人はPCXに守られるようにして、しばらく眠った。
「起きてください。・・巨大な虫が近づいています。・・」
静寂を破って、突然PCXが二人を起こした。
二人はハッと飛び起きて、すぐにグラディウスを構えた。
「どこだ?」
キラが訊くと、
「1kmほど東から、こちらに近づいてきます。」
「1km?・・おい、PCX、いい加減にしろよ。そんなの近づいているって言わないだろ?」
「いえ、恐ろしく大きくて、ものすごいスピードです。ここに到達するまで1分以内です。」
そう言っているうちに、二人にも、空を飛んでくる巨大な虫の姿が見えた。
ジオフロント周辺では見たこともない姿だった。細長い胴体に薄い羽根を4枚、ピンと広げている。巨大な目と、大きな牙をもった顎が特徴的だった。
「あれは昔、トンボと呼ばれた虫でしょう。異常な進化をしています。危険です。」
PCXはそう言うと、幕の形から二人を覆うシェルターの形に変形した。その虫は、シェルターを掠めるように飛んだ。明らかに獲物と認識して、狙っているようだった。
「戻って来ます。伏せてください。」
PCXはさらに低く小さく縮み、二人の体を地面に抑え込むようにした。再び、その虫はすぐ上を掠めて飛んだ。
「このままじゃ、ダメだ!・・何か武器を・・・リュックサックの中に・・・確か・・・。」
うつ伏せのまま、アランがもぞもぞの何かを取り出そうとしている。
「アラン様、カニオンで撃ち落としましょう。さあ、カニオンの発射口を真上に立ててください。上空を掠めると同時に、そこを開きます。タイミングを合わせて撃ち落としてください。」
PCXは落ち着いた口調でアランに言った。
「ああ・・・判った・・。」
言われた通りに、アランはカニオンの発射口を真上に向け、合図を待った。虫は、大きく旋回して様子を伺ったあと、再び、恐ろしいスピードで近づいてくる。次は確実に仕留めようという様子だった。
「良いですか・・・3・・2・・1・・発射!」
PCXのカウントに合わせて、アランがボタンを押す。絶妙なタイミングでシェルターの上部が開き、レーザー光線が発射される。真上を掠めた虫は、一瞬でバラバラに吹き飛んでしまった。威力は絶大だった。

3.驚くべき虫たち [AC30第2部カルディアストーン]

上空高く吹き飛ばされた虫の死骸は、二人の上にばらばらと落ちてきた。PCXがシェルターとなって防いでくれる。
目玉の部分だけでも1m程度あり、ドスンと鈍い音を立てて地面に落下してきた。胴体は細長く、軽いようだった。一番最後に、透明の薄い羽根がひらひらと落ちてきた。
シェルターが開き、落ちている虫の死骸を見て、二人は改めて驚きと恐怖を感じていた。もしも、アラミーラで空を飛んでいる時だったら、ひとたまりもなかっただろう。暫く二人は茫然としていた。
「日暮れまであと2時間です。今日はもうここで休みましょう。しばらくは、虫たちも寄っては来ないようですから。」
二人の様子を察知して、PCXが提案する。
「ああ・・そうだな・・その方が良さそうだ。」
キラが答えると、アランが言った。
「じゃあ、食糧を探して来よう。何か、樹の実でもあればいいんだが・・・。」
「それなら、僕は、休めるような場所を作っておこう。PCX、君はアランと一緒に行ってくれ。」
キラが言う。アランは、グラディウスを持って、PCXとともに、高台から下の湿地帯へ降りて行った。
キラは、地面を掘り、二人が横になれる場所を作った。出来上がる頃に、アランとPCXが戻ってきた。
「小さいが、旨そうな樹の実がたくさんあった。今日はこれで良いだろう?」
アランは袋一杯に、赤い実を持って帰ってきた。
「毒性はありませんでした。栄養価はそれほどありませんが、空腹は満たせるでしょう。」
PCXはすでに実の成分を分析していた。二人は満腹になるまで樹の実を食べたあと、キラの掘った穴に身を横たえた。その上をPCXが蓋をするように覆いとなり、冷気を防いだ。二人とも昼間、長時間飛行したためか、すぐに眠りに落ちた。アンドロイドのPCXには眠りは必要ない。夜中じゅう、周囲の様子を監視し、二人を守った。

翌朝、二人が目覚めると、昨日放置していた虫の死骸が無くなっているのに気付いた。
「体長20cmほどの虫が多数やってきて、夜のうちに、死骸をどこかに運んでいきました。ホルミカの一種でしょう。特に、危害を加える様子はなかったので、そのままにしておきました。」
PCXが話した。
昨日の樹の実の残りを朝食に摂り、すぐに出発の準備をした。虫に襲われる事を想定して、アランは小型のカニオンを肩に装着した。キラはスクロペラムを腰につけた。
「大丈夫です。現在、5km周囲に虫は居ません。行きましょう。」
昨日と同様にキラとアランはPCXとともにアラミーラで空を飛んだ。
「キラ、海岸沿いに行こう。」
アランが先導した。
海と陸地の境界線は、ずっと南東方向へ伸びている。前方には、積乱雲が大きく空高く成長している。
徐々に気温が上昇してきた。
砂浜や岩礁が互い違いに続く海岸、そこから2kmほど陸地側には豊かな森が続いている。その先には高い火山が連なっていて、山頂付近には白い雪さえも見える。
「生命体の反応はありますが・・虫の類のようです。」
PCXは5kmほど進むたびに、同じように報告を続けた。
その日から、しばらくは、海岸沿いを飛んで南東方向を目指した。
夜は海岸の砂地や高台で同じように穴を掘り休む。外気温はすでに日中は40℃を超えるほどになった。
幾度か、虫の襲来があった。
先日の巨大なトンボだけでなかった。カブトムシのような甲虫たちもいる。どれも巨大化し、肉食種に変わっている。
だが、その度に、アランが肩に装着したカニオンを器用に使って撃ち落とした。カニオンの威力は絶大だった。
アランはカニオンを完全にマスターし、躊躇なくトリガーを引き虫たちを撃ち落す。そのうちに、アランは、PCXが報告するのを待つ間もなく、虫を発見すると狙うようになった。
そのために、食糧も、ほとんど困る事もなく調達できた。
キラは、そんなアランを見ていて、不安を覚えるようになっていた。防御の為ではなく、自らの満足のために、虫たちを殺しているように感じられたからだった。

4.アントリアン [AC30第2部カルディアストーン]

すでに、1ヶ月が過ぎ。五千キロほど移動していた。しかし、肝心の「ジオフロント」を見つけることはできなかった。
いつものように、日暮れ近くになり休む場所を探した。
そのころには、海岸沿いの風景も随分と変わってしまっていた。知らぬ間に、植物は少なくなり、背の低い草がところどころ片間って生えているような荒涼とした地帯になっていた。
「じゃあ、食糧を調達に行ってくる。」
アランは、PCXとともに出かけた。
砂地が随分内陸にまで広がっている。アランは地面すれすれの高さでアラミーラを飛ばし、食糧になりそうなものを探した。最初のころは、植物の実が多かったが、近ごろには虫を中心に獲るようになっていた。
「こんな時に、ドラコでも現れれば、都合が良いんだがな・・・」
アランはすっかり虫たちを攻撃することに慣れていた。時折、目の前で木端微塵に砕け散る虫を見て、快感すら感じるほどになっていた。
アランは、周囲の様子を注意深く観察しながら、ゆっくりと飛んでいる。どこにも隠れるような場所がない低地、虫の姿はなかった。
「獲物は居そうにないか!」
そう呟いた時だった。
いきなり、地面から、黒く鋭い角のようなものが何かが飛び出してきた。
アランは足元を掬われた格好になり、アラミーラが外れ、吹き飛ばされてしまった。何度か地面に叩きつけられ、停まったところに、再び、地面から同じように黒い鋭利な塊が突き出してくる。
アランは必死に身をかわす。4度ほど、攻撃されたが何とか凌いだ。
近くを飛んでいたはずのPCXの姿はなかった。
「なんだ、一体!・・土の中に何かいる・・何だ?・・ブクラか?」
アランは低い姿勢でゆっくりと周囲を探る。ブクラならば、振動に反応するはずだった。
アランは、そっと近くに落ちていた石を拾い上げる。そして、カニオンの照準を確かめてから、そっと石を投げた。
「コツン」と石が地面に落ちた。
「さあ、出て来い!」
アランは待ち構えた。だが、何の反応もなかった。
「アラン様!後ろ!」
どこからかPCXの声が響いた。
振り返ると、2本の大きな牙状のものが、アランに狙いを定めている。はるか頭上高くに牙が持ち上がる。次の瞬間、アランを突き刺そうと凄まじいスピードで迫ってくる。
狙いを定めている時間などない、闇雲にカニオンのトリガーを引く。2発は外れた。1発は鋭い牙に命中したが、少し傷をつける程度だった。4発目は地面辺りに当った。すると鋭い牙はアランの横に轟音と共に崩れ落ち、静かになった。
PCXがようやくアランの傍にやってきていった。
「こいつは、きっとアントリアンという虫です。地面に潜っていて、近くに餌が寄ってくると飛び出して捕えるのです。」
「アントリアン?」
「アリジゴクの事です。」
「こんなのが地面の中にいるのか・・・。」
アランは周囲を見回した。
「ここは、アントリアンの巣でしょう。・・先ほど気づいたのですが、辺りに見える草むらは、カモフラージュです。アントリアンの胴体の一部のようです。・・早く、引き上げた方が良いでしょう。」
PCXはそう言うと、飛ばされたはずのアラミーラをアランの前に差し出した。
アランはすぐに装着すると、一度高く飛び上がった。
鋭い牙をもったアントリアンの死骸を見下ろすと、その周囲の草むらが動き始めるのが見えた。そして、横たわる死骸に、同じような牙がいくつも突出し、食べ始めた。共食いだった。
「これじゃ、食糧調達どころじゃないな・・。」
アランはがっかりした表情で見下ろしている。
「キラ様が心配です。すぐに戻りましょう。」

5.水の調達 [AC30第2部カルディアストーン]

アランとPCXがキラの元に戻ると、キラは火を起こしていた。
「無事だったか?」
戻るや否や、アランが言った。
「ああ・・特に何も・・ああ、そうだ。この辺りに水源がなかったから、海へ行ったんだ。そこで、ブクラの爪を取ってきておいた。さあ、今日はこれが夕食だ。」
キラが言った。
「ブクラを獲ったのか?」
「ああ」
キラは事もなげに答える。

キラの家族は、アクア一族といい、ジオフロントで水管理の役割を持っている。
生きていくうえで最も重要な水を確保する役割を代々担ってきた。ライフエリアの中には水を貯蔵する設備はあるが、水脈などない。灼熱の季節の前、集中して降る雨水を、チェンバーの中に貯め、浄水したものをライフエリアまで引いていた。その設備の管理をしているのだった。水が不足する事はなかったが、年によっては、豪雨となって土砂が大量に混じる事がある。水質の点検も重要な仕事だった。

「出発する時、父がこれをくれたんだ。」
手のひらに乗せた小さな装置は、浄水器の類だった。
どれほど汚染された水でもこれを使えば、真水にできる。海水も真水にできる代物だった。
「水を作りに海岸に出たら、ブクラの巣を見つけたんだよ。二つほど獲れば充分だろ?」
火の前には、頭ほどの大きさのブクラの爪が二つ並んでいる。
「久しぶりのまともな食事だな。」
そう言って、アランは火の通ったブクラの爪を取り上げると、むしゃぶりついた。
「アランはどうだった?」
キラも、ブクラの爪を食べながら訊く。
「しばらく飛んでみたが、荒地ばっかりさ。木の実なんてどこにもなかったんだ。」
「食料になりそうな虫もいなかったか?」
「いや・・居たよ。途轍もなくでかい奴が・・だが、とても食えそうな感じはしなかったから、カニオンで吹き飛ばしてやったよ。・・きっと、この近くにもいるかもしれない。」
それを聞いて、PCXが言った。
「アントリアンという虫です。土の中に潜んでいて、近づく獲物を鋭い牙で捕えて食べます。」
PCXは、それ以上は言わなかった。
「草のカモフラージュをしてるんだ。見た目に美味そうじゃなかったしな。」
キラは、その虫に襲われたことは言わなかった。
その夜、アランはなかなか寝付けなかった。今でも、襲われた時の事を思い出すと身が縮む。あれほど怖い思いをしたことはなかった。

翌朝、日の出とともに、気温が急上昇し始めた。灼熱の季節が近づいていた。
「そろそろ、北へ向かおう。」
荷造りをしながらキラが言うと、アランが答える。
「ああ・・そうだな。だが、海岸沿いを戻っても仕方ない。少し、内陸を行こう。緑の森がなければ、食糧もないだろうから・・。」
二人は、そこから真北へ向かう事にした。前方には、煙を吐く火山地帯が聳えている。そこまでの見える範囲すべては深い森だった。
「PCX、目指す方向は君に頼むよ。」
キラはPCXに言った。
「承知しました。・・今のところ、周囲5㎞以内に虫の反応はありません。」
「よし,行こう。」

6.沼地 [AC30第2部カルディアストーン]

彗星の破片が落下したことで、地球規模の地殻変動が発生し、大陸は昔とは全く違っている。
中央に広がる山岳地帯には、5千メートル級の活火山がいくつも連なっていて、山体の上半分は万年雪に閉ざされている。また、有毒ガスや噴火による降灰、噴石の危険もあった。
二人は、こうした火山を避けながら、できるだけ静かな平地を選んで北上する事にした。
「しばらくは高く飛んでいくしかなさそうだな。」
キラが森の様子を見ながら言った。
「いや、木々の梢ぎりぎりを飛んで行こう。そのほうが手がかりも見つけやすいさ。」
アランはそう言うと、一気に下降し始めた。
「アラン、危ないぞ!気を付けろ!」
キラも仕方なく、木々の少し上辺りまで高度を下げて進んだ。
PCXが言う。
「下にはたくさんの虫が潜んでいます。注意してください。あまりに多すぎて、攻撃してくる虫の判別ができません。」
「俺に、任せろ!」
アランはそう言うと、肩に装着したカニオンを構えた。ふっと昨日のアントリオンに襲われた光景が頭を過る。
すーっとアランは上昇し、キラより少し前に出た。そして、肩に装着したカニオンの照準を前方下に向けた。そして、少し左右に体を動かしながら、発射する。強いレーザー光線が断続的に発射されると、前方の森に大きな爆発音と炎が立ちあがっていく。真っ黒い煙とともに、虫たちが空に飛ばされる。これまでに見たことのない、残虐な光景だった。その衝撃が森の中に広がっていく。すると、キラたちの周囲に、異様な羽音が響き始めた。強い攻撃を受けた虫たちが怒っている。その響きは徐々に強まっていく。
前方に黒い塊が帯状に連なり、渦を描いて空に昇り、その先端がキラたちに迫ってきた。
「虫たちが大群で襲ってきます。あと10秒で渦に巻き込まれます。逃げましょう。」
PCXが言う。
「逃げるって・・言ったって・・・。」
黒い虫たちの帯がほとんど360度取り囲んでいる。
「上空です。可能な限り上空へ。虫たちの飛べる高さには限界があります。」
PCXはそう言うと、自ら上空を目指した。キラもアランも、PCXの後を追って上昇する。
「もっと、早く!もっと!」
PCXはさらにスピードを上げた。二人も必死にPCXの後について上昇した。黒い虫の帯はある程度の高さまで上昇するとそれ以上は追って来ず、なんとか逃げ切れたようだった。上空1000mほどに達していた。
「もう大丈夫でしょう。」
PCXの言葉に二人は安堵した。
「もう闇雲に攻撃するのは止めにしよう。今回は逃げ切れたが、そううまくはいかない。」
キラは前方に視線を遣って言った。
「ああ・・済まなかった・・・もうこりごりだ・・。」
アランも懲りたようだった。
しばらくは上空高く飛んだ。キラが、視線の先に、何かキラリと光ったものに気づいた。
「PCX、前方の山裾に、何かあるんじゃないか?」
キラが言うと、PCXが光を点滅させた。何か探っているようだった。
「もう少し近づいてみましょう。」
PCXはそう言うと、二人よりもスピードを上げて、キラが指差した方向へ飛んで行った。二人はそのままのスピードでPCXの後を追う。
目の前には煙を吹く火山がいくつも連なっている。光ったのはその山の裾野辺りだった。切り立った崖、幾筋もの白い滝、近づくと大きな壁となって立ちはだかっている。その裾野には緑の森が広がっている。
「この先に、大きな空洞が、地中にあるようです。」
戻ってきたPCXが言った。
「もしかしたら、ジオフロントかもしれない。」
アランが言うと、PCXも言った。
「その可能性が高いです。急ぎましょう。」

7.ジオフロント発見 [AC30第2部カルディアストーン]

少し飛行高度を下げ、ゆっくりと進んでいく。PCXが周囲の虫の様子も探りながら、さらにゆっくりと進む。
「この辺りから先に2kmほどの空洞が確認できます。」
キラが見つけたきらりと光ったものの正体は判らないままだったが、とりあえず、地上に降りてみる事にした。
ゆっくりと虫の攻撃に注意しながら下りていく。足元に、青い湖が見えた。
「あの辺りには虫はいないようです。あそこに降りましょう。」
PCXが先導して降りていく。
周囲2㎞ほどの小さな湖の畔に二人は降りたった。周囲には豊かな緑の森があるのだが、湖の周囲だけは草も生えていなかった。
「やけに静かなところだな。」
アランが言う。
「ああ・・生き物は何もいないような感じだ。・・」
キラは少し周囲の様子に違和感を覚えながら答えた。
「一休みするか・・。」
アランは、湖の畔に腰を下ろした。
朝からずっと飛び続け、かなりの距離を移動した。途中、虫たちに襲われ、少々疲れていたのか、寝転がってしまった。
キラは、湖の水辺まで行ってみた。
目の前に、鮮やかなブルーの水面が広がっている。だが、やはり何か違和感がある。手を伸ばし、水に触れようともう一歩足を踏み出した時だった。ジューっと足が焼かれるような痛みが走った。慌てて、水面から離れた。足元を見ると、履いていた保護靴の一部が溶けている。
もう一度、慎重に水辺に近づいてみた。そして、グラディウスを取り出して、水面に触れる。バチッと音がしてグラディウスが弾け飛んだ。グラディウスの先端が変色している。
「PCX、この湖の水質を分析できるか?」
キラが言うと、PCXは体から光を発して水面に当てる。しばらくするとPCXが言った。
「硫化水素濃度が極めて高い水です。ガスが発生すると危険です。すぐにここを離れましょう。」
「やはりそうか。きっとあの火山の火口に一つなんだろう。すぐに移動しよう。」
キラはそう言うとすぐにアランに声を掛けた。だが、アランは疲れて眠ってしまったようだった。
「アラン、起きろ!ここは危険だ。すぐに移動するぞ。」
アランは飛び起きた。そして、すぐに支度を整え、上昇してその場を離れた。その直後だった。地響きがして、湖の水面が急に持ち上がり、爆発するように弾け、白いガスが立ち上った。そして、再び静かになる。間欠泉のように、地下に溜まった硫化ガスが噴き出したのだった。
「地面に降りるとガスが流れてくるかもしれません。あの崖の中腹に避難しましょう。」
PCXが先導して、切り立った崖の中腹のくぼみに避難した。下を見下ろすと、同じような小さな湖があちこちにあって、どれもブルーの水を湛えていた。
「地下の空洞っていうのは、火山の作った穴を見誤ったんじゃないのか?」
アランが少し不満げな口調でPCXに言った。
「いえ・・地下の空洞は人工的な形状でした。火山の作った穴ではありません。ちょうど、この真下辺りから山の中に広がっています。」
それを聞いて、キラが崖から少し身を乗り出して下を見た。そこには、銀色に光る人工物が見えた。
「アラン、あれを見ろ!」
キラが指差し、それをアランが見た。
「あれは・・扉だ。チャンバーの扉だ。ジオフロント全く一緒だ。あそこに、入り口があるぞ。PCX、間違いないだろ?」
PCXが一旦飛び上がり、銀色に光る扉を確認した。
「間違いありません。ジオフロントの扉と同型のものです。」
長い旅の中で、ようやく、別のジオフロントの入り口を見つけたのだった。
二人もすぐに、扉の場所まで下りて行った。
キラが山裾にきらりと光ったものを見たのは、この扉に太陽の光が反射したものに違いなかった。

8.ジオフロント14 [AC30第2部カルディアストーン]

扉には「ジオフロント14」の文字が刻まれていた。
キラたちのジオフロントが73である事から見ると、随分と早い段階で造られたものと思われた。その当時は、おそらくこのような火山地帯ではなかったはずだった。
「おい・・開いているぞ。」
アランが言った。
キラたちのジオフロントの扉は、虫の進入や激しい気象からジオフロントを守るため、必要以上に固く閉ざされている。開閉するのも苦労していた。しかし、目の前の扉は半分ほど開いた状態になっていた。すぐ下にあるはずのチャンバーには、水が溜まっている。一見して、長い間使用されていなかったことが判った。だが、ジオフロントには何カ所も同じような通路があるはずだった。キラたちのジオフロントは、エナジーシステムの故障でごく一部のライフエリアだけしか使っていないが、正常に稼働しているのであれば、全長2kmに及ぶジオフロントの出入り口は相当の数があるはずだと考えられた。
「とにかく、中へ入ってみよう。」
キラが先に入った。足元には水が溜まっていた。その中を手探りで次の扉を探して、開く。溜まった水は空いた扉から次のチャンバーへ流れ落ちていく。そんな事を繰り返して行くうちに、徐々にチャンバーは大きくなる。
そして、いよいよジオフロント内部に入る扉まで辿り着いた。
「ちょっと待ってくれ、キラ。」
最後の扉に手を掛けた時、アランが言った。
「なあ・・もしも、この下に俺たちみたいに暮らしている人間がいるとして・・・温かく迎えてくれるかな?・・フローラを連れ帰った時、皆、一様に驚いて・・忌まわしき者と言って・・殺せとか騒いだよな・・・。」
急にアランが弱気になった。
キラもその時のことを思いだいた。
ここに住む人にとって、外から人が現れるなどという事は考えられない事に違いない。これだけの設備があれば、すでに、通路に侵入者があった事は、察知しているかもしれない。それが同じ人間などとは思いもしないだろう。目の前の扉を開いた瞬間に、殺されるかもしれない。キラもそう考えた。
「よし・・少し、ここで考えよう。」
「その方が良いでしょう。何か、別の方法で、中の様子を探れないか考えてみましょう。」
PCXも同意した。
「PCX、お前のセンサーで、中に人がいるかどうかわからないのか?」
アランが訊いた。
「先ほどから検知しようとしているのですが、ジオフロントの壁が遮蔽してしまって、全く分からないのです。ただ、中から何かの音声信号はキャッチできています。」
「じゃあ、人がいるって事か?」
アランが訊く。
「いいえ、そこまで判別できません。何かが動いているような音に近いようです。・・扉に耳を付けてみれば、聞き取れるかもしれません。」
PCXの言葉を聞いて、すぐにアランが扉に耳をつけた。アランには、ゴーンとかゴトンゴトンとか、とにかく何か低くて鈍い音が響いているようにしか聞こえなかった。
「他に、通路はないだろうか?ここは、外の扉の状態を見る限り、もう長年使っていないんだろう。他に、通路があるのかもしれない。探してみよう。」
キラが言った。
「そうか・・そこで人が出てくるのを待つのも良いかも知れない。」
キラも同意した。
「いえ・・他には通路はないでしょう。もともと、ジオフロントは正常な状態であれば、外界に出る事は必要としていません。キラ様たちのジオフロントも、食糧調達の為止む無く出入りしているのでしょう。だから、あれほど出入りしにくく造られているのです。」
「だが・・」とアランは食い下がった。
「それともう一つ。仮に、外に出るとしても、あの硫化水素ガスの湖があるのですよ。狩猟しようにも生き物など居ませんでした。それほどの危険を冒す必要はないはずです。地表に人が出てくることなどないと断言できます。」
PCXは、あっさりと可能性を否定した。

9.侵入 [AC30第2部カルディアストーン]

「やはり、ここから中へ入るほかなさそうだな・・。」
キラが言う。
「ああ・・だが・・今日はもう疲れた。明日にしないか?」
チャンバーの中では時間が判らなかった。アランは随分疲れていた。
「それが良いでしょう。もう外は日暮れを過ぎています。お二人は休まれる時間です。」
PCXも同意した。
「そうだな。ここでゆっくり休もう。久しぶりに、虫に襲われる心配のない場所だ。」
その日は夕食も摂らず、そのまま横になった。ようやくジオフロントを発見できたことで、二人はすっかり安堵し、ゆっくりと眠る事が出来た。
「おはようございます。」
二人は、PCXの声で起こされた。
久しぶりにぐっすりと眠ったアランは、ぱっと飛び起きて、意気揚々と言った。
「よし!いよいよだな!」
「ああ・・そうだな・・・。」
キラは、余り乗り気がしないような返事をした。
「実は、お二人に、残念なお知らせをしなければなりません。」
アンドロイドのPCXは、何だか、人間臭い、もったいぶった言い方をする。
「お二人が眠っている間に、中を調べてきました。・・・中は、真っ暗でした。そして、人の生命反応はありませんでした。ここに住んでいる人間はないようです。」
「そんな・・ここまで来たのに・・ようやく見つかったんだ・・それなのに・・。」
アランは、落胆して言った。
「やはり、ここも、エナジーシステムが故障したのか・・。」
キラが言うとPCXが言った。
「それはわかりません。・・少なくとも、オーシャンフロントは何の問題もなく動いていますから、エナジーシステム自体は欠陥があるものとは言えません。他の原因かもしれません。」
「とにかく、中を調べてみるしかないな。入ってみよう、アラン。」
キラはそう言うと、扉を開けた。足元には、真っ暗な空間が広がっている。
「キラ、待て。これを使おう。」
アランは気を取り直して立ちあがると、肩に付けたカニオンのスイッチを入れた。そして、何かダイヤルを動かした。すると、カニオンの発射口から眩いほどの光が溢れた。
「キラも肩に着けて行けば良いだろう。」
アランはそう言うとリュックの中からカニオンを取り出してキラの肩に装着する。
二人は、カニオンの光で前方を照らしながら、長い階段を見乍ら、アラミーラでゆっくりと降りて行った。周囲には特に異常は見当たらなかった。下の通路まで降りると、床から1m程度の高さを保ったまま、ゆっくりと前に進む。PCXは二人よりやや高い位置を同じスピードで進む。物音一つしない、大きな真っ暗な空間だった。
目の前に、四角い形の影が見えた。近づくとそれはセルツリーだった。キラたちの暮らしている場所とほとんど同じだった。だが、人影はなかった。
「おーい!誰かいないか!返事をしてくれ!」
アランが苛立つように叫んだ。アランの声は、遠くまで響いて、小さなコダマとなった。だが、何の反応もなかった。
キラはアラミーラを降りて、セルツリーの階段を昇る。そして、セルの中に入ってみた。まったく使用した形跡がない。新品そのものだった。幾つか、同じように入ってみたが、どれも同じだった。ここには人が暮らした痕跡はない。
「もっと奥へ行こう。セルツリーは別の場所にもいくつかあるはずだ。」
再びアラミーラに乗り、中央の広い通路を進んだ。
「アラン、通路の左右に幾つもブロックがあるはずだ。手分けして見てみよう。」
キラはそう言うとスピードを上げて右手のブロックに飛び込んで行った。アランは左側のブロックへ向かう。二人とも、必死に人の暮らした形跡を探した。
PCXは、センサーに何の生命反応もないことは判っている。だが、二人のしている事を無意味な事だとは言わなかった。二人が納得するまで、じっと待つことにした。


10.先人類の行方 [AC30第2部カルディアストーン]

ジオフロントに入ってから、3時間以上経っていた。二人はほとんどのブロックを探し、疲れ果てて、中央の通路に戻ってきた。
「だめだ・・何もない。」
アランはPCXの傍に座り込んだ。少し遅れてキラも戻ってきた。手に何か持っている。
「こんなものを見つけた。」
キラもPCXの傍に座り込むと、手にしていたものをアランに渡した。
「うわあ!」
受け取ったアランが驚いて放り投げた。それは、セルロイド製の人形だった。随分と古いものらしく、表面には小さなひび割れがあり、色も茶色くなってしまっている。投げ落ちたところで、手や足がバラバラになって砕けた。
「ここに人が居たのは確かだ。だが、相当、昔に違いない。彗星の破片が落下した当時の大昔のものかもしれない。」
キラの説明で、アランは改めて、人形を拾って見た。
「他には?」
「い・・いや・・・他と言っても・・・。」
キラは、アランの問いかけに少し答えるのを躊躇った。だが、意を決して言った。
「それが落ちていたところには、他にもたくさん・・いろんなものがあった。・・おそらく、昔の人の衣服とか言うのか・・たくさん固まって・・・そこには、人骨がたくさんあった。」
キラはそう言いながら、震えている。
「キラ様、大丈夫ですか?」
PCXが気遣うように言った。そして続けた。
「私も昨夜ここに入って調べました。この通路の奥に行くと、大きく崩れた場所がありました。ジオフロントの天井から壁にかけて亀裂が入っていました。地殻変動で壊れたのでしょう。そして、その壁は黄色く変色していました。火山性のガス、硫黄ガスが噴き出した痕でした。ここに避難していた人々は、一カ所に集まって、そのガスから身を守ろうとしたのでしょう。しかし、生き残る事はできなかった。大勢の人が、肩を寄せ合って亡くなったのでしょう。」
このジオフロントは地殻変動で機能を奪われ、中に避難していた数10万人の人々は命を落とした。地球上には数多くのジオフロントが作られたはずだったが、大陸の形が変わってしまうほどの地殻変動に耐えられなかったものも多かった。キラたちのジオフロントはまさに奇跡的に生き残ったと言えるものだった。
アランもキラも言葉が出なかった。
「キラ様、アラン様、ここの先人類は滅びてしまいましたが、幸い、コアブロックに被害はなさそうです。エナジーシステムはまだ生きているかもしれません。」
PCXは二人を励ますように言った。
「ここから、もう少し奥へ行ったところにコアブロックの入り口があるはずです。行ってみましょう。」
PCXは、床から浮かび上がり、二人を促した。
「そうだな・・目的はカルディアストーンなんだ。行こう。」
キラは立ち上がると、アランの手を取った。
「ああ・・。」
二人はPCXに先導されて、コアブロックの入り口を目指した。キラたちのジオフロントは、禁断のエリアのほぼ中央にコアブロックがあった。ここは、一番奥深い所にあった。PCXが話した通り、途中、天井と壁に大きな亀裂が入って大きく崩れていた。それを避けるようにして奥へ進む。
「止まって下さい!」
突然、PCXが空中に停まった。そして、赤く光る。これは、PCXが危険を察知した時に発する色だった。
「どうした?」
アランがPCXの隣に来た。
「その先を照らしてみてください。・・巨大な生命反応があります。・・動き始めました。・・ゆっくり動いています。」
アランが肩のカニオンの光で先を照らした。黒い帯状のものがゆっくりと動いているように見える。全体像は判らない。
「左の方にも反応があります。・・いいえ、目の前の黒いものと同じ、一つの生命体のようです。長い大きな帯の様な生命体です。30m程度の長さです。先端が徐々に近づいています。左です。頭です。」
PCXがそう説明するのと同時に、左の壁がガラガラと崩れてきた。
「ゴワーッ」

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